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I. ミツバチについての基礎知識
  —ミツバチとはどんな生物か?—

(2) ミツバチの生活

はじめに

    膨大な数の昆虫やハチの中でも、生物学的にもっとも研究されているのはミツバチである。人間に飼われているミツバチは、法律上は家畜に分類され、その規制を受ける。目的をもって人間に飼われていると、当然、よく観察がなされ、上手な飼い方についての知識も自然に蓄積されていく。つまり、ミツバチに関する膨大な知識は、養蜂の歴史の中で継承され拡大されてきたと言える。
    一方で、ミツバチは野生動物でもあるから、生息地域が広がり、多様な生活環境に適応していくうちに、行動上の適応変化だけでなく、遺伝的な変異も生じたと考えられている。最近は、ゲノム解読技術が進歩したことで、多様な類縁生物をDNAの塩基配列から比較する比較ゲノム学が盛んになり、これまでの行動学、生態学的な観察との間を、分子生物学によって関連づける研究が活発になってきている。最終的に双方の知見をつなぐのは、発生学である。すなわち、ミツバチを深く知ろうとすれば、その仲間たちの進化と発生を、彼らが生息する環境との関係においてしらべていくことになる。
    社会性はミツバチの大きな特徴であるが、ミツバチの場合、極めて興味深い様式をとる。すなわち、ミツバチは、一匹の女王バチから生まれてくる同腹の子供たちが、働きバチ、女王バチ、雄バチという3種類の構成員からなるコロニー Colony と呼ばれる群を形成して集団として生活している。それがある時期になると、新たに誕生する女王バチに巣を譲り、旧女王バチを中心に新しい環境に移動して、再び生活集団を構成していく、ということを繰り返す。この生活史は、季節、つまり太陽活動に依存しており、春から秋が活動期である。
    スズメバチも女王バチがコロニーをつくるが、ミツバチの新しい女王バチが働きバチと共に行動するのと違って、一匹で冬の間冬眠し、目覚めると単独で巣作りをし、そこで卵を産んで、子供であるコロニーの主要な構成員である働きバチの成長を待つ。その後、次世代につながる女王バチと雄バチを生み、これらのハチが外のコロニーからの女王バチや雄バチとの交配を終えてから、女王バチが越冬に入る。
    アシナガバチ、マルハナバチも同じように、越冬から覚めた女王バチが卵を産んでコロニーを形成する。
    コロニーで生活する社会性のハチにとって、巣の場所と構造は重要だと思われるが、これについても、ミツバチのように、木の枝のような開かれた空間と木の空洞のような閉空間を利用するもの、動物の住んでいた穴を利用するもの、土中に住むものなど、さまざまである。
    また、ハチといえば、針で刺すというイメージがあるが、こうしたハチは、細腰亜目の一部であるカリバチとミツバチの仲間で、相手に向かってくるのは、社会生活をしているアシナガバチ、スズメバチ、マルハナバチ、ミツバチに限られる(中村雅雄00)。針は、尾部にある産卵管が変化したもので、女王バチでは産卵管として卵を産む器官となるが、働きバチではこれが攻撃のための針となる。だから、刺すのはすべて雌のハチである。また、ミツバチは哺乳類に対して1回しか刺せないが、スズメバチは繰り返し刺すことができる。
    ミツバチは、花蜜や花粉など、植物から餌を集めるが、スズメバチのように、他のハチや他の昆虫を幼虫の餌とする肉食性のものもいるし、他の昆虫などに寄生するものや、植物を食べるものもいる。
    集団を守るという能力も、社会性昆虫であるミツバチの大きな特徴である。外敵から巣を守るのは働きバチである。この能力にも社会性が見られる。例えば、自分と同じコロニーでない個体(よその巣から飛来したミツバチ)を見わけて攻撃することや、鳥など、他の動物などの接近を防ぐなどの防御行動が観察されている。
    ミツバチを殺し、巣を破壊するスズメバチは、養蜂の大敵である。スズメバチの偵察隊がやってきた場合、セイヨウミツバチの場合は、オオスズメバチに対して1対1で戦い、個別に殺されていくが、トウヨウミツバチの場合、相手を巣に誘き寄せて多数でこれを取り囲み、自分たちのの筋肉を動かして発生させた熱(45度)でこれを殺してしまうという戦いをすることが知られている。この際、最初のミツバチは犠牲になるが、それは集団の生存を自らの命に優先する行為に見える。
    最後に、花を訪れ、花蜜や花粉などを採取するハチの行為は、植物の生育、果樹生産、農作物の生産に非常に重要である。受粉媒介者 Pollinator としてのハチは、アブなどとともに顕花植物の繁栄を支えているが、この共存関係を破壊するのが農薬の使用である。ニホンミツバチを使っている養蜂業者が、近年レタスやリンゴなどにつくカメムシの駆除に使われているネオニコチノイド系農薬の使用が大きな被害を出している、と訴えている。
    農薬の使用は、近年海外で大きな問題になっており、ミツバチが姿を消している現象、CCD(Colony Collapse Disorder、コロニー崩壊症候群、あるいは、蜂群崩壊症候群)の原因の一つにも挙げられているが、この現象だけでなく、養蜂、環境、農業、公衆衛生の視点からも、注意すべき課題である。

