ブラジル産プロポリスが高齢者の認知症予防に役立つ可能性
〜全身の炎症を抑えて認知機能の低下を防ぐ〜
九州大学大学院 歯学研究院 武 洲(2014年度採択)
認知症の60-70%を占めるアルツハイマー病は加齢につれて有病率が高くなり、超高齢社会に突入した日本を含めて、世界的に大きな社会問題となっている。しかし、アルツハイマー病には根本的な治療法がないため、予防が極めて重要である。
アルツハイマー病では、脳における免疫細胞であるミクログリアの活性化により引き起こされる脳炎症が神経細胞を損傷させ、認知機能を低下させると考えられている。一方、全身における慢性炎症は、脳炎症を誘発し認知機能を低下させることが、基礎医学ならびに臨床医学研究により示されている。
これまで武氏らは、ブラジル産プロポリスが、歯周病菌の毒素によるミクログリアに依存した脳炎症を抑制すること、また、酸化ストレスによる障害から神経細胞を保護することを見出している(詳しくは、「なぜ歯周病が認知症のリスクを高めるのか〜ブラジル産プロポリスが認知症を予防する可能性〜」「ブラジル産プロポリスは低酸素ストレスによる脳の炎症を抑える〜認知機能の低下を予防・改善する可能性〜」参照)。平地に住む高齢者に比べて、酸素濃度が少ない環境に住む高齢者における認知機能が早期に低下することが報告されているため、今回は海抜2300メートル以上の中国チベット高原に住む高齢者を対象に、認知機能ならびに全身の炎症に対するプロポリスの効果を検証した。
武氏らは、平均年齢72.8歳の健常な高齢者60名を2つのグループに分け、30名にプロポリスカプセルを、30名にプラセボを、どちらを飲んでいるか知らせずに、それぞれ24か月間飲用してもらった。飲用開始前と開始後にMMSE(※1)を用いて認知機能を評価し、血清中のIL-1β(※2)やTGFβ1(※3)などを測定して全身の炎症状態を評価した。
※1 MMSE (Mini Mental State Examination)
認知機能の検査方法。医師からの質問に答えることで、言語的能力や空間認知力を測定できる。スコアは30点満点で、23点以下はアルツハイマー病へ移行するリスクが高いとされる。
※2 IL-1β
炎症反応を引き起こす炎症性サイトカインの一種。免疫細胞から多種の炎症性因子の産生を誘導し、炎症反応を促すとともに神経細胞の損傷を引き起こす物質。
※3 TGFβ1
炎症反応を抑える抗炎症サイトカインの一種。免疫細胞の過剰な応答を緩和し、炎症反応を抑えるとともに細胞修復を導く物質。
試験の結果、プラセボを飲用した健常な高齢者では24か月後に認知機能が低下したが、プロポリスを飲用したグループでは、プラセボを飲用したグループよりも認知機能スコアが有意に高かった(図)。
また、プラセボを飲用したグループの血清中では炎症を促すIL-1β量が有意に増加し、炎症を抑えるTGFβ1の量が有意に減少した。一方、プロポリスを飲用したグループでは、血清中のIL-1βの量は有意に減少し、TGFβ1の量は有意に増加した。さらに認知機能スコアの上昇は血清中のIL-1βの減少およびTGFβ1の増加と相関していた。
以上の結果より、プロポリスは高齢者における認知機能の低下予防に有効であり、その作用は全身の炎症の低減を介することが明らかになった。このことから、ブラジル産プロポリスが抗炎症効果を発揮することにより認知機能の維持に役立つ可能性が実証された。