山田養蜂場運営の研究拠点「みつばち健康科学研究所」が発信する、情報サイトです。ミツバチの恵み、自然の恵みについて、予防医学と環境共生の視点から研究を進めています。

山田英生対談録
予防医学 ~病気にならないために~

第十回「コレステロールと脂質異常症」

大切な栄養や、明日への元気を運ぶ血管。守ってくれるのは、あなた自身の食生活です。

食生活の洋風化とともに近年、急速に増えているのが脂質異常症(高脂血症)です。血液中の脂質であるコレステロールや中性脂肪が多すぎる病気で、放置すれば動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞や脳梗塞などを発症するリスクのある怖い生活習慣病の一つです。その主な原因は、過食や脂肪の摂りすぎ、運動不足、喫煙などの乱れた生活習慣などにあるといわれています。加齢とも関係する脂質異常

症を防ぐにはどうすればよいかー。老化と寿命研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(54)と山田英生・山田養蜂場代表(55)が脂質異常症や心筋梗塞などのメカニズムとその予防法などについて語り合いました。

増える脂質異常症

山田

職場の健康診断や人間ドックなどで、「コレステロールや中性脂肪の数値が高めです。注意してください」などと言われると、ドキッとしますね。自覚症状がないからといって、そのまま放置していると、動脈が硬くなって、血液の流れが悪くなる動脈硬化を引き起こしかねません。動脈硬化は、心筋梗塞や脳梗塞の原因にもなります。最近は、こうした脂質異常症の人が増えており、潜在患者も含めると、その数は2200万人にも上るといわれています(厚生労働省調査)。この病気は年を重ねるごとに増え、高齢者にとっては避けたい病気の一つでしょう。しかも、生命を脅かす心臓病や脳卒中につながる怖い病気であるのに、高血圧や糖尿病などと比べて軽視されがちです。脂質異常症とは、どんな病気ですか。

白澤

脂質異常症は、血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール・以下LDL)や中性脂肪などの数値が高いと動脈硬化になりやすいことから、これまでは、「高脂血症」と呼ばれてきました。しかし、HDLコレステロール(善玉コレステロール・以下HDL)が低くても動脈硬化になりやすいため、2007年から病名が「脂質異常症」と改められたのです。この病気は、簡単に言えば血液中のコレステロールや中性脂肪の数値が基準よりも悪い状態のことをいいます。

山田

コレステロールといえば、「悪玉」「善玉」などと呼ばれ、まるで勧善懲悪の時代劇「水戸黄門」の登場人物を思わせるような印象がありますね。さしずめ、悪玉は悪事を企てる「悪代官」、善玉はこうした悪党どもを懲らしめる「黄門様」といったイメージでしょうか。

白澤

確かにコレステロールや中性脂肪には、「体によくないもの」「動脈硬化を引き起こす犯人」といった『悪者』のイメージがつきまとうのは否めません。その一方で、人間の体にとって、なくてはならない大切なものであり、私たちが毎日を健康に過ごすうえで重要な役割を担っています。

山田

たとえば、どんな役割があるのですか。

白澤

私たちの体は、約60兆個の細胞からできていますが、コレステロールはその細胞を包む「細胞膜」の構成成分の一つとなっています。また、心身の活力を高めてくれる「副腎皮質ホルモン」や生殖機能をつかさどる「性ホルモン」などの成分にもなっているほか、腸での脂肪の消化吸収を助ける「胆汁酸」を構成する素材としても欠かせません。

酸化LDLに注意を

山田

コレステロールは、私たちの健康を保つうえでとても重要な役割を担っているのですね。コレステロールには、「悪玉」と呼ばれる「LDL」と、善玉と呼ばれる「HDL」などがありますが、どのように違うのでしょうか。

白澤

LDLは、肝臓でつくられたコレステロールを全身の組織へ運ぶ役割を担っていますが、血液中に増えすぎると、動脈硬化の原因となることから「悪玉コレステロール」と呼ばれています。でも、LDL値が高いというだけで動脈硬化を発症するわけではありません。
動脈硬化を起こす”犯人“は、活性酸素によって酸化された悪玉コレステロールなんです。つまり、血管壁の内側に入り込んだLDLが活性酸素によって酸化され、「酸化LDL」になると、免疫細胞の一種であるマクロファージがこれを「異物」とみなし、取り込もうとします。お腹がいっぱいになるほど酸化LDLを取り込んだマクロファージは死滅すると、血管壁の内部に付着し、その結果、血管が狭く硬くなり、血液が流れにくくなって、動脈硬化を引き起こすのです。LDLの酸化には、糖尿病や高血圧、喫煙なども影響してきます。

山田

なるほど、ここでも活性酸素が悪さをするのですね。

白澤

そうです。これに対し、HDLは、全身の組織から余分なコレステロールを回収し、肝臓に戻す働きをしているので、「善玉コレステロール」と呼ばれています。でも、HDLが不足するとコレステロールを十分回収できなくなり、動脈硬化の原因になりかねません。

貴重な”熱源“中性脂肪

山田

コレステロールは、多すぎてもよくないし、少なすぎてもダメ。結構複雑でわかりにくい成分ですね。では、中性脂肪には、どんな働きがあるのですか。

白澤

中性脂肪は、肝臓でつくられるほか、食事からも摂取され、体内に貯蔵される大事なエネルギー源といってもよいでしょう。血液を通じて全身の組織に運ばれ、使いきれずに余った分は、万が一に備えて皮下脂肪や内臓脂肪に蓄えられ、必要に応じて血液の中に供給され、使われています。

