研究成果のご紹介

プロポリスは腸管中の免疫細胞に直接作用し、健康維持に貢献する

東京医科歯科大学 難治疾患研究所 安達 貴弘(2017年度採択)

健康の維持と密接に関わる腸管

口から摂取された食物が、消化されながら栄養素として吸収されるのは腸管である。腸管は身体の中の半数以上の免疫細胞が集まり、末梢神経系の半数以上の神経細胞も存在している。そして、私たちの健康維持のために、重要な働きをしている。また、非常に多くの細菌が共生している腸内細菌叢も健康維持と密接に関わっており、摂取される食品により影響を受ける。

免疫細胞のカルシウムシグナルを生体内で解析するシステムを開発

免疫細胞は、病原体や液性因子などによる様々なシグナル応答によって、活性化し、分化を経て成熟し、役割が決定される。花粉やウイルスなどにより、T細胞やB細胞が刺激された際の情報伝達手段の1つとして使われているのが、カルシウムシグナルである。しかし、生体内で動きのある免疫細胞のカルシウムシグナルをモニタリングすることは困難だった。そこで、安達氏らはカルシウムバイオセンサーモデルを開発し、免疫細胞でもカルシウムシグナルの検出ができるようにした。カルシウムバイオセンサーモデルによって、いつどこで、どのように情報伝達が生じているかを解析することが可能になった。

花粉症の改善や風邪症状の緩和に役立つプロポリスの作用点

今回、安達氏らが注目したブラジル産グリーンプロポリスは、臨床試験において花粉症を改善することや風邪症状を緩和することが報告されている。さらに、ヘルペスウイルスワクチンのアジュバント効果(※1)を発揮したり、炎症性サイトカインの産生量を低下させたりするなど、免疫反応と関係が深い素材である。しかし、プロポリスが免疫細胞にどのように作用しているのかは明らかでなかった。そこで、安達氏らは、開発したカルシウムバイオセンサーモデルを活用して、身体の中の半数以上の免疫細胞が集まり、身体の健康維持と密接に関係している腸管に着目し、免疫に関するプロポリスの作用点の解明を目的として研究を行った。

※1 アジュバント効果
ワクチンの効き目を高めたり、ワクチン接種の回数を減らしたりする効果のこと。

樹状細胞を刺激するプロポリス

安達氏らは、開発したカルシウムバイオセンサーモデルに、1%プロポリス配合食を1週間摂取させた。その後、腸管中の樹状細胞(※2)に対するカルシウムシグナルの強度を検出した。試験の結果、プロポリスを摂取しなかった対照群と比較して、1%プロポリス配合食を摂取した群では、腸管のパイエル板に集まっている樹状細胞の中で、カルシウムシグナル強度の高い細胞数が3倍に増えていた(図)。

※2 樹状細胞
白血球の中の免疫細胞の一種で、血液によって運ばれ体の中のあらゆる場所に分布している。樹状細胞は、体内あるいは体の表面で異物を発見すると、自身の細胞内に取りこみ特徴を覚える。そして、覚えた異物の特徴をリンパ球に教え込み、リンパ球にその異物を攻撃するように指示を出す。そのため、免疫細胞の司令塔のような役割を担っているとも言われる。

プロポリスの腸管免疫に対する働き

今回の研究の結果から、食物と同様にプロポリスを摂取した場合には、健康維持と密接に関わる腸管で、免疫細胞の司令塔のような役割をしている樹状細胞に働きかけて免疫を活性化し、花粉症や風邪を改善するなど、私たちの健康に寄与していることが考えられた。食物は栄養を補給するだけではなく、免疫賦活といった機能性を発揮し、健康に役立つことが期待される。

 

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