研究成果のご紹介

ブラジル産プロポリスが糖尿病を予防するメカニズムとは?
〜標的となる免疫細胞と関与成分を同定〜

酪農学園大学 獣医学群 北村 浩(2011年度採択)

糖尿病の罹患者数は2017年現在、世界で4億2,500万人にも上り、成人の11人に1人は糖尿病と推定される。2045年には約7億人まで増加すると予想されており、世界的にも問題となっている。そのうち生活習慣病といわれる2型糖尿病の占める割合は約90%であり、これをいかに予防・治療するかが健康寿命を延伸する上でも重要である。

これまでの研究で北村氏らは、ブラジル産プロポリスのエタノール抽出物(以下プロポリスエキス)に2型糖尿病の進行を抑える働きがあることを見出した。さらに、プロポリスエキスを与えた肥満モデルの脂肪組織において、M2マクロファージに対するM1マクロファージの比の低下と、好酸球の増加が見られることを明らかにした(詳しくは「ブラジル産プロポリスの糖尿病予防効果には免疫が関与している」参照)。しかし、マクロファージと好酸球のどちらがプロポリスの直接的なターゲットなのか、またプロポリスに含まれるどの成分がこの働きに関与するかは明らかになっていなかった。

そこで北村氏らは今回、プロポリスが糖尿病を予防するメカニズムをさらに解析するため、骨髄由来免疫抑制細胞(MDSCs)に着目して研究を行った。MDSCsはマクロファージに類似した免疫細胞で、免疫系の過剰な活性を抑える働きがある。

北村氏らは肥満モデルにプロポリスエキスを体重1 kgあたり100 mgの用量で週に2回、1ヶ月間与えた。その後、内臓脂肪組織における免疫細胞を解析した。さらに、単離したマクロファージにプロポリスエキスを添加して、マクロファージの変化を観察した。最後にプロポリスエキスに含まれる12種の成分を用いて同様の試験を行い、関与成分の同定を試みた。

その結果、プロポリスエキスにより肥満モデルの内臓脂肪組織においてMDSCsが増加し、マクロファージが減少した。一方で、好酸球も増加したものの、MDSCsほどではなかった。また、プロポリスエキスを添加したM1マクロファージは、MDSCsへの分化転換が観察された。さらに、プロポリスの含有成分であるケンフェロールに、マクロファージからMDSCsへの分化転換を誘導する作用が見られた。

以上からプロポリスは内臓脂肪組織において、M1マクロファージの分化転換を促進し MDSCsの誘導を行うことが示唆された。さらにその働きの関与成分はケンフェロールであることが明らかとなった。誘導されたMDSCsが抗炎症作用を示すことで、糖尿病の予防に寄与することが考えられる。この結果は2型糖尿病だけでなく広く炎症性疾患にも役立つことが考えられ、今後も更なる研究が期待される。

プロポリスのP. gingivalisの対する抗菌作用機序の詳細が明らかとなった

 

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