山田

中性脂肪というと、とかく「肥満の元凶」とか「ダイエットの天敵」といった「悪者」のイメージがつきまといますが、エネルギー源としての役割のほかにも、寒い冬に体を外気から守り、体温を一定に保つ”断熱材“としての効果や衝撃を受けた時の”クッション材“としての働きがある、と聞いたことがあります。

白澤

その通りです。でも、中性脂肪も増えすぎると、内臓脂肪が増加して肥満を招き、生活習慣病の原因にもなります。また、中性脂肪が多いと、HDLが減ってLDLが増え、動脈硬化を引き起こす原因にもなりますので、その摂りすぎには十分注意する必要がありますね。ちなみに、脂質異常症の診断基準では、LDLが1dL(デシリットル)当たり140mg以上を「高LDLコレステロール血症」、HDLが40mg未満の場合を「低HDLコレステロール血症」とし、中性脂肪は150mg以上を「高中性脂肪血症(高トリグリセライド血症)」と診断しています。

山田

動脈硬化を引き起こしやすいコレステロールは、どのようにしてできるので すか。

白澤

コレステロールが体内でつくられる経路は2つあります。ちょっと、専門的になりますが、一つは食事で摂る脂質や糖質に由来する「外因性代謝経路」、もう一つは肝臓でつくられる「内因性代謝経路」です。でも、体内のコレステロールの約3分の2は肝臓でつくられており、食事からつくられるコレステロールは、それほど多くはありません。それなら、「コレステロールや脂肪を多く含むものを食べても大丈夫か」と言えば、そうはなりません。やはり、コレステロールや脂肪を過剰に摂れば、動脈硬化を引き起こす原因になります。

山田

コレステロールの高い食品としては、鶏卵や肉の脂身、バターなどの乳製品がよく知られていますが、どれも日常の食生活では馴染みのあるものばかり。これらの食品が食べられなくなると、大好きな人には辛いですね。

白澤

コレステロールが多い食品だからといって、全く摂ってはダメというわけではありません。確かに普段コレステロールが高めの人は、コレステロールの高い食品はできるだけ控えたほうがよいでしょう。また、中性脂肪の高い人も砂糖などを減らすとともに、お酒も控えめにしたほうが無難かと思います。要は栄養バランスのよい食事をすると同時に、食物繊維やミネラルなどもしっかり摂ることですね。

怖い心臓病、脳卒中

山田

脂質異常症や高血圧、糖尿病などを治療もせずに放っておくと、動脈硬化を引き起こし、その先に待っているのが心臓病や脳卒中ですね。心臓病によって亡くなる人は年間約19万人、脳卒中によって亡くなる人は約12万人といわれ、がんに次いで死亡原因の2位、4位を占めています(厚生労働省2011年人口動態統計)。最近は、治療技術の進歩もあって心筋梗塞や脳梗塞を発症しても助かる人が増えてきましたが、たとえ一命をとりとめても手足のマヒや言語障害などの後遺症が残る人も少なくありません。さらに、寝たきりや要介護の状態になる人も多いようですね。

白澤

心臓病の中で、代表的な疾患といえば、狭心症と心筋梗塞が挙げられます。心臓の筋肉(心筋)に血液と栄養素を送っているのは、「冠動脈」ですが、動脈硬化が進むと、動脈内側の空洞(内腔)が狭くなり、心筋への血液の供給量が少なくなってしまいます。つまり、血液の流れる血管というパイプが細くなって、狭心症や心筋梗塞を引き起こすのです。狭心症は、心筋が酸素不足の状態に陥って胸が締め付けられるような痛みを生じます。これに対し、心筋梗塞は動脈硬化によって冠動脈が詰まり、心筋への血流が途絶えてしまうのです。そうなると、激しい胸の痛みを伴う発作に襲われ、早急に適切な治療をしないと生命に危険が及びかねません。

塩分、砂糖は控えめに

山田

一方、脳卒中には血管が詰まって血液が流れなくなる脳梗塞、脳の血管が破れて出血する脳出血や、脳の周りの血管から出血するくも膜下出血などがありますが、こうした病気は突然死を引き起こす危険性もあるだけに十分な注意が必要ですね。

白澤

特に中高年に多いのが「脳梗塞」と「脳出血」ですね。脳梗塞には、動脈硬化によって脳の血管が狭くなったり、塞がって血液が流れなくなるものや、心臓でできた血栓(血液の塊)が血流に乗って脳の血管に流れ込んで詰まらせるものなどがあります。血管が詰まって血流が途絶えれば、その先に酸素や栄養が行き届かなくなり、その部分の脳神経が死んでしまいます。一方、高血圧によって脆くなった脳の血管が破れて出血するのが脳出血で、出血した血液の塊が神経細胞を圧迫して壊死させるのです。

山田

心臓病や脳卒中にならないようにするには、どうしたらよいのでしょうか。

白澤

いずれも動脈硬化が最大の要因です。動脈硬化の主な原因となる高血圧症や糖尿病、脂質異常症、肥満などの生活習慣病を予防し、取り除くことが一番です。それには、栄養バランスのとれた食事を心がけるとともに、過食や塩分、砂糖、脂肪などの摂取をできるだけ控え、適度な運動や禁煙など生活習慣の改善に取り組み、肥満を避けることが重要でしょう。

白澤 卓二(しらさわたくじ)

1958年神奈川に生まれる。東京都老人総合研究所研究員等を経て現職。日本抗加齢医学会理事。専門は寿命制御遺伝子の分子遺伝学など。著書に「100歳までボケない101の方法」(文春新書)など多数。