血栓症予防効果が期待できるプロポリス成分の特徴とは?
〜安全で効果的な血栓症改善法の開発を目指して〜
帝京大学 薬学部 大藏 直樹 (2010年度採択)
血栓症とは、止血のために血管内にできた血栓が蓄積することで血管が狭くなり、血液が流れにくくなる疾患である。日本人の死因の上位を占める脳梗塞や心筋梗塞は、この血栓の詰まりが原因となって引き起こされる。したがって血栓症の予防や改善は、日本人の長寿のための重要な課題である。
帝京大学の大藏氏らの研究グループは、抗酸化作用や抗炎症作用を持ち、認知機能や加齢性黄斑などを予防、改善することが報告されているブラジル産プロポリスに着目した。これまでの研究で、ブラジル産プロポリスに含まれているフラボノイドの一種であるクリシンが、血栓症のリスク因子であるPAI-1の産生を抑制することを明らかにしている(詳しくは「ブラジル産プロポリスの血栓症予防効果 〜プロポリスが心筋梗塞・脳梗塞を防ぐ可能性〜」参照)。今回、大藏氏らはさらに研究を進め、どのような構造を持つ成分がPAI-1の産生の抑制する効果が高く、かつ安全に使用できる可能性があるか検証した。
大藏氏らは、培養ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)にPAI-1の産生を誘導したうえで、クリシンや、クリシンと構造が類似しているフラボノイドをそれぞれ添加した。その結果、クリシン、ルテオリン、ケルセチン、アピゲニンという成分をそれぞれ添加した細胞は、プロポリス成分を何も添加しなかった細胞よりも、PAI-1の産生量が低かった。さらに、ルテオリンとアピゲニンが培養細胞の生存率を抑えたのに対し、クリシンとケルセチンではそのような影響は見られなかった。以上の結果から、クリシンとケルセチンが、細胞に障害を与えることなく、PAI-1の産生を抑制することが示された。
さらに、今回用いたプロポリス成分の構造を調べたところ、PAI-1の産生を抑制する成分はいずれもA環の5位と7位に水酸基(-OHで表される原子の集合体)が付いていることが明らかとなった(図)。5位と7位以外の部位における水酸基の有無によって、細胞に対して障害を与えるか否かが決まることも分かった。
今回の研究により、PAI-1の産生を安全に抑制する成分がどのような構造を持つか示唆された。本研究は、PAI-1の産生を抑制するという新たな発想の血栓症治療薬のデザインに貢献する重要な成果である。また、このような有用な成分を豊富に含むプロポリスの摂取は、血栓症の予防につながることが期待される。