研究成果のご紹介

ブラジル産プロポリスが発毛・育毛を促進する可能性

北海道大学大学院 農学研究院 小林 謙(2011年採択)

毛髪は、その人の第一印象を決める重要な要因である。通常、毛髪は抜けてはまた生えるというヘアサイクルを繰り返す。しかし年を重ねるにつれヘアサイクルは徐々に乱れ、それが毛髪に関する様々な悩みの原因となってしまう。

ヘアサイクルには大きく3つの段階“成長期”、“退行期”、“休止期”がある。成長期は毛髪が成長する期間、退行期は成長が穏やかになる期間、休止期は成長が止まる期間である。この中で成長期は最も長く、重要な段階である。ところが、年を重ねると血流の悪化やホルモンバランスの乱れ等の要因により、ヘアサイクルに異常が生じる。その結果、成長期が短くなり、毛髪が十分に育たず細くなり薄毛となってしまう。そのため、毛髪に関する悩みを予防・改善するには成長期に毛髪をしっかり成長させることが重要である。現在、毛髪の成長を促す数多くの発毛・育毛剤が開発されているが、副作用を生じるものもあり、安全、安心な発毛・育毛剤の開発が期待されている。

そこで北海道大学の小林謙准教授らは、様々な生理活性作用に加え、皮膚細胞の増殖を促して、傷ついた皮膚や角膜を修復する可能性が報告されているブラジル産プロポリスに着目し、育毛モデルを用いて、プロポリスが毛髪の成長へ与える影響について検討を行った。

初めに小林准教授らは、プロポリスが、成長期の段階にある毛髪に与える影響を検討した。育毛モデルの背部を剃毛し、プロポリス(ブラジル産プロポリスをエタノール抽出したもの)及び、比較対照にエタノールを、3週間毎日100 µlを背部に塗布し、剃毛した領域の毛髪の生え具合を観察した。その結果、プロポリスを塗布した群ではエタノールを塗布した群よりも8日ほど早く伸長した毛髪が観察された(図)。さらに21日後には、プロポリスを塗布した群で、剃毛した領域すべてを伸長した毛髪が覆っている個体が観察された。一方、エタノールを塗布した群では、背部の剃毛した領域すべてを毛髪が覆っている個体はほとんどおらず、剃毛した領域の半分以上を毛髪が覆うほどの発毛が見られた個体の数も、プロポリスを塗布した群と比較して約半分程度であった。

プロポリスは毛髪の細胞増殖を活発化し、発毛・育毛を促進する可能性があることが示された。

次に、育毛モデルに脱毛処理を行い、成長期の初期段階(新生した毛髪が伸長を始める段階)からプロポリス塗布による育毛活性化のメカニズムを解析した。その結果、プロポリスを塗布した群では、毛髪の根元の部分(毛母)で増殖した細胞が皮膚の内部から外部に向かって、エタノールを塗布した群よりも早い速度で移動している様子が観察された。根元部分で増殖した細胞は、毛髪を構成する細胞へ姿を変え伸長し、次第に角質化(硬くなること)し、皮膚の外へ現れて毛髪になる。

さらに小林准教授らは、培養細胞を用いた試験によって、プロポリスが表皮ケラチノサイトの増殖を促進することも確認した。

以上の結果から、プロポリスは毛髪の細胞増殖を活発化し、発毛・育毛を促進する可能性があることが示された。今後、臨床への応用を目指した研究が期待される。

PAGE TOP