ミツバチの生活

巣の構成員

図1-5.巣の構成員
(Oldroyd06 を基に作成)

    社会性昆虫であるミツバチは、コロニー(群れ)Colony をなして生活している。群れは、巣 nest をつくってそこに宿り、構成員が役割を分担しながら生活している。役割分担により構成員は階級 Caste に分かれる。ミツバチの構成員は、 女王バチ queen、働きバチ worker、雄バチ droneである。数から言えば働きバチが圧倒的で、女王バチは普通一匹、雄バチは少数である。女王バチは、一つのコロニーの大部分の親である。働きバチは、産卵を仕事とする女王バチを支援し、卵から巣の構成員である子供が育つのを助け、巣を守り、分蜂という次のコロニー形成の用意をする。雄バチは、他のコロニーからの女王バチと交尾することに特化した構成員で、普段は何もしていないように見えるので、英語では drone(怠け者)と呼ばれている。
    以下では養蜂と関係の深いセイヨウミツバチについて主に説明するが、最近関心が高まっているニホンミツバチについても多少ふれる。これらは共に、木の空洞のような閉鎖空間に巣をつくる性質があるが、ミツバチの中には、木の枝のような開放された空間に1枚の巣をつくるものもいる。さらに詳しく言えば、この仲間には木の枝の下に巣をつくるもの(オオミツバチ)と、木の小枝を囲むように巣をつくるもの(コミツバチ)がいる。

巣の形態

図1-6.さまざまな巣の形態
(Oldroyd06 を基に作成)

    ミツバチの活動は季節や気候に依存しており、コロニー全体の様子も1年を単位として変遷する。季節や気候も生息地域や年によって違うので、全く同じことが繰り返されているわけではないが、生活のおよその様子は年毎に繰り返される。これが生活史となる。
    コロニーの中で、活動している女王バチは基本的に1匹、働きバチは数万(10,000-60,000)である。雄バチの数は状況によって異なっているが、およそ1%強(500-1000)程度である。女王バチの寿命は、2年から3年(あるいは5年)ほどである。女王バチは、コロニーに新女王(後継候補)を残して、新たな巣をつくる分蜂に参加するので、一生のうちに数回巣を換える可能性がある。

