生命の樹「メリンジョ」の種子エキス摂取による歯周病予防効果
徳島大学大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部 玉木 直文(2012年度採択)
※ 現・徳島大学大学院 医歯薬学研究部
歯周病は、日本において高齢者の大半が罹患している炎症性疾患である。歯肉の出血や歯周ポケットの形成を特徴としており、進行すると歯肉が退縮し、最終的に歯が抜けることが知られている。さらに、歯肉や歯を支える歯槽骨などの歯周組織で発生した活性酸素や炎症性サイトカインが血液を介して全身に運ばれることが明らかとなり、歯周病が血管疾患(動脈硬化、血栓症)、糖尿病、肺炎などの全身性疾患を引き起こすことが示唆されている。
近年、強い抗酸化作用を有する成分としてレスベラトロールが注目されている。レスベラトロールを豊富に含む素材として、インドネシアで伝統的に食されているメリンジョがある。メリンジョは現地で「生命の樹」と称えられている植物であり、特に種子にはメリンジョに特有のレスベラトロール(メリンジョ由来レスベラトロール)が豊富に含まれることが報告されている。さらに、レスベラトロールは長寿遺伝子と呼ばれるSirt1遺伝子の発現を増加させ、抗炎症作用を示すことも知られている。そこで、徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部・玉木直文准教授らの研究グループは、メリンジョ由来レスベラトロールに着目し、メリンジョ種子エキスの摂取による歯周病の予防効果を検討した。さらに、歯周病によって生じる酸化ストレスに対する保護効果についても評価を行った。
まず、玉木准教授らは、歯周病の発症を促したモデル(歯周病モデル)に、蒸留水、または1日あたり10 mg/kg体重のメリンジョ由来レスベラトロールを含むメリンジョ種子エキス含有水を20日間飲用させた。その結果、歯周病でない正常群と比べ、歯周病モデルの蒸留水飲用群では歯槽骨の吸収による歯肉の退縮が認められたが、メリンジョ種子エキス飲用群では蒸留水飲用群よりも退縮が抑えられていた(図)。これより、メリンジョ種子エキスは歯周病の進行を予防することが明らかとなった。
次に、メリンジョ種子エキスによる歯周病予防効果のメカニズムを明らかにするため、歯周組織において抗炎症作用や抗酸化作用に関与する因子の発現を評価した。その結果、正常群と比べ、歯周病モデルの蒸留水飲用群では抗炎症作用を持つSirt1の発現は変化せず、リン酸化AMPK(活性型AMPK)量が減少したのに対し、メリンジョ種子エキス飲用群では、いずれも有意に増加した。さらに、歯周病モデル群では、酸化ストレスから体を守るNrf2の有意な発現増加が認められ、特にメリンジョ種子エキス飲用群で顕著に発現が増加していた。このことから、メリンジョ種子エキスは抗炎症性のSirt1/AMPKシグナル伝達経路およびNrf2による抗酸化応答を活性化することで、歯周病を予防することが示唆された。
また、全身の酸化ストレスに対するメリンジョ種子エキスの影響を調べるため、酸化ストレスの指標である尿中の8-OHdGの濃度を調べた。その結果、正常群と比べ、歯周病モデルの蒸留水飲用群では8-OHdG濃度が有意に増加し、酸化ストレスを受けていた。一方、メリンジョ種子エキス飲用群では正常群と同レベルであり、メリンジョ種子エキスが歯周病によって生じる全身の酸化ストレスを抑制して、体を守る可能性が示唆された。
冒頭で述べたように、メリンジョ種子エキス摂取による歯周病の予防は、口腔内の健康を保つだけでなく、全身の健康維持にも繋がると考えられる。そのため、今後は臨床での応用を目指した研究の実施が望まれる。