研究成果のご紹介

蜂蜜は、皮膚の傷をどのようにして治癒するのかA
〜表皮と真皮の両方に作用する可能性〜

東ピエモンテ大学(イタリア) エリア・ランツァート(2012年度採択)

イタリア・東ピエモンテ大学のエリア・ランツァート博士らの研究グループは、これまでに、蜂蜜による創傷治癒のメカニズムのひとつが、“再上皮化”、すなわち、“皮膚の表面(表皮)に存在する「角化細胞(ケラチノサイト)」が移動して、傷口を塞ごうとする過程”の促進であること、そしてその過程に関わるタンパク質や遺伝子の動きが、蜂蜜の種類によって異なることを明らかにした(詳しくは、「蜂蜜は、皮膚の傷をどのようにして治癒するのか」参照)。

そこで今回の研究では、蜂蜜が創傷治癒の際に、皮膚の内側(真皮)に存在する「線維芽(せんいが)細胞」に作用するか、また、角化細胞に対する作用と同様に、蜂蜜の種類によって違いがあるかを確認した。線維芽細胞は、皮膚が傷つくと遊走(組織内の移動)して傷口に集まり、コラーゲンを合成して他の細胞が活動するための足場を作ったり、瘢痕(はんこん:傷跡、ケロイド、ひきつれ等の総称)のもととなる組織を収縮させて傷口を小さくしたりするなど、創傷治癒の過程において重要な役割を果たす。

ランツァート博士らは、シート状に培養したヒト線維芽細胞に針状のチップを用いて引っかき傷をつけ、蜂蜜を添加しない状態、あるいは、アカシア蜂蜜、ソバ蜂蜜、マヌカ蜂蜜を0.1%の濃度になるようにそれぞれ添加した状態で24時間培養。陽性対照として、強力な創傷治癒促進剤である血小板溶解液を20%の濃度で添加した。そして、引っかいた直後の傷の幅と培養後の傷の幅から、傷口の塞がった割合(創傷閉鎖率)を算出した。

その結果、すべての蜂蜜が無添加の状態よりも著しく高い創傷閉鎖率を示し、特に、アカシア蜂蜜とソバ蜂蜜は、傷口を塞ぐ作用が強いことが分かった(図)。また、別の試験方法にて、アカシア蜂蜜とソバ蜂蜜が、血小板溶解液と同程度の高い割合で、線維芽細胞の遊走を引き起こすことも示された。

すべての蜂蜜が無添加の状態よりも著しく高い創傷閉鎖率を示し、特に、アカシア蜂蜜とソバ蜂蜜は、傷口を塞ぐ作用が強いことが分かった

さらに詳細な作用メカニズムを調べたところ、強い創傷治癒作用を示したアカシア蜂蜜とソバ蜂蜜が、マヌカ蜂蜜とは異なり、線維芽細胞からの3種のインターロイキン(IL-4, 6, 8)の分泌を著しく促進したことが分かった。インターロイキンとは細胞間の情報伝達を担うタンパク質で、創傷治癒の過程においても様々な働きをすることが報告されている。以上の結果から、アカシア蜂蜜とソバ蜂蜜は線維芽細胞の遊走を引き起こすとともに、インターロイキンの分泌を促して創傷治癒を促進すると考えられる。

ランツァート博士らのこれまでの研究によって、アカシア蜂蜜とソバ蜂蜜が、皮膚の表皮と真皮の両方の細胞に作用して高い創傷治癒効果を発揮することが示された。今回の研究成果が、日常的な怪我などの傷の治療に役立つ可能性がある。製品化を目指した応用研究の実施が期待される。

参考文献

  • Ranzato E et al., Burns & Trauma, 1(1), 32-38 (2013)

PAGE TOP