研究成果のご紹介

ブラジル産プロポリスは低酸素ストレスによる脳の炎症を抑える
〜認知機能の低下を予防・改善する可能性〜

九州大学大学院 歯学研究院 武 洲(2011年度採択)

本論文は、Key Scientific Article contributing to excellent in biomedical researchとして「Global medical discovery」にハイライトされ、蜂産品の研究成果が国際的に注目されました。

加齢に伴い酸素摂取量は低下することが知られている。さらに、ストレス、運動不足、高カロリー高脂肪の食事など、現代の生活習慣により酸素摂取量は大きく低下する。このため、特に中高齢者の酸素摂取量は低いレベルにあると考えられる。

脳の酸素消費量は全身の4分の1に及ぶため、酸素が不足すると脳は直接的にダメージを受ける。さらに、脳に常在する“ミクログリア”というグリア細胞の一種は、酸素が不足すると細胞内の酸化還元(レドックス)環境の変化により、炎症性サイトカイン(炎症を引き起こす物質)を分泌する。この炎症性サイトカインにより生じる脳炎症によって脳障害(認知機能の低下など)は拡大してしまうため、低酸素は脳にとってダブルパンチとなる。

ミクログリアにおける細胞内レドックス環境の変化は加齢によっても生じる(ミクログリア-エイジング仮説)。このことから加齢やアルツハイマー病などに伴う認知機能低下において、ミクログリアによる脳炎症が「鍵」となる。そこで、九州大学大学院・武 洲准教授らの研究グループは、抗酸化作用をもつプロポリスが低酸素環境での細胞内レドックス環境の変化を改善し、ミクログリアからの炎症性サイトカインの分泌を抑制するのではないかと考え、培養ミクログリアを用いて検証した。

培養ミクログリアにブラジル産プロポリスエタノール抽出物(プロポリスエキス)を50 μg/mLの濃度で添加し、酸素濃度20%の正常酸素環境ならびに酸素濃度1%の低酸素環境にて培養。培養開始から24時間後に炎症性サイトカイン(IL-1β、TNF-α、およびIL-6)の分泌量を測定した。その結果、低酸素によってミクログリアから分泌される炎症性サイトカイン量が著しく増加したが、プロポリスエキスの添加によってその増加が正常酸素環境に近いレベルに抑えられることが分かった(図)。

歯周病によって脳疾患の危険性が高まるメカニズム(刺激伝達経路)とプロポリスによる抑制

今回の試験から、ブラジル産プロポリスが低酸素によって引き起こされるミクログリアによる炎症反応を抑制することが明らかとなり、加齢やアルツハイマー病などに伴う認知機能の低下を予防・改善する可能性が示された。認知機能の改善効果については、現在、ヒト試験によって検証中である。

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