ミツバチの住まい
    巣 nest は一般的な言葉であるが、ミツバチの巣はとくにハイブ hive と呼ばれる。一般の野生動物の場合、巣は外界から区切られた安全な場所あるいは避難場所 shelter であるが、ミツバチの巣は、コロニー全体が生存していくための高度に組織化された構造と機能をもっている。つまり、そこは単なる居住、子育て、食料貯蔵の場所ではなく、コロニーに属するミツバチが集団として高度な知能を発揮するための基盤になっている。例えば、巣の素材であるワックス(蝋)は、単なる空間的な仕切りではなく、振動によって仲間同士がコミュニケーションする、人間社会で言えば、電線や光通信設備のような役割も果たしている。
    ミツバチの巣の基本構造は、断面が6角形の巣房 cell と呼ばれる部屋の集合体である巣板 honeycomb(あるいは単にcomb)である。cell は一端が閉じている管構造をしており、その中で卵が育ち、花蜜や花粉が蓄えられ、雄バチの居室ともなる。目的と必要に応じて、cell のもう一つの端(口)は閉じられることがある。断面が6角形の室は、互いに密着して2次元状に広がっている。その一続きが comb である。巣の中は、そうした comb が幾重にも並んだ構造をしている。
    巣房 cell の大きさ(径)は普通 5.2-5.4mmであるが、雄バチの飼育が必要になった時は、それより大きな 6.2-6.4mmの特別な cell をそれまでの comb の周辺に新たに数千ほどつくる。巣房の奥行きは、普通 10-12mmであるが、蜂蜜の貯蔵用には 37mmに達するものもつくられる。巣房は、地面に対して水平より多少(4-5度)上向きに並んでいる。だから粘性のある花蜜を詰めても、入り口からすぐにはこぼれ落ちにくいことになる。
    新しい群れ swarm が、新しい巣をつくる場所に到達すると、働きバチがただちに巣づくりを始める。働きバチは、腹部の節の間の腹側にある対になった8つの腺から、材料となる蜜蝋 beeswax を押し出す。この部分はワックスミラーと呼ばれる。これらの器官から押し出されたワックスは紙のような薄い片 scale となり、中脚と前脚で口のあたりに運ばれ、そこで大顎により、大顎腺 mandibular glands からの分泌物をまぜられながらこねられる。このようにして一つのワックスの薄片がつくられるには4分かかる。こうしたワックス100gで、8,000の巣房がつくられる。これには 125,000ほどのワックス薄片が使われる計算になる。
    コロニーが分蜂する時や、女王バチを交代させる必要がある時などは、10-20の長い円錐形の女王バチ育成用の cell をつくる。その奥行きは 20-25mmほどである。これらは、王台 queen cell と呼ばれ comb の縁に垂れ下がるようにつくられ、用がなくなると働きバチによってちぎり落とされる。
    巣作りを始める働きバチは、互いに密集して働く。これによって、ワックスの分泌と加工に最適な温度である摂氏35度が保たれることになる。巣房 cell づくりは極めてランダムに行なわれる。ひとつの cell が複数の働きバチの共同作業で作られ、それらの共同作業がいくつか並列に行なわれる。最初構築されるのは巣の屋根あるいは側面にあたる部分で、同時に数箇所から作業は始まる。このように全体の作業は、かなり適当に進められるが、できあがった構造は非常に正確であり、cell の壁の厚さはほぼ0.073mm、断面は正確に 120度の角度をもった正六角形で、comb 同士の距離は 0.95cmである。この距離は、ミツバチ同士が(背と背を合わせるようにして)それぞれの comb に取り付ける距離になっている。この距離は、ロレンゾ・ラングストロス L.L. Langstroth が可動式の枠を使ったミツバチの飼育箱をデザインした時、枠のついた面に巣板が形成された時、巣板同士となるようにと設定された距離である。彼のこの発明は近代養蜂を可能にした。今日の養蜂でも、基本的に彼の考案した箱が使われている。
    ひとつの巣(をつくる空間)には、複数の comb がつくられるが、それぞれの comb は、六角形の cell がびっしりと並んだ2層の構造で、その両面には開いている cell の口が並び、真ん中の面は各 cell の閉じた底面が互いに接している。
    これらの巣房には卵が生みつけられ、子育てが行なわれる。幼虫が成長すると、これらの開いている cell の面も蓋をされるように閉じられる。巣房は、花蜜や花粉を貯蔵するための場所でもある。1kgのワックスは 22kgの蜂蜜を保持する強度を有している。
    ミツバチは、体毛によって重力の方向を感知することができる。この感覚を失うと、働きバチは巣板をつくり始めることができない。

