ブラジル産プロポリスの血栓症予防効果
〜プロポリスが心筋梗塞・脳梗塞を防ぐ可能性〜
帝京大学 薬学部 大藏 直樹(2009年度採択)
日本人の死亡原因の上位には、がんや肺炎、心筋梗塞、脳梗塞などがあり、そのうち心筋梗塞と脳梗塞はどちらも血栓が原因となる疾患である。これらはどのようにして引き起こされるのだろうか?
通常、血管が傷つくと、止血するために血液が固まって血栓が作られ、その後血管が修復されると血栓は溶かされる。しかし、高血糖や高血圧、脂質異常症、炎症状態ではこの働きに異常が生じ、血栓は溶かされずに蓄積または細い血管に詰まり、血液のスムーズな流れを妨げるようになる。これが血栓症と呼ばれる疾患であり、近年、その予防が重要視されている。
そこで帝京大学薬学部の大藏直樹准教授らの研究グループは、抗酸化作用や抗炎症作用を持ち、様々な疾患を予防・改善する効果が報告されているブラジル産プロポリスに着目し、培養血管内皮細胞を用いた試験を行うことで、血栓症の予防・軽減効果を調べた。
本試験では、血栓症の指標として、血液の凝固を促進する因子である“PAI-1”を用いた。PAI-1は、生活習慣の乱れやストレス、肥満、糖尿病、動脈硬化症、がんなど、血栓ができやすい疾患において血中濃度が上昇することが知られている。血中のPAI-1濃度の上昇は血栓症のリスクを高める要因の1つとされていることから、PAI-1の産生や活性を抑える物質は、血栓症の予防につながる可能性が高い。
大藏准教授らは、培養ヒト臍帯静脈内皮細胞(さいたいじょうみゃくないひさいぼう)の培地に、最終濃度が0.001%、0.002%、0.005%となるようにプロポリスのエタノール抽出物を加え3時間培養した。そこにTNFα(炎症を引き起こす生理活性物質)を添加したところ、12時間後に培地中のPAI-1が著しく増加したが、プロポリスを加えた培地ではPAI-1の増加がプロポリスの濃度に比例して抑制された(図)。また、PAI-1産生を抑制するプロポリス成分を同定するために、プロポリスに含まれる様々な成分を用いて同様の試験を行った結果、フラボノイドの一種であるクリシンがPAI-1産生を強く阻害することが分かった。
以上の研究結果から、ブラジル産プロポリス及びその含有成分であるクリシンは、血栓症の原因となるPAI-1の産生を抑制することが分かった。ブラジル産プロポリスの日常的な摂取により、心筋梗塞や脳梗塞などが予防・軽減されることが期待される。今後、臨床での応用に向けたさらなる研究が望まれる。