山田養蜂場運営の研究拠点「みつばち健康科学研究所」が発信する、情報サイトです。ミツバチの恵み、自然の恵みについて、予防医学と環境共生の視点から研究を進めています。

山田英生対談録
予防医学 ~病気にならないために~

第十一回「メタボの元凶 内臓脂肪型肥満」

「恰幅がいい」は不健康の代名詞。まずは体重の5%減量を目指しましょう。

飽食の時代、肥満の人が増えてきました。特にお腹の周りに脂肪がつく「内臓脂肪型肥満」が目立っています。「肥満なんてたいしたことはない」と軽く考えていたら、後で取り返しがつかなくなります。肥満からやがて高血圧症や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病に陥り、さらに動脈硬化から最悪の場合は、心臓病や脳卒中など深刻な病を招く恐れがあるからです。メタボリックシンドロームの元凶である内臓脂肪型肥満を解消することが、健康長寿を目指すための第一関門といえるでしょう。老化と長寿研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(54)と山田英生・山田養蜂場代表(55)が、内臓脂肪型肥満の怖さとその解消法などについて語り合いました。

肥満は万病のもと

山田

最近、肥満の人をよく見かけるようになりました。昔は、太り気味の男性は「恰幅がいい」とか「押し出しがいい」などと頼りがいがある人の象徴のように言われたものです。ところが、今は逆に「メタボ、メタボ」と不健康の代名詞のように言われるようになり、肩身の狭い思いをしている人もいるのではないでしょうか。確かに肥満は、生活習慣病の原因の一つであり、特に内臓脂肪型肥満は、糖尿病や高血圧症、脂質異常症などと深く関わり、メタボリックシンドロームの元凶ともいわれています。

白澤

日本人の肥満も20年前に比べ、男性は1.5倍に増え、男性の約3割、女性の約2割が肥満といわれています。肥満には皮下脂肪型と内臓脂肪型があり、最近、特に増えてきたのが内臓脂肪型です。この肥満が怖いのは、糖尿病や高血圧症、脂質異常症などの原因となり、動脈硬化から心筋梗塞や狭心症、脳梗塞、脳出血など生命を脅かす重大な病気を引き起こす危険性があるからです。それだけではなく、肥満の人は、がんや認知症などにもかかりやすいことが最近の研究でわかってきました。

山田

まさに「肥満は万病のもと」といえなくもないですね。こうした肥満が増えてきた背景には、肉類を中心とした食生活の洋風化や運動不足などライフスタイルの変化があると思います。職場ではパソコンなどの普及でデスクワークが増え、隣の同僚とさえメールでやり取りするなど体を動かす機会がめっきり減りました。

白澤

都会の駅には、必ずエスカレーターやエレベーターがついており、動く歩道まであるでしょう。交通機関の発達はめざましく、田舎では車が足代わりとなっています。家事もボタン一つ押せば、電化製品が何でもやってくれる時代となりました。現代社会は、自ら体を動かさなければ太るような仕組みになっています。

山田

それでも、海外の国々と比べると、日本はまだ肥満の人は少ないようですね。日本では肥満の目安であるBMI*が25以上の場合を「肥満」としていますが、OECD(経済協力開発機構)の発表では、日本の成人人口に占める肥満の割合は、男女とも3%で加盟33カ国中、最も低かったと新聞に載っていました。ちなみに、加盟国の平均は女性17%、男性16%で、米国にいたっては女性36%、男性は32%の人が肥満だそうです。

遺伝の影響は約30%

白澤

まさに肥満大国アメリカ。約3人に1人以上が肥満ということになりますね。

山田

いつでしたか新聞にハンガリー政府が肥満防止のため、スナック菓子や清涼飲料水など糖分や塩分の高い商品に課税し、デンマークもバターやチーズなどを対象に「脂肪税」を導入する、との記事が出ていました。今や肥満対策は世界的にも待ったなしの緊急課題です。肥満は食生活や運動などの生活習慣が大きく影響しているといわれますが、肥満家系などの遺伝的な影響はないのでしょうか。

白澤

よく「私が肥満なのは、家系だから」などと言う人がいますよね。でも、肥満に占める遺伝の影響の割合は約30%で、残りの約70%は食生活や運動などの環境的な要因によるものといわれています。たとえば、アメリカ大陸の先住民、ピマインディアンとタラフマラインディアンの生活様式をもとに、環境が肥満に及ぼす影響を調べた興味深い研究があります。どちらの先住民も、20世紀初頭まで野外生活を送り、それまで肥満や高血圧症、糖尿病、脂質異常症などを発症する人は、ほとんどいなかったそうです。
ところが、ピマインディアンは、政府が用意した住宅で生活し、ハンバーガーなどのファストフードを食べるようになってから肥満の人が増え始め、今ではその中の多くの人たちが極度の肥満を伴うメタボリックシンドロームであるといわれています。もともと彼らは、太りやすい遺伝子を持ってはいたものの、野外生活をしていた時は、それほど太ってはいなかったようです。

看過できないメタボ

山田

結局、私たちと同じモンゴロイドである先住民が持っていた「倹約遺伝子」による遺伝的要因に加え高脂肪、高カロリーの食生活が彼らをメタボにしてしまったのですね。

白澤

その通りです。一方、タラフマラインディアンは、野外で暮らす生活様式を変えようとはしませんでした。その結果、彼らは今も、スリムな体型を維持し、血圧、コレステロール、中性脂肪、脂肪摂取率のどの数値をとっても正常でした。この研究結果からいっても、私たちのライフスタイルが健康にいかに多くの影響を及ぼしているかがよくわかります。