生殖行動
    ミツバチの交尾は野外の空中で行なわれるので、その実態はなかなか明らかにならなかったが、巣を飛び出した(未交尾の)女王バチを、研究者が気球に乗って追跡するという方法や、交尾のために集合する空間に高感度カメラを設置するというような方法で、集団交尾行動の様子が明らかにされるようになってきた。
    それによれば、まず、成虫になってから12日ほどして成熟した雄としての機能を備えるようになった雄バチが、野外の特定の空間に集まる。この場所は、drone congregate areas (DCA) と呼ばれる。これは言わば集団結婚(交尾)の場所であるが、雄を惹きつけるような見通しのよい野外の空間にあり、地上からの高さは 10-40mぐらいで、30-200mほどの広がりをもっている。ここに方々のコロニーからやってきた雄バチが空中を飛翔しながら、女王バチの到来を待ち構えている。ただし、雄は常に空中に留まっているわけではなく、地上の草や木の枝にとまって休息もする。また、雄の飛行集団も一箇所ではなく、移動することがある。飛行集団の数は、数百頭(匹)に達する。セイヨウミツバチの場合、この雄が集団飛行する場所は毎年決まっている。また、そうした飛行が見られるのは晴れた晴天の日の午後であるが、時間帯は地域で異なる。
    そこに、脱皮後1週間ほどの女王バチが飛んできて、集団の中の何匹かの雄と交尾した後、巣に戻る。この時、雄バチは、女王バチの大顎腺 mandibular gland から分泌される「女王バチ物質 queen substance」に誘引されて、女王バチを追跡する。この1回の飛行に要するのは、数分から1時間程度である。女王バチは、この交尾飛行を、体内の精子を貯留する器官(貯精嚢)が一杯になるまで数回続けるが、それが終わると巣を出ることはない。
    交尾した雄バチは、生殖器官を引きちぎられるため、空中で死に至る。幾度も集団飛行に参加しながら交尾できずにコロニーに戻った雄バチも、秋には用済みとなり、巣外に追い出されて死に至る。なお、空中で交尾するのはミツバチだけで、マルハナバチ、アシナガバチ、アリなどは皆地上(あるいは葉の上など)で交尾する。
    女王バチは、1回の交尾飛行で数匹の雄バチと交尾し、それを数日間続けるので、結局、数匹から10匹程度の(外部コロニーからの)雄バチの精子を貯留することになる。女王バチは、交尾ごとに体内に入った雄の精子の大部分を外に出して、一部のみを体内に残して、次の雄を受け入れる。これはできるだけ、多くの遺伝的な性質を貯めておく戦略と考えられる。こうした女王バチの交尾行動の機会は生涯に1回だけである。交尾飛行から戻った女王バチは、数日してから卵を産みはじめ、生涯それを続ける。女王バチの受精嚢に蓄えられた精子の数は約600万であるが、実際の受精に使われるのはその10%近くと推定されている。言い換えれば、女王バチは約60万個の卵を産めることになる。受精卵である雌バチ(女王バチあるいは働きバチ)を産む時には、数個の精子が使われる。
    女王バチは2年から3年(時に5年)ほど生きるが、精子はその間機能を保って保存されている。女王バチは、それらの精子を使って毎年平均20万個の卵を産む。とくに夏季には、毎分1個ないし2個、毎日1,000から2,000個の卵を産んでいく。これらの卵の総重量は、女王バチの体重に匹敵するほどである。
    ミツバチの交尾行動を知ることは、人工授精 instrumental insemination 技術開発の基礎になる。例えば、Susan Cobey, The extraordinary honey bee mating strategy and a simple field dissection of the spermatheca、Ohio State University, 2004. は、そうした視点から書かれている。コビー Cobey は、自らの人工授精専門会社 Honey Bee Insemination Service のウエブサイト (http://www.honeybee.breeding.com/scobey.html)で、交尾集団飛行DCAには、200から300ほどのコロニーから来た、10,000から25,000匹の雄バチが集まり、女王バチは平均10-20匹、場合によっては60匹の雄バチと交尾すると書いている。実際にどのくらいの雄バチがDCAに集まるかは、その地域の養蜂状況によるであろう。

