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山田英生対談録
予防医学 ~病気にならないために~

第十回「がんの原因になる。予防にもなる。食生活の選択が分かれ道です。」

食べ物に強い予防効果

山田

がんも、生活習慣病の一つと考えれば、健康的なライフスタイルを確立し、がんを寄せ付けない体をつくっていくことも、立派ながんの予防法でしょう。
そのカギとなるのが、日頃からの食生活といってもよいのでしょうか。

渡邊

その通りです。前にも、お話しましたが、がんの原因の35%は食生活、30%は喫煙であることがわかっています。つまり、がんの65%は、食生活と喫煙が原因であり、この原因を取り除いた生活を送っていれば、3分の2以上のがんは防げることになりますね。でも、食べ物の予防効果を考えたら、それ以上になるのではないでしょうか。私は、禁煙をしっかり守り、賢い食品選びや健全な食習慣を続ければ、大半のがんを予防できるのではないかと、思っています。それほど、食べ物には、強力な予防効果があるのです。

山田

国立がんセンターが提唱する「がん予防12か条」には、「バランスのとれた栄養を摂る」「食べ過ぎを避け、脂肪を控える」など、全12か条のうち8か条が食生活や食習慣に関連したものであり、いかにがんと食べ物との関係が深いかを物語っているようです。特に食生活の影響が大きいのは、どこにできるがんですか。

渡邊

胃がんや大腸がんなど消化器のがんは、以前から食べ物との関連性が指摘されていましたが、最近は、乳がんや子宮体がん、前立腺がんなども食事と関係のあることがわかってきました。

避けたい肉の過剰摂取

山田

肉類などの動物性脂肪を摂り過ぎると、がんに罹りやすくなると、よく言われていますが、本当でしょうか。

渡邊

がんのリスクを高める可能性は、否定できませんね。例えば、大腸がんの場合、動物性脂肪を大量に摂ると、それを分解するために胆のうから胆汁がたくさん分泌されますが、胆汁に含まれる胆汁酸の中には、発がん性のある物質もあり、これが大腸内に長くとどまると、大腸がんが発生しやすくなるのです。だから、便通をよくする食物繊維を豊富に含む野菜や穀類、豆類、海藻などをたくさん食べることが、大腸がん予防につながると言ってもよいでしょう。最近、若い人を中心に肉類、乳製品などを摂る人が増え、食の欧米化が進んでいますが、これに伴って欧米に多い乳がん、前立腺がんなども日本人に増えてきました。

山田

塩分の摂り過ぎも、がんと深い関連があると言われています。塩分といえば、すぐ高血圧を連想しがちですが、意外と知られていないのが、胃がんの原因の一つであること。最近こそ減ってきたとはいえ、それでも胃がんは、今でも年間約10万人が発症する日本人の代表的ながんですよね。やはり、塩分の摂り過ぎが影響しているのでしょうか。伝統的な日本食は、バランスのとれた長寿食として世界的にも注目されていますが、唯一の泣きどころが塩分の多い点。日本人の1人あたりの塩分摂取量も、1日平均で約11gですが、これをWHO(世界保健機関)が目標とする6gくらいに減らせれば、高血圧も胃がんも大幅に減ると、聞いたことがあります。

塩分過多も危険因子

渡邊

胃がんの原因としては、ヘリコバクター・ピロリ菌や喫煙などが知られていますが、食塩も胃がんの危険因子の一つであることがわかっています。食塩そのものは、発がん物質ではないのですが、塩分を摂り過ぎると胃の粘膜の細胞に傷がつき、そこに発がん物質が取り込まれて、がん化しやすくなるのです。和食には醤油や味噌がつきものですし、保存食として漬物や塩魚、塩辛なども昔から日本人は、よく食べてきました。こうした塩分過多の食生活が、脳卒中や胃がんの多かった理由の一つと言えるでしょう。

山田

長寿の島として知られる沖縄県は、かつての塩分摂取量は10g以下で、東北地方の塩分摂取の多い地域の半分以下ということもあったようです。そのために、がんや脳卒中、心臓病による死亡率が、全国で最も低い時もありました。沖縄には本土のように塩を大量に使う漬物を食べる習慣がないのに加え、柑橘類のシークヮーサーを調味料代わりに使うことで塩の使用を控えることができた、と聞きました。

渡邊

まさに、生活の知恵と言ってもよいでしょう。外食やデパ地下などの惣菜にしても、保存性を高めるため、味付けを濃くしてありますから、注意する必要がありますね。ラーメン屋でラーメンを食べる時も、スープを全部飲むと、それだけで5gほどの塩分を摂取したことになってしまいますから、半分は残すようにした方がよいですね。家庭でも、味噌汁は、具だくさんにすると汁も減り、塩分の排出を促すカリウムもとれるのでよい方法です。醤油なども直接、料理にかけず小皿に取って、少しずつ浸して食べれば、減塩につながります。

