研究成果のご紹介

ブラジル産プロポリスは脂肪蓄積によるストレスから肝臓を守る

近畿大学 工学部 小川 智弘(2011年度採択)

メタボの人は注意が必要な脂肪肝

近年、アルコール性、ウイルス性、薬物性の肝疾患を除く、主にメタボリックシンドロームに関連する肝疾患である非アルコール性脂肪性肝疾患(Non-Alcoholic Fatty Liver Disease; NAFLD(※1))が世界的に増加している。NAFLDとは、肥満によって肝臓に脂肪が蓄積した状態であり、特に、肝細胞の炎症や障害、肝組織の線維化まで進行した病態は非アルコール性脂肪性肝炎(Non-Alcoholic SteatoHepatitis ; NASH(※1))と呼ばれ、肝硬変や肝臓がんに発展するリスクが高まる。

脂肪の蓄積が肝臓の炎症、線維化を引き起こす

NAFLDの病態は、生活習慣病と同様に遺伝的要因と環境要因が密接に関連して進行するが、その一つにツーヒット説がある。過剰な栄養や肥満、糖尿病などが引き起こす肝臓への脂肪沈着が"ファースト・ヒット"であり、酸化ストレスや小胞体ストレス(※2)、過剰な遊離脂肪酸が引き起こす肝細胞のアポトーシス(個体を健全な状態に保つために積極的に引き起こされる細胞の自滅。プログラムされた細胞死。)と、それらに続く炎症と線維化が"セカンド・ヒット"である。したがって、NAFLDの治療は健康的な食事や適度な運動などの生活習慣改善によって体重を減らすことが基本となる。

メタボを防ぐプロポリス

そこで、近畿大学の小川氏らは、高脂肪食誘発肥満モデルにおけるメタボリックシンドローム予防効果が複数報告されているブラジル産プロポリス(以下、プロポリス)にNAFLD改善作用があるかどうか検証し、さらに、小胞体ストレスによる肝臓の炎症、線維化ならびに酸化ストレスによる肝臓ダメージにフォーカスして肝保護作用メカニズムを調べた。

プロポリスが肝臓の脂肪滴沈着や小胞体ストレスを防ぎ肝機能を維持

小川氏らはまず、プロポリスのNAFLD改善作用を確認するため、健康な群、NAFLDを誘導する群、NAFLDを誘導しつつプロポリスを100もしくは300mg/kg投与する群に分け、プロポリスを8週間投与した。8週間後、肝臓の脂肪滴の沈着状態や血中の肝機能マーカー(ALT)を測定した。その結果、プロポリスは脂肪肝における脂肪滴の蓄積を抑制し、肝機能を改善した。さらに、肝臓の小胞体ストレスや炎症、線維化、酸化に関連する遺伝子の発現量を測定した結果、脂肪肝における小胞体ストレスによる細胞死の誘導や炎症による線維化を抑制することが示された。また、プロポリスの抗酸化作用によって、肝保護作用を示すことも明らかとなった。

有用成分ケンフェロールによる小胞体ストレス抑制

次に、小川氏らは、関与成分とその作用メカニズムを探索する為、ヒト由来培養肝細胞に小胞体ストレスを誘発する遊離脂肪酸の一種のパルミチン酸を加え、プロポリス成分の一つケンフェロールを加えた場合の細胞生存率を測定した。その結果、ケンフェロールが小胞体ストレスを介した肝細胞のダメージを抑制し、細胞を増殖させることが確認できた。

これらの結果から、NAFLDにおいて、ブラジル産プロポリスや成分の一つケンフェロールが、脂肪蓄積を原因とする小胞体ストレスが引き起こす肝臓の酸化、炎症、線維化を防ぎ、NAFLD予防作用、肝保護作用を示すことが示唆された。今後、臨床への応用を目指した研究が期待される。

プロポリスやケンフェロールは小胞体ストレスを抑制→細胞死や炎症・線維化を抑制し脂肪性肝疾患を予防

※1 NAFLD/NASH は研究当時の名称。2023年6月、欧州肝臓学会、米国肝臓病学会,ラテンアメリカ肝疾患研究協会より、MASLD (Metabolic dysfunction Associated Steatotic Liver Disease)/MASH (Metabolic dysfunction Associated SteatoHepatitis) に名称変更することが発表された。

※2 様々なストレス(本研究では過剰な量の脂質)によって、小胞体でのタンパク質の折り畳み不全が蓄積し、細胞やその機能に悪影響を与えることを小胞体ストレスという。

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