性決定

図1-7.ミツバチにおける性決定

卵形成
    ミツバチの卵は、受精卵と未受精卵の2種類ある。受精卵は、女王バチが交尾飛行で溜め込んだ精子を使って受精した卵で、女王バチと精子を提供した雄バチからそれぞれ一組の遺伝子を受け継いだ、2倍体の32本の染色体をもっている。未受精卵は、1倍体(半数体)の16本の染色体をもっている。受精卵は働きバチか女王バチになり、ともに雌であるが、女王バチになるか働きバチになるかは餌の違いによって決められる。遺伝的には働きバチと女王バチは同じである(異父姉妹の可能性はある)。未受精卵は雄バチとなる。このように、ミツバチの性の決定は、ヒトのように性染色体によるものではなく、染色体数によって決定される半倍数性の様式をとる。
    女王バチが未受精卵である雄バチを産む時は、雄バチ用の大きめの cell の中に卵を産むが、稀に働きバチ用のやや小さな cell にホモの受精卵を産むことがある。この場合の受精卵は、2倍体の雄バチに成長できる潜在能力がある。ところが、実際には例外なく72時間以内に、働きバチに食べられてしまう。働きバチのこうした行動は、おそらく2倍体雄の幼虫が分泌する独特の物質に誘引される結果だと推察されている。この雄バチを人為的に取り出して育てると、生殖器が小さく、精子の形成が少ない不妊性の雄バチになる。

ミツバチの発育段階

図1-8.ミツバチの発育段階
(Diemer88, p15の図を基に作成)

産卵と子育て
    女王バチは、1つの cell の中に1個ずつの卵を産んでいく。それらは3種類の成虫に育つが、いずれになる場合も、その過程は4つの時期に区分される。まず、卵は幼虫 larva(またはgrub)となり、次に蛹(さなぎ)pupa となり、最後に成虫となる。蛹の時期は、形態的に2つの段階に分類される。
    女王バチは、粘着性の物質を分泌して、1.3-1.8mmの卵を清浄な cell の底に貼り付ける。3日後に卵は側面を曲げて、底に沿った幼虫となる。幼虫は餌を食べ、成長して、4回の脱皮を繰り返す。幼虫は、頭を cell の入り口に向け、尾部を底につけた状態で伸びていく。この幼虫の前段階で、開いていた cell の口は古い多孔性のワックスで閉じられる。この空間の中で幼虫はさらに成長し、cell を埋めた蛹となる。蛹はさらに脱皮して大人のミツバチとなる。その過程で、まず眼の形成がさらに進み、胸部 thorax が茶色になり、腹部 abdomen の形成がそれに続く。その後最後の脱皮があり、成体 imago になる。最後に働きバチが入り口の蓋を真ん中から食い破って、新しい個体を外に出す。この際、女王バチと雄バチの場合は、中からも蓋の外側を破ろうとする。最後の脱皮の殻は cell の中に残る。この間の発育期間は図1-8 のごとくであり、全成育期間は、女王バチが16日と最も短く、働きバチは21日、雄バチは24日である。
    子育てにおける給餌は、幼虫期から始まる。給餌は働きバチが、頭部にある分泌腺から幼虫の餌 brood food としてローヤルゼリー royal jelly (ビーミルク bee milk) 呼ばれる餌を与えることで行なわれる。それは3種類のハチのどれについても同じである。それ以後は、働きバチと雄バチには花蜜と花粉が与えられ、女王バチにはローヤルゼリー royal jelly が成虫になるまで与えられる。

卵、幼虫、蛹の形態

図1-9.卵、幼虫、蛹の形態
(Dade94, PLATE20の図を基に作成)

巣房の利用戦略
    ひとつのミツバチの巣の巣房の数は、10万から20万に達する。それらは、住居、子育て、蜂蜜の生産と貯蔵、花粉の貯蔵などだけでなく、コロニーに特徴的な識別情報の発信や、病原体の防御、通信基盤などとしても使われる。どの巣房をどの目的に使うかという様式には、ミツバチの高い知能がうかがえる。
    蜂蜜 honey と違って、花粉を貯蔵する巣房は蓋がされない。花粉は少量の花蜜と混ぜられて、強く圧縮されて塊か、粉状になって貯蔵される。花蜜を蜂蜜に変えるには、蒸発を伴う濃縮過程が必要である。それが適切に行なわれると、巣房の蓋はワックスで閉じられる。コロニーは一夏に30kgほどの蜂蜜を産生するといわれる。それらは主に、食料としてではなく燃料として利用される。その意味は、子育て室にあたる巣房の温度が摂氏35度に維持されなければならないため、働きバチがヒーターの働きをするからである。働きバチは、蜂蜜を摂取することで、普通は飛翔に使う胸の筋肉を、飛行目的にならないように激しく振動させることができ、その時生ずる筋肉の熱を子育ての室に伝える。こうした行動には、筋肉を振動させて熱を発生させられる、効率のよい食料が必要であり、蜂蜜はこの目的で摂取される。したがって、蜂蜜は本来の栄養分としての食料というより、ヒーター装置に変身した働きバチの燃料と見なせる。

