研究成果のご紹介

ブラジル産プロポリスによるアルツハイマー型認知症予防のメカニズムの解明
〜酸化ストレスの軽減と神経細胞の保護により認知機能の低下を防ぐ可能性〜

九州大学大学院 歯学研究院 武 洲(2014年度採択)

アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)は、世界中で進む社会の高齢化において患者が急速に増加している認知症の約7割を占める、最も割合の高い認知症である。アルツハイマー病等の加齢性神経変性疾患の進行には酸化ストレスが関わっていると考えられる。また、神経細胞間のシグナル伝達(シナプス)の機能不全が、加齢やアルツハイマー病など疾患に伴う認知機能低下を引き起こすことも知られている。

シナプスの機能の維持に関連する因子として、ArcやBDNFが挙げられる。Arcの発現が抑制されるとシナプス効力(情報伝達を調節する能力)が弱まることが報告されており、BDNFはArcの発現を誘導することで認知機能の維持に役立つと考えられている。またアルツハイマー病患者の脳内で凝集が見られるアミロイドβや、神経の炎症を悪化させるIL-1βが、BDNFによるArcの発現を抑制することも報告されている。

これまで武氏らは、高齢者を対象にした臨床研究により、ブラジル産プロポリスの飲用が認知機能の低下を抑制することを示した(詳しくは、「ブラジル産プロポリスが高齢者の認知症予防に役立つ可能性〜全身の炎症を抑えて認知機能の低下を防ぐ〜」参照)。さらにプロポリスが、IL-1βに刺激されたミクログリアによる炎症を抑えることで、神経細胞を保護することを見出した(詳しくは、「なぜ歯周病が認知症のリスクを高めるのか〜ブラジル産プロポリスが認知症を予防する可能性〜」参照)。そこで今回、プロポリスによる神経保護効果のメカニズムをさらに詳しく調べるため、ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Yを用いて、酸化ストレスと、ArcやBDNFの発現に対するプロポリスの影響を検証した。

まず武氏らは、プロポリスが酸化ストレスを抑えるか調べるため、予めSH-SY5Yにブラジル産プロポリス抽出物を10 μg/mLの濃度で添加した。その2時間後に100 μMの濃度で過酸化水素に1時間曝露し、活性酸素の発生を評価した。またプロポリスの添加2時間後に、過酸化水素に4時間曝露し、酸化ストレスによるDNAの損傷の度合いを調べた。その結果、過酸化水素のみに曝露した細胞と比較して、プロポリスを添加した細胞では、活性酸素の発生とDNA損傷の度合いが低かった。この結果より、プロポリスが神経細胞に悪影響を及ぼす酸化ストレスを抑える可能性が示唆された。

次に武氏らは、BDNFを添加した細胞に(※ BDNFを添加しないとArcが発現しないため)、アミロイドβまたはIL-1βとプロポリスを添加し、Arcの発現量を調べた。その結果、Arcの発現量がアミロイドβとIL-1βにより低下したが、プロポリスを同時に添加するとArcの発現低下が防げられることが分かった。

さらに、BDNFとArcに対するプロポリスの直接的な影響を調べた結果、プロポリスを添加しない細胞と比べて、プロポリスを添加した細胞の方が、Arc、BDNFともに発現量が高かった。プロポリス成分のアルテピリンCを用いても、Arcの発現向上が認められた。

以上の結果より武氏らは、プロポリスが認知機能を維持する際のメカニズムとして、酸化ストレスを低減させると同時に、シナプス効力の低下も防ぐ可能性を提唱した(図)。

プロポリスが認知機能を維持する際のメカニズムとして、酸化ストレスを低減させると同時に、シナプス効力の低下も防ぐ可能性を提唱した

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