研究成果のご紹介

ブラジル産プロポリスの歯周病原細菌に対する効果
〜抗菌化合物の同定と抗菌機序の解明〜

国立感染症研究所 細菌第一部 中尾 龍馬(2014年度採択)

現在、歯周病は成人が歯牙を失う最大の原因となっている。また近年は、歯周病が心循環器系疾患や糖尿病などの様々な全身疾患を誘発する、との研究報告が相次ぎ、口腔ケアの重要性・歯周病予防の意義がさらに拡大している。口腔内に常在する700種類以上といわれる細菌の中でも、特にグラム陰性偏性嫌気性細菌Porphyromonas gingivalis(ポルフィロモナス・ジンジバリス)は歯周病の発症と進行に深く関与することから、歯周病の“keystone pathogen”と呼ばれている。先行研究により、プロポリスは歯周病原細菌に対する抗菌活性を示すと報告されているが、その抗菌作用機序や抗菌活性成分の詳細は明らかにされてなかった。本研究では、プロポリスに暴露された歯周病原細菌を多面的に解析し、その抗菌作用メカニズムを包括的に理解することを目指した。

まず、様々な口腔細菌に対するプロポリスエタノール抽出物(以下、プロポリスエキス)の最小生育阻止濃度を測定したところ、プロポリスエキスは口腔常在レンサ球菌と比べP. gingivalisに対して、強い生育阻害活性を示した。また、プロポリスエキスは細菌の膜透過性を濃度依存的に増加させ、細胞膜上に多数の小胞形成を誘導した。一方、P. gingivalisの発育を阻害する濃度のプロポリスエキスは、ヒト口腔上皮細胞株に対する毒性を認めなかった。これらの結果は、プロポリスエキスが生体への為害作用や口腔常在レンサ球菌の生育抑制作用を示すことなく、歯周病原細菌を選択的に殺菌できる可能性を示唆している。続いて、プロポリスエキスからアルテピリンC、バッカリン、ウルソール酸等の化合物を単離精製し、各化合物の抗菌活性の評価、化合物による細胞形態のリアルタイムイメージングを行なった。単離された化合物のうちウルソール酸がP. gingivalisに対する最も強い抗菌作用を示し、P. gingivalis菌体を破裂させた。破裂により生じた小胞様構造体はP. gingivalis細胞表面上には多数付着した(図)。一方、アルテピリンCとバッカリンは、P. gingivalisに静菌的に作用して、細胞表面で小胞の出芽を強く誘導した(図)。さらに、各種抗菌化合物による細菌の細胞膜への影響をフローサイトメトリー解析により調べたところ、プロポリスエキスおよびプロポリスエキスに由来する各種抗菌化合物が、細菌細胞膜の透過性亢進作用と脱分極誘導作用を示すことが明らかとなった。

以上より、プロポリスのP. gingivalisの対する抗菌作用機序の詳細が明らかとなった。また、プロポリスによる歯周病原細菌の選択的排除に基づく新たな歯周病予防・治療法が提示された。将来的に、プロポリスを巧みに活用することで、口腔および全身の健康増進に寄与できる可能性が示唆された。

プロポリスのP. gingivalisの対する抗菌作用機序の詳細が明らかとなった

※ 論文中のFigure 3より一部抜粋
※ 小胞形成と溶菌の様子(動画)
http://journals.sagepub.com/doi/suppl/10.1177/0022034518758034

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