ブラジル産プロポリスが加齢黄斑変性症を予防する可能性
岐阜薬科大学 生体機能解析学大講座 鶴間 一寛(2009年度採択)
加齢黄斑変性症は、網膜にある光や形、色を感知する網膜視細胞に異常が生じ、物が歪んで見えたり、視野の中心が暗く見えたりする疾患である。欧米では成人が失明する原因の第1位を占め、日本国内でも緑内障、糖尿病性網膜症に次ぐ失明原因となっている。現在、加齢黄斑変性症には網膜機能の改善や症状の進行を止める治療方法が無く、対症療法しかないため、有効な予防・治療法の開発が望まれている。
加齢黄斑変性症の原因の一つに過度の光刺激による酸化ストレスがある。網膜は日常的に太陽やスマートフォン、テレビ等が発する光に曝されており、容易に活性酸素が生み出される。過剰な活性酸素は視細胞に対し酸化ストレスを与え、アポトーシス(細胞死)を引き起こす。そのため、活性酸素による視細胞のアポトーシスを抑えることができれば加齢黄斑変性症の発症や悪化を予防できる可能性がある。
そこで岐阜薬科大学の鶴間一寛講師らのグループは、蜂産品の中でも強い抗酸化作用(活性酸素の働きを抑える作用)を示すプロポリスに着目し、プロポリスの加齢黄斑変性症に対する有効性を検討した。
まず鶴間講師は培養した視細胞を用い、プロポリスが光刺激によるアポトーシスを抑制するかどうか検討した。その結果、何も処理をしていない視細胞では光刺激によりアポトーシスが誘導されたのに対し、プロポリス抽出物をそれぞれ添加した視細胞では、光刺激によるアポトーシスが有意に抑制された。
次に、光障害モデルを用い、生体内の組織においてアポトーシスを抑制するかどうか検討した。本実験では、プロポリス抽出物を飲用した群(体重1 kgに対し1日に200 mg、600 mg、2,000 mg)と、飲用させない対照群とに分け、各群に光刺激を与え視細胞が存在するONL(網膜外顆粒層)の厚みを測定した。プロポリス抽出物は光刺激を与える30分前と刺激の直後、その後1日2回に分けて、5日間飲用させた。その結果、光刺激から5日後の対照群ではONL厚に減少が見られた。一方、プロポリス抽出物を600 mg、2,000 mgの用量で飲用させた群では、対照群に比べ、光刺激5日後のONL厚の減少が有意に抑制された(図)。ONL厚の減少には視細胞のアポトーシスが関与していることから、プロポリスは生体内の組織においても光刺激によるアポトーシスを抑制する可能性が示された。
さらに鶴間講師らはプロポリス抽出物を飲用した群と対照群で光刺激の後に視機能がどの程度働いているか検討し、プロポリスを飲用することで光刺激による視機能低下が抑制されることを示した。
以上の研究結果から、プロポリスは強い光刺激に対する視神経細胞保護作用を有し、加齢黄斑変性症やその他網膜色素変性症や白内障等の酸化ストレスと関連のある網膜疾患に対して発症予防および病態悪化の軽減に有効である可能性が示された。今後、臨床への応用を目指した研究が期待される。