巣内の領域

図1-10.巣内の領域
(菅原05, 図2-10の図を基に作成)

    こうした子育て室は巣板の中央にあり、それに隣接した巣房に花粉がつめこまれる。これは子育てする働きバチにとって便利な位置にある。それ以外の巣房は、蜂蜜で満たされていく。マルハナバチ、ハリナシバチ、アシナガバチなど同じ社会性のあるハチの仲間は、一つの巣房は一つの目的にしか使わないが、ミツバチは、状況によってどの巣房も、子育て、花粉貯蔵、蜂蜜貯蔵の目的に転用している。
    コロニーが一夏で、巣に 30kgの蜂蜜を蓄積するためには、花への採取に出掛ける働きバチが、毎回餌袋を満杯にして帰ってくるとしても、750万回もの飛行を繰り返さなければならない計算になる。その総距離は 2000万kmで、これは地球から金星までの距離の半分に匹敵する。この時、ミツバチが運ぶ花蜜の量は 40mgで、これは彼らの体重の半分に相当する。ひとつの巣房に貯蔵できる花蜜の量は1gであるから、それには 25回の採餌飛行が必要である。なお、花蜜の糖分は 40%であり、蜂蜜のそれは 80%なので、濃縮が必要である。
    花粉の採取飛行では、普通 15mgの花粉を、後脚の花粉かご pollen basket に保持して運んでくる。コロニーが1年間に採集する花粉は 20-30kgである。
    一般に、女王バチは、育成中の子供がいる巣房の近くの巣房に卵を産み付けていく。また、花蜜の搬入量は、いつも花粉の搬入量より多く、蜂蜜が巣房から取り出されて使われる回数は、花粉のそれより頻繁である。そして、子育て中の巣房近くにある巣房における蜂蜜や花粉の回転率は、遠くの巣房のそれの10倍に達する。こうした花粉はローヤルゼリーの産生に、そして、蜂蜜はすでに述べたように子育てのための巣房の暖房用燃料として使われる。これらの物質の搬送や貯蔵期間に較べると、子育て期間は長いので、巣房集合が全体でどのように利用されているかというパターンは安定に保たれている。

ミツバチの食料
    ミツバチは、花粉、花蜜を主な食料源にしている。ミツバチはこれら食材を体内に取り込んで、自らの分泌物とまぜるなどして、加工して2次的な食物を産生する。そうした加工品がローヤルゼリー(ビーミルク bee milk ともいわれる。幼虫の餌 brood food)、ハチミツ、ハチパン bee bread、などである。食物の加工には2種類の分泌腺が関与している。ひとつは、食物を部分的に咀嚼する唇につながる頭部の後方と胸部にある唾液腺 salivary gland であり、もうひとつは、子育てのための食物を産生する下咽頭腺 hypopharyngeal gland である。ミツバチは、花粉、花蜜という素材と同時に、2次的な加工食品とを組み合わせて摂取している。
    同じ受精卵から孵化した幼虫は、若い子育て係の働きバチが与える食物の違いによって、女王バチと働きバチにわかれていくが、この違いはローヤルゼリーが与えられるか否かに依存している。ローヤルゼリーは、ミツバチの頭部にある、下咽頭腺 hypopharyngeal gland と大顎腺 mandibular gland から分泌されるさまざまな物質の混合物である。働きバチになる幼虫に(5日以上)与えられるのは、白色、無色、黄色の成分が 2:9:3の比率で混合されている食物である。このうち白色の成分は大顎腺からの分泌物、無色の成分は下咽頭腺からの分泌物、黄色の物質はほとんど花粉である。これに対して、女王バチに成長する幼虫に与えられるのは、最初の3日間が、主に白色成分、最後の2日間は白色成分と無色成分が1:1の混合物である。したがって、女王バチは働きバチより多くの白色の成分(大顎腺からの分泌物)を摂っていることになる。ローヤルゼリーにはビテロジェニン vitellogenin のようなホルモン様物質も含まれている。
    ローヤルゼリーは、最初は卵から孵ったすべての幼虫に与えられるが、それが最後まで与えられるのは女王バチだけである。一方、働きバチの幼虫では、成長するとローヤルゼリーに、より多くの花粉と蜂蜜が混ぜられるようになり、幼虫の最後の段階では、ローヤルゼリーがまったく混ぜられなくなる。子育ての期間、1匹に与えられるローヤルゼリーの量は、25mg(25μL)である。ゆえに、もし巣で育つハチの数が年間20万匹とすれば、5Lのローヤルゼリーが産生されなければならないことになる。
    ハチパン bee bread とは、巣房に詰められ熟成された花粉のことである。ミツバチは、頭で花粉を巣房の中に押し込め、そこに蜂蜜をつめていく。そこで酵素による発酵が起こり、さまざまな糖が分解される。