山田

同じことはオーストラリアの先住民、アボリジニについてもいえますね。彼らの食事と健康に関する調査を行った知り合いの医学者から聞いた話では、アボリジニはもともと、メルボルン近くの海岸沿いで暮らし、移動しながら木の実を拾い、貝などを食べて生活していたそうです。
ところが、18世紀以降、入植してきた欧米人に土地を奪われ、「保護」の名の下に居留地に押し込められ、小麦粉と砂糖、塩、ラードなどだけを与えられて生活するようになりました。現在は、都会で暮らしながらファストフードなどを食べている人が多く、当然健康状態はよくありません。40歳代では、3人のうち2人が高血圧症や糖尿病に悩まされ、平均寿命も白人より20歳近く短い、と聞きました。健康に与える食生活や生活様式の影響は本当に大きいですね。

白澤

今、話題になっているメタボリックシンドロームも、糖質や脂質、タンパク質が正常に代謝されない状態、つまり代謝異常によって内臓脂肪が蓄積され、生活習慣病や生命にかかわる重大な病気を引き起こすリスクのある疾患といえるでしょう。診断基準では、腹囲が男性85cm、女性90cm以上に加え、高血圧や高血糖、脂質異常のうち、2つ以上を併せ持っていたらメタボリックシンドロームと診断されます。

山田

この内臓脂肪型肥満こそ、高血圧や高血糖、脂質異常の共通の原因であり、諸悪の根源だったわけですね。食事や運動などでこの根源を断てば、こうした生活習慣病にならなくて済むのですが、市町村が運営する国民健康保険によるメタボ健診(特定健康診査)の受診率の低さからもわかるように、自分が「メタボ」とわかっていても、「たいしたことはない」と軽く考えている人が実に多いような気がします。

白澤

メタボを軽く考えているとしたら、それは大きな間違いです。「死の四重奏」と恐れられているように、内臓脂肪型肥満に糖尿病や高血圧症、脂質異常症が複数重なり合うと加速度的に動脈硬化が進行し、最終的には心筋梗塞や狭心症といった生命にかかわる動脈硬化性疾患を引き起こしかねないからです。

注目の超善玉物質

山田

こうした動脈硬化や生活習慣病の予防・改善に有効な物質として最近「アディポネクチン」が注目されていますが、この物質にはどんな働きがあるのですか。

白澤

アディポネクチンは、内臓脂肪から分泌される超善玉物質で、血管にできた動脈硬化を発見しては修復したり、ブドウ糖が筋肉や細胞内でエネルギー源として効率よく使われるようにするなどの働きを持っています。わかりやすくいえば、動脈硬化を抑制する作用や高血圧症、糖尿病などの予防・改善に大きな力を発揮する作用があるといえますね。
ところが、内臓脂肪が過剰に増えると、アディポネクチンの分泌量が減り、ブドウ糖が効率よく利用できなくなって血糖値が上昇し、糖尿病のリスクが高まる可能性があります。また、すい臓から分泌されるインスリンの効き目が悪い状態、つまり「インスリン抵抗性」によって腎臓でのナトリウム(塩分)の排出機能が低下し、血圧が上昇することだってあります。

山田

せっかく、健康によいアディポネクチンを持っていても、肥満になってその力を十分に利用できなければ、実にもったいない話ですね。メタボは軽く考えないで、その怖さを知って適切に対処する必要がありそうですね。

白澤

メタボリックシンドロームは、「健康」という歯車を逆回転させるだけでなく、金銭面での負担も大きいですよ。ある調査によると、メタボの男性1人当たりの年間入院医療費は平均で36021円と、メタボでない人の1.3倍、外来医療費も約1.4倍かかるとのデータがあります。さらに、メタボの女性は、男性よりもっと医療費がかかっているようです。増える一方の国の医療費や患者さん個人の医療費を抑えるためにも、メタボリックシンドロームを予防することがいかに重要であるかがわかるでしょう。

減量は、じっくりと

山田

メタボの予防、その元凶である内臓脂肪型肥満を解消するには、簡単にいえば、摂取エネルギーを減らし、消費エネルギーを増やして体重を落とせばよいわけですが、減量に取り組む場合、どの程度の減量を目標にすればよいですか。

白澤

私は、肥満の患者さんには「生活習慣病の予防、改善のためには現在の体重の5%を減量の目標にしましょう」とアドバイスしています。たとえば、体重80kgの人なら、4kgの減量を目指すことになりますね。でも、いきなり4kgを減らすのは、健康上よくないので、1カ月に1kg前後を目安に4カ月から半年かけてじっくり減量するのがよいと思います。「1カ月に5、6kg痩せたい」というように減量の目標が高すぎると、途中で挫折したりして長続きしません。

山田

摂取カロリーを減らそうとするあまり、栄養素のバランスを崩してしまっては、元も子もありません。確実に達成できる目標を立て、減量効果を体感しながら、少しずつ減量していくのが長続きのコツなのですね。

白澤

そうです。結局、肥満を解消するには、それまでの食生活を改善し、運動を習慣化することです。ダイエットを継続するには、頑張りすぎはよくありません。減量に何回も失敗する典型的なタイプが、この「頑張りすぎの人たち」です。友だちとの飲み会で、つい飲みすぎたり、食べすぎたりしても、また明日から仕切り直せば、取り戻すこともできます。焦らずにじっくりと時間をかけて減量することですね。

* BMI(体格指数)=[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]

白澤 卓二(しらさわたくじ)

1958年神奈川に生まれる。東京都老人総合研究所研究員等を経て現職。日本抗加齢医学会理事。専門は寿命制御遺伝子の分子遺伝学など。著書に「100歳までボケない101の方法」(文春新書)など多数。