ブラジル産プロポリスが
難病の1つである炎症性腸疾患を予防する可能性
千葉科学大学 薬学部 岡本 能弘(2010年度採択)
クローン病、潰瘍性大腸炎に代表される炎症性腸疾患は、大腸および小腸の粘膜に慢性の炎症または潰瘍が生じる自己免疫疾患である。1970年代以降、急激に患者数が増加しており、2015年1月に国から難病の1つに指定された。最近の研究により、免疫細胞の一種であるTh1細胞への過剰な分化が、炎症性腸疾患の発症に関与している因子の1つと考えられているが、詳細は不明である。そこで、以前よりプロポリスの免疫調節機能を報告している千葉科学大学薬学部・岡本能弘准教授らの研究グループは、今回、ブラジル産プロポリスが自己免疫や炎症性疾患に関わるTh1細胞への過剰な分化を抑制するか、さらに、実際に炎症性腸疾患の発症・進行を予防するか検討した。
(岡本准教授の過去の研究は「プロポリスと関節リウマチ@〜ブラジル産プロポリスは関節リウマチの進行を抑える〜」、「プロポリスと関節リウマチA〜ブラジル産プロポリスが関節リウマチの進行を抑える仕組み〜」を参照)
Th1細胞への分化には図のように2つの段階がある。
通常の免疫応答では、抗原による刺激が起こると、ナイーブヘルパーT細胞(抗原刺激を受けていない成熟ヘルパーT細胞)が活性化し、次にIL-12やIFN-γの刺激を受けてTh1細胞へ分化する。このTh1細胞がさらにIFN-γを産生・分泌することで、病原体を排除している。しかし、この免疫応答に異常をきたし、過剰に働くと、Th1細胞への過剰な分化が起こり、IFN-γの分泌過多となる。過剰なIFN-γは炎症性腸疾患を悪化させることが報告されており、治療標的として注目されている。
まず岡本准教授らは、ナイーブヘルパーT細胞からTh1細胞への分化に対するブラジル産プロポリスの影響を調べるため、ナイーブヘルパーT細胞からTh1細胞への分化を促す培地(※)に、ブラジル産プロポリスのエタノール抽出物(プロポリスエキス)を1、3、12、48 µg/mlの濃度で添加して5日間培養した。そして、Th1細胞分化の目印であるIFN-γの産生量と、ヘルパーT細胞に発現するCD4タンパク質を指標に、ナイーブヘルパーT細胞の集団におけるTh1細胞の割合を測定した。その結果、プロポリスエキス12、48 µg/mlの濃度でTh1細胞の割合が有意に減少することが示された。また、細胞外へのIFN-γの分泌量も、プロポリスエキス濃度の増加に伴い、減少することが示された。以上より、ブラジル産プロポリスはTh1細胞への過剰な分化を抑制することで、IFN-γの分泌を抑制することが明らかとなった。
※ナイーブヘルパーT細胞からTh1細胞への分化を促す培地…抗原刺激を再現するための抗CD3抗原、抗CD28抗原、ならびに、IL-12、抗IL-4抗体を含む培地。
さらに、炎症性腸疾患に対する影響を調べるため、炎症性腸疾患を発症するモデルに、通常食、あるいは通常食にプロポリスエキスを6.7 mg/gまたは20 mg/gの割合で混ぜたものを、試験期間中、予防的に自由摂取させた。そして、摂取開始14日目に炎症を誘発させ、18日目に症状を観察した結果、プロポリスエキスを摂取したグループでは、炎症性腸疾患の進行が抑えられている可能性が示された。また、この時、Th1細胞の割合の有意な減少が確認された。
以上の研究から、ブラジル産プロポリスはナイーブヘルパーT細胞からTh1細胞への過剰な分化を抑制することで、炎症性腸疾患を予防する可能性が示された。
2015年現在、炎症性腸疾患は完治させる治療法が確立されていないため、発症を予防することが重要になる。本研究結果より、プロポリスの摂取が炎症性腸疾患の予防に繋がることが期待されるため、今後はプロポリス摂取量と炎症性腸疾患罹患率の相関に関する調査など、さらなる研究が望まれる。