ローヤルゼリーを含む外用剤が痒みを和らげる可能性
千葉大学大学院 薬学研究院 山浦 克典(2010年度採択)
アトピー性皮膚炎など、多くの皮膚疾患における最も一般的な症状に“痒み”がある。痒い部分は自然と掻いてしまうものだが、そうすると痒みが増してさらに激しく掻くことになり、最終的に皮膚炎の悪化につながる。また、痒みは健康な人にとっても身近な感覚だが、やはり掻くことで皮膚炎が引き起こされる場合がある。したがって、痒みの緩和は皮膚炎の治療や予防において極めて重要である。
一般的に、痒みを伴う皮膚炎にはステロイド外用剤が用いられる。しかし、皮膚病を発症する手前の未病の状態における痒みに対して医薬品を用いることは、医学的に推奨されない。
そこで千葉大学大学院薬学研究院・山浦 克典准教授らの研究グループは、ローヤルゼリーを含む外用剤を日常的に使用した場合に、痒みが緩和されるか調べた。
ローヤルゼリーはアミノ酸を主体に、各種ビタミン・ミネラルなど40種類以上もの栄養素を含むため、肌の健康維持に優れた効果を発揮すると期待され、美容液、化粧水、クリーム、洗顔料など様々な外用剤に配合されている。ローヤルゼリーに痒みを和らげる効果があれば、皮膚炎発症の予防に役立てられる可能性がある。
試験では、ローヤルゼリー(0.01, 1%)を混合した基剤、または薬効成分を含まない基剤を継続して塗布した(n = 7-8)。比較のため、医療現場で皮膚炎の治療に広く用いられている吉草酸ベタメタゾン(0.01%)を混合した基剤を同様に塗布し、試験開始から26日後の痒みレベルを比較した。その結果、薬効成分を含まない基剤よりもローヤルゼリーを混合した基剤の方が、痒みレベルを有意に抑えることが示された。この作用は、吉草酸ベタメタゾンと同程度の強さだった(図)。
次に、ローヤルゼリーの作用メカニズムを調べるため、試験終了後にNGFの発現量を測定した。NGFとは、皮膚内の神経線維を伸長させる因子で、アトピー性皮膚炎患者の皮膚は、このNGFの作用によって痒みに過敏な状態になることが報告されている。測定の結果、吉草酸ベタメタゾンの塗布によってNGFの発現が抑制されるのに対し、ローヤルゼリーの塗布ではいずれの濃度でも有意な作用を示さないことが分かった。
今回の試験から、ローヤルゼリーを含む外用剤の日常的な使用によって、吉草酸ベタメタゾンを使用した場合と同程度にまで痒みが和らげられることが明らかとなった。さらに、ローヤルゼリー外用剤は、吉草酸ベタメタゾンとは異なり、NGFの発現抑制を介さないメカニズムによって作用を発揮することが示唆された。今後、作用メカニズムのさらなる解明とともに、製品への応用を目指した研究の実施が求められる。