蝋でできた通信網
    巣板にならぶ巣房の入り口は壁面のワックスより厚く盛り上がっている。これらの縁のつながりは、目が6角形の蝋でできた網のような構造物である。それに薄い巣房が裏打ちされている。蓋をされている巣房は、この網の目がつまっているところになる。この網では、子育てや、花蜜や蜂蜜、花粉などが入っている巣房の重さは違っている。それでも、6角形の目をもったワックスの網は、巣板の縁まで広がっていると見なせる。
    このワックス網は、230-270Hz(毎秒の回数)という固有の振動数をもった構造物である。ただし、この構造物が振動を伝えるためには、素材であるワックスにある程度の硬さが必要になる。なぜなら、温度が上がってワックスが柔らかくなると、振動は伝わりにくくなるからだ。その温度の上限は摂氏34度であり、子育て温度よりわずかに低い。
    ミツバチでも、木の空洞のような閉空間に巣をつくるセイヨウミツバチやニホンミツバチの住みかは暗闇である。そこで、これらのミツバチはワックス網の振動を利用して、仲間の間で通信する技術を身に付けていると見られている。この通信網の利用のひとつは、餌を求める花への飛行のために行なわれるダンスの振動を伝達することである。それは蓋のされた巣房の集まりからなる「広場」で行なわれるが、寒い朝などは、ダンスの振動がうまく伝わる温度になるように調整される。ただし、実際にこの通信網がどのように使われているかは、まだ十分解明されていない。
    温度調節だけではワックス網の機能が維持できない場合、ミツバチは素材であるワックスにプロポリス propolis を加えて補強する。それは、細い筋状にプロポリスをたらして巣房の縁や壁にこねていく作業となる。
    人工の養蜂で、巣板の縁が木枠になっていると、ワックスの通信網は正常に機能しなくなる。このような巣板でも、ダンスをするような場合、ミツバチはワックスでできた網と木枠の間に間隙を設け、ダンスの振動が正常に伝わるように細工することがある。

参考文献

    ミツバチの巣とそこでの生活については、養蜂家が詳しく、養蜂の視点からの著作は多いが、生物学の視点を重視した教科書は少ない。

  • 千葉県立中央図書館(監修)、あっ!ハチがいる!世界のハチとハチの巣とハチの生活、晶文社、2004
  • 小田英智、藤丸篤夫、ミツバチ観察事典、偕成社、1996.
  • Irmgard Diemer, BEES and BEEKEEPING, Merehurst Press, London, 1988.
  • Mark L. Winston, The Biology of the Honey Bee, Harvard University Press, 1991.
  • C.F. Davis, The Honey Bee Inside Out, Bee Craft Ltd, 2004.
  • Benjamin P. Oldroyd and Siriwat Wongsiri, Asian Honey Bees: Biology, Conservation, and Human Interactions, Harvard University, 2006.
  • Jürgen Tautz, Helga R. Heilmann, David C. Sandeman, The Buzz about Bees : Biology of a Superorganism, Springer, 2008.

Wikipedia のBeekeeping (http://en.wikipedia.org/wiki/Beekeeping)とHoney bee life cycle( http://en.wikipedia.org/wiki/Honey_bee_life_cycle) も参考になる。

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