悪性腫瘍や生活習慣病に対する
ブラジル産プロポリスの作用と活性成分の同定
愛知学院大学 薬学部 中島 健一(2013年度採択)
細胞で作られるタンパク質は、ホルモンや酵素、また、私たちの体の主要な構成成分にもなっている。このタンパク質を作る過程を調節する重要な役割をもつのが “核内受容体”である。その中のひとつであるレチノイドX受容体(Retinoid X Receptor; RXR)は生体内の恒常性(体の状態を一定に保つこと)を維持している。このRXRの機能に関する疾患には糖尿病、肥満などの生活習慣病や悪性腫瘍等が挙げられる。
一方、ブラジル産プロポリスには炎症や悪性腫瘍、肥満に対する効果を持つとの研究成果があり、実際に、古くから民間薬として使用されてきた。
これらのデータから、愛知学院大学薬学部・中島健一助教らの研究グループは、ブラジル産プロポリスが作用するメカニズムにこのRXRが関与しているのではないかと考えた。
まず、RXR活性について図で説明する(図)。
RXRは細胞内の核に存在し、他のさまざまな受容体と結合して働くことが知られており、そのひとつとして、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(Peroxisome Proliferator-Activated Receptor; PPAR)がある。
PPAR/RXR複合体が働く際、図Aのように、ただ複合体を作るだけでは、DNAの遺伝情報を読み取る過程(転写)は進まないが、図BのようにRXRやPPARがもつポケットに合う物質が結合すると活性化された状態となる。この活性化された複合体がDNA配列中の特定の配列に結合するとき、DNAが転写されてメッセンジャーRNA(mRNA)が作られ、mRNAの情報を基にタンパク質が合成(翻訳)されて酵素やホルモンとなる。その結果、抗肥満や抗糖尿病等さまざまな作用が現れる。
まず、中島助教らは、ブラジル産プロポリスのエタノール抽出液にRXR活性があることを試験管内試験によって明らかにした。次に、この抽出液におけるRXRの活性成分がドルパニンであることを突き止めた。RXRを活性化する天然物質の報告例は非常に少ないため、ドルパニンは希少な天然物質であると言える。
前述したとおり、PPARとRXRのそれぞれのポケットに合う物質が結合(活性化)することで、DNAの転写が起こる。そこで、ドルパニンがPPARも活性化するのかを調べたところ、3種類あるPPARα、β、γの内、PPARγに弱い活性を示した。ドルパニンによってRXRとPPARが活性化され、相乗的な作用が現れることが期待できる。
さらに、PPARγ活性化剤は2型糖尿病の治療において、インスリン抵抗性の改善薬として用いられているため、ドルパニンにも同様の作用がないか調べた。培養マウス前駆脂肪細胞(3T3-L1細胞)を用いた試験の結果、ドルパニンが脂肪細胞への分化を促すことが確認できた。この脂肪細胞への分化促進は、PPAR/RXR複合体の活性化によってインスリンが効きやすい状態になったためと考えられる。
以上の結果から、ブラジル産プロポリス中のドルパニンがRXRやPPARを活性化させることが明らかとなった。この成果は、ブラジル産プロポリスの効果として知られていた抗肥満、抗糖尿病、抗脂質異常症等に対して、作用メカニズム解明の一助となるものである。また今回、ドルパニンがプロポリスエキス中の着目すべき成分のひとつとして明確化されたため、より高レベルの安全性を保証し、精度の高い品質管理が実施可能となるであろう。