酒も適量なら百薬の長

山田

お酒は「百薬の長」とも言われる半面、飲みすぎると肝臓がんになるともよく言われます。やはりお酒を飲みすぎると、がんになりやすいのでしょうか。

渡邊

確かに適量であれば、一日の疲れを癒したり、がん細胞をやっつけてくれるNK(ナチュラルキラー)細胞の働きを活発にしてくれます。その点では確かに、「百薬の長」と言えるのですが、飲み過ぎれば、口腔、咽頭、喉頭、食道の各がんやアルコール性肝硬変による肝臓がんのリスクを高めることは間違いありません。例えば、毎日1合以上の酒を30年以上飲み続けた人の食道がんになる確率は、飲まない人の8.2倍にもなる、とのデータがあるほどです。まして、お酒を飲みながらたばこを吸えば、たばこに含まれる発がん物質の多くがアルコールに溶けて吸収されやすくなり、がんのリスクをさらに高めるでしょう。

山田

「お酒もほどほどに」ということですね。脂肪や塩分、アルコールなどの過剰摂取を控えることが、がんリスクを下げることがよくわかりました。では、積極的に摂って、がんを防げる食べ物には、どんなものがありますか。

渡邊
野菜は1日350g、果物は100g

大豆・カボチャ・トマト・ニンジン・スイカ・ミカンなど野菜は1日350g、果物は100g

なんといっても野菜や果物ですね。長年の疫学研究でも野菜や果物には、がんを防ぐ働きがあることがわかっています。野菜の何ががんを防ぐのかと言えば、植物がつくる化学物質のファイトケミカルに、がんを抑える効果があるためです。ファイトケミカルは、ギリシャ語で「植物」を表す「ファイト」と英語の「ケミカル」を組み合わせた造語ですが、その多くは、色素や香り、苦味などの成分で、これまでに数千種類の成分が判明しています。この中で、がんを抑制する代表的なファイトケミカルといえば、ポリフェノール、カロテノイド、イオウ化合物、テルペン類、β―グルカンなどが挙げられますね。

山田

ポリフェノールといえば、赤ワインやブルーべリーに含まれるアントシアニン、お茶の中に含まれるカテキン、大豆のイソフラボンなどが浮かびますが、どんな点ががんの予防によいのでしょうか。

渡邊

何といっても、抗酸化作用が注目されています。がんは、遺伝子のDNAに傷がつくことで起こりますが、その犯人がフリーラジカル(不対電子をもつ不安定な原子や分子)や活性酸素で細胞のさまざまな部分を障害し、がんのみならず動脈硬化や老化を招きやすくなります。その点、ポリフェノールを含む野菜や果物などを体内に取り込めば、遺伝子や細胞が有害なフリーラジカルによって酸化され、傷つけられるのを防いでくれます。その結果、がんの発生を予防し、がん細胞の増殖を抑えてくれるのです。

がんを防ぐ大豆食品

山田

大豆に含まれるイソフラボンは、血圧やコレステロールを下げるのに効果があることは、よく知られていますが、がんにも予防効果があると聞きました。

渡邊

私がイソフラボンについて研究を始めたのは、日本人が欧米人に比べ、大腸がんや子宮体がん、前立腺がんが少ないことに疑問を持ったのがきっかけでした。研究の結果、大豆を食べる人ほどこれらのがんが少なく、大豆の中のイソフラボンが予防効果をもつことがわかりました。 イソフラボンの一種であるダイゼインやゲニステインは、「エストロゲン」とよく似ており、体内に入るとさまざまな内分泌環境を改善して、乳がんや、前立腺がんなどを防いでくれる働きのあることがわかりました。がん組織は大きくなるにつれ、周囲に毛細血管をつくって、酸素や栄養を吸収して増殖していきますが、ゲニステインには、この血管をつくるのを抑える働きがあることもわかってきました。

山田

豆腐や納豆、味噌汁、豆乳などの大豆食品を積極的に食べるとよいわけですね。

渡邊

そうです。最近、日本人の食生活が変わってきて、昔のように大豆を食べなくなり、そのせいで大腸がんや乳がん、前立腺がんなどが増えてきたと思います。イソフラボンやポリフェノールのほかにも、例えばニンジンやカボチャに含まれるβ―カロテン、トマトやスイカなどのリコペン、ミカンのB―クリプトキサンチンなどにもがんの予防効果があります。

山田

こうした野菜や果物は、どのくらい摂ったらよいのでしょうか。

渡邊

旬のものを、野菜は1日350g、果物は100gを目途に、そしてコメは玄米、おかずは「まごたちわやさしい」(豆、ごま、卵、乳類=ちち、わかめ、野菜、魚、しいたけ、いも)をまんべんなく食べ過ぎないように摂るのがよいでしょう。

渡邊 昌(わたなべ しょう)

1941年平城生まれ。医学博士。慶応大学医学部卒。国立がんセンター研究所疫学部長、東京農大教授、国立健康・栄養研究所理事長などを経て、現在生命科学振興会理事長。日本総合医学会会長。「食事でがんは防げる」など著書多数。

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