プロポリス由来成分であるアルテピリンCは、白色脂肪細胞から褐色脂肪細胞化を誘導する
中部大学応用生物学部 津田 孝範 (2015年採択)
哺乳類の脂肪細胞には白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞、ベージュ脂肪細胞がある。白色脂肪細胞は脂質を細胞内にエネルギーとして蓄積するのに対し、褐色脂肪細胞とベージュ脂肪細胞は熱を産生しエネルギーの消費を促進する機能を持つ。
興味深いことに、最近の研究から、一定の条件の下で白色脂肪組織中に褐色脂肪細胞化(ベージュ脂肪細胞化(※)とも言う)が起こり、その働きによりエネルギー消費効率が増加することが明らかになった。褐色脂肪細胞は加齢とともに減少するため、代謝効率の活性化には自己の白色脂肪組織中に、褐色脂肪細胞化を効率よく行うことが重要な鍵となると考えられる。たとえば食事によって白色脂肪細胞を褐色脂肪細胞化させることができればエネルギー効率を向上させることができ、糖尿病やメタボリックシンドローム等の生活習慣病に対して有用であることが期待される。
ブラジル産プロポリスは糖代謝や脂質代謝に関係していることが明らかとなっており、エネルギー代謝に影響する可能性が高いと考えられる。その中で中部大学応用生物学部の津田孝範氏らの研究グループは、先行研究においてブラジル産プロポリスのエタノール抽出物が白色脂肪細胞を褐色脂肪細胞化させることを確認した。ブラジル産プロポリスには桂皮酸誘導体の一種であるアルテピリンCが豊富に含まれているため、アルテピリンCが褐色脂肪細胞化を誘導する要因となっている可能性が高いと考えられる。そこで津田氏らはプロポリスの褐色脂肪細胞化を誘導するメカニズムを明らかにする目的でアルテピリンCに着目して研究を行った。
はじめに、津田氏らは白色脂肪細胞を用いて、アルテピリンCが褐色脂肪細胞化を誘導するか、UCP1を目印として検討した。UCP1は褐色脂肪細胞およびベージュ脂肪細胞のミトコンドリアのみに特異的に存在するタンパク質で、熱産生やエネルギー消費に関与している。試験の結果、白色脂肪細胞にアルテピリンCを添加することで、UCP1の発現量が増加したことから、アルテピリンCによって褐色脂肪細胞化が誘導されたことが明らかとなった。
次に、アルテピリンCを飲用することで、生体内でも白色脂肪細胞から褐色脂肪細胞化が起きるかを検討した。通常モデルを3グループに分け、そのうち2グループにアルテピリンCを1日あたり 5, 10 mg/ kgの用量でそれぞれ4週間摂取させ、残りの1グループは、アルテピリンCを与えないコントロールグループとした(各群,n=10)。摂取4週間後に脂肪組織の観察を行ったところ、 アルテピリンC投与濃度依存的に白色脂肪組織中に、褐色脂肪組織に特徴的な形態である多房化した脂肪細胞が多数認められ(図)、さらにそれらの細胞では、褐色脂肪細胞およびベージュ脂肪細胞のマーカーであるUCP1を検出することができた。このことにより、アルテピリンCの飲用によって生体内でも白色脂肪細胞から褐色脂肪細胞化が誘導されることが明らかとなった。
以上の結果から、アルテピリンCの飲用は代謝効率を向上させ、生活習慣病や加齢性疾患の予防に役立つ可能性があり、プロポリスのアンチエイジング効果に寄与していると考えられる。今後、臨床応用を目指した研究が期待される。
コントロール群と比較してアルテピリンC投与群では濃度依存的に白色脂肪細胞の多房化がみられ、白色脂肪細胞が褐色脂肪細胞化している様子が観察された。
※ 褐色脂肪細胞化(べージュ脂肪細胞化)…白色脂肪組織中に、褐色脂肪様細胞が新たに生まれることを、褐色脂肪細胞化、もしくはベージュ脂肪細胞化と言う。