インフルエンザの予防に蜂蜜が役立つ可能性A
〜マヌカ蜂蜜成分の優れた抗ウイルス活性〜
長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 渡辺 健(2011年度採択)
国内で12月から3月にかけて流行する季節性のインフルエンザは、世界的にも流行が繰り返され、誰もが罹患する疾病である。既知の対処法として、ワクチン接種による予防や抗インフルエンザウイルス薬による治療が知られているが、薬剤に対する抵抗性を獲得した株(薬剤耐性株)の出現などの問題が生じており、新たな予防・治療法の開発が望まれている。
これまでの研究において、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科の渡辺健助教らの研究グループが蜂蜜の抗インフルエンザウイルス活性(以下、抗ウイルス活性)の評価、及び、既存治療薬との併用効果の検証を行った結果、マヌカ蜂蜜で特に高い効果を示すことが明らかとなった(詳しくは「インフルエンザの予防に蜂蜜が役立つ可能性」を参照)。そこで今回、渡辺助教らは、抗ウイルス活性を示す可能性がある機能性成分としてマヌカ蜂蜜に高濃度に含まれ、抗菌活性を持つ物質として知られるメチルグリオキサールに着目し、検討を行った。
まず、渡辺助教らは、メチルグリオキサールがインフルエンザウイルスに対して抗ウイルス活性を示すか調べた。培養細胞にメチルグリオキサールを添加し、さらにインフルエンザウイルスを感染させた。その結果、添加するメチルグリオキサール量依存的に、ウイルス感染による細胞死が抑制され、細胞の生存割合が増加した(図:参考文献より引用改変)。これより、メチルグリオキサールが抗ウイルス活性を持つことが明らかとなった。
次に、メチルグリオキサールがインフルエンザウイルスの感染・増殖のどの過程に作用するか検討した。培養細胞に対し、メチルグリオキサールを「ウイルス感染前の細胞」「細胞に感染させる前のウイルス」「ウイルスを感染させた時の細胞」「ウイルス感染後の細胞」に処理し、その後のウイルス増殖によるプラーク形成(細胞が破れ、破壊されること)を観察した。その結果、マヌカ蜂蜜と同様に、メチルグリオキサールは特に細胞に感染させる前のウイルスに作用させることで、その後のウイルス増殖を完全に抑制した。これより、メチルグリオキサールが直接ウイルスに作用することが明らかとなり、インフルエンザの予防効果を持つことが示唆された。
続いて、抗ウイルス薬に感受性を持つウイルスに対するメチルグリオキサールと抗インフルエンザウイルス薬との併用効果を評価した。その結果、マヌカ蜂蜜と同様に、メチルグリオキサールが薬剤の効果を増強することが明らかとなった。さらに、2009年に流行した新型インフルエンザウイルス(オセルタミビルに抵抗性を持つ株)に対し、メチルグリオキサールとオセルタミビルの併用効果を評価した。その結果、併用により、高い抗ウイルス活性が示され、オセルタミビルの効果が改善されることが明らかとなった。
毎年、インフルエンザが猛威を振るう中、新たな予防・治療法の開発が望まれている。マヌカ蜂蜜に含まれるメチルグリオキサールは、インフルエンザの予防に加え、薬剤耐性を持つ株に対する治療効果も示唆されたため、予防・治療の両面での活用が考えられる。特に、治療においてはメチルグリオキサールと抗インフルエンザウイルス薬を併用することで服薬量を減らすことができ、副作用を軽減したり、さらに薬剤耐性株の出現を抑制したりできる可能性もある。今後はヒトでの応用を見据えた、臨床研究の実施が望まれる。