なぜ歯周病が認知症のリスクを高めるのか
〜ブラジル産プロポリスが認知症を予防する可能性〜
九州大学大学院 歯学研究院 武 洲(2011年度採択)
歯周病とは、歯周病菌の内毒素によって歯の周辺の組織(歯周組織)に炎症が引き起こされる病気であるが、意外にも、アルツハイマー病を含めた認知症のリスクも高めることが報告されている。歯周病がどのようなメカニズムで脳に影響を与えるのだろうか。
九州大学大学院歯学研究院・武 洲准教授らの研究グループは、口腔、軟髄膜(頭蓋骨の下脳を覆う膜)、および脳内の環境がこのメカニズムに関与しているとの仮説を立て、試験管内試験にて検証した。着目した細胞は、歯周病菌の内毒素による刺激を受けて歯周組織に炎症を引き起こす“マクロファージ”、軟髄膜において全身の炎症を脳に伝える役割を担う“軟髄膜細胞”、認知症の原因のひとつとなる脳の炎症を惹起する“ミクログリア”の3種類である。
まず、マクロファージが軟髄膜細胞に影響を与えるかどうか調べるため、マクロファージに歯周病菌の内毒素を添加して培養。マクロファージからの分泌物を回収し、軟髄膜細胞に添加して炎症性サイトカイン(炎症を引き起こす物質)の発現量を測定、内毒素のみを添加したときの炎症性サイトカインの発現量と比較した。その結果、内毒素のみを加えたときよりも、マクロファージからの分泌物を加えたときの方が炎症性サイトカインの発現量が高いことが分かった。この結果は、マクロファージの刺激を受けて、軟髄膜細胞が炎症性サイトカインを発現・分泌することを示している。
さらに、軟髄膜細胞とミクログリアの関係を調べるために同様の試験を行なった結果、ミクログリアが軟髄膜細胞の刺激を受けて炎症性サイトカインを発現・分泌することが示された。以上の結果から、歯周病によって認知症のリスクが高まるメカニズムは、歯周病菌の内毒素によって誘発されたマクロファージによる全身の炎症を、軟髄膜細胞がミクログリアへ伝達し、脳の炎症を引き起こすものであると考えられる(図)。
次に武准教授らは、抗酸化や抗炎症作用を持つプロポリスが、上記のメカニズムによる炎症を抑えるかどうか調べた。
ブラジル産プロポリスのエタノール抽出物(プロポリスエキス)を、内毒素で刺激したマクロファージおよび軟髄膜細胞にそれぞれ添加して培養し、分泌された炎症性サイトカインを定量した。添加したプロポリスエキスの濃度と培養時間は、マクロファージに対して15 µg/mLで48時間、軟髄膜細胞に対して10 µg/mLで6時間とした。定量の結果、プロポリスエキスの添加によって両細胞からの炎症性サイトカインの分泌が抑えられることが分かった。
今回の試験から、ブラジル産プロポリスが内毒素によって引き起こされる全身の炎症を抑制するものであり、歯周病をリスクファクターとしたアルツハイマー病を含めた認知症の予防に有益な素材である可能性が示された。今後、さらなるヒト試験の研究データの集積による検証が期待される。