研究成果のご紹介

ローヤルゼリーには歯周病を予防する効果があるか?

大阪大学大学院 歯学研究科 柳田 学(2008年度採択)

歯周病とは、歯の周辺の組織、すなわち歯周組織が炎症によって破壊される病気である。歯周病になると、歯茎が腫れたり、歯茎から出血したりし、最終的には歯を失うことも珍しくない。歯を失えば、日々の食生活が不自由になるのはもちろんのこと、生活の質(QOL)を大幅に損なうことになってしまう。さらに歯周病は近年の疫学研究において、糖尿病や肺炎といった重篤な病気の一因になると指摘されていることから、歯周病になる前にその発症を予防したり、初期の段階で症状を改善したりすることが、我々の健康を維持・増進する上で重要な課題と考えられている。

歯周病の原因は歯の表面に付着する細菌であるため、歯周病を予防するには、細菌と細菌が作ったものの塊である歯垢を丁寧なブラッシングにより除去することが求められる。それに加えて、歯周病を予防する効果を持つ食品があれば、歯磨き粉やマウスウォッシュ等に活用することで、より効果的な歯周病予防が期待できるだろう。そこで、大阪大学大学院歯学研究科の柳田学助教らの研究グループは、ローヤルゼリーに歯周病の予防効果があるかどうかの検討を行った。

柳田助教らが注目したのは、歯周組織のうち、歯の根元(歯根)と、歯を支える歯槽骨を繋いでいる“歯根膜”である。歯根膜は、歯槽骨や歯のセメント質のもととなる細胞を有しており、歯周組織の修復・維持において重要な役割を果たしている。さらに、歯周病の原因菌が産生するリポ多糖の刺激によって、炎症を引き起こす生理活性物質(炎症性サイトカイン)を分泌することも知られている。

柳田助教らは、歯根膜細胞を、0.02 mg/mL、0.1 mg/mL、0.5 mg/mLの濃度のローヤルゼリーをそれぞれ含む培地と、ローヤルゼリーを含まない培地で12日間培養して、細胞の石灰化がどの程度進むかを比較。石灰培地で、歯根膜細胞にローヤルゼリーを加えることで、どのくらい促進されるかを調べた。その結果、ローヤルゼリーを含まない培地に比べて、ローヤルゼリーを含む培地では、いずれの濃度でも、細胞の石灰化がより促進されることが明らかとなった(図)。このことから、ローヤルゼリーには歯の修復を促す作用があると考えられる。

また、ローヤルゼリーを添加した細胞では、オステオポンチン、オステオカルシン、オステリックスといった骨の形成に関わる遺伝子の発現が高まっており、これらの遺伝子の発現上昇が、ローヤルゼリーによる歯槽骨の石灰化に関わっていることが示唆された。

さらに細胞から分泌される炎症性サイトカインの量を検証したところ、ローヤルゼリーの濃度や処理時間に依存して炎症性サイトカインの分泌が抑制されることがわかった。したがってローヤルゼリーには、歯周病における歯周組織の炎症を抑える作用が期待できる。

以上の結果から、ローヤルゼリーが、歯周病の予防や症状改善の一助になる可能性があることが示唆された。ただし、柳田助教らの研究成果は細胞を用いた試験管内試験であるため、今後はヒトを対象とした歯周病の予防効果の検証が待たれる。

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