研究成果のご紹介

ローヤルゼリーが感染症を予防する、そのメカニズムを解明

熊本大学 薬学部 三隅 将吾(2010年採択)

私たちの腸内には、私たちの身体を構成するすべての細胞よりはるかに多い、100兆個にも及ぶ細菌がすみ着いていると見積もられている。また、病気の原因となる細菌やウイルスなども数多く存在しており、私たちの腸は普段から常に病原体の攻撃にさらされているといえる。ところがそう簡単に私たちは感染症にかかることはない。なぜなら、私たちの腸には病原体を排除するための特殊な仕組み、「腸管免疫」が発達しているからである。

近年、M細胞という細胞が「腸管免疫」において大きな役割を果たしていることが明らかになってきた。M細胞は病原体を取り込むための入口として機能しており、取り込まれた病原体に対して、免疫細胞はIgA(免疫グロブリンA)などの抗体をつくり出す。この一連の反応によって私たちは腸内の病原体を排除しているのである。つまり、M細胞の数や機能をうまくコントロールできれば、腸管免疫応答をうまく調節でき、感染症の予防や症状の軽減につながる可能性がある。しかし、これまでM細胞の数や機能を調節する食品は見つかっていなかった。

一方、昔からローヤルゼリーを飲むことによって風邪をひきにくくなった、調子が良くなったという話を耳にすることがある。また、学術論文においても抗アレルギー作用や抗炎症作用などの報告があり、ローヤルゼリーには免疫力を高める効果が期待されている。しかし、そのメカニズムは未だ解明されておらず、腸管免疫への影響については報告されていない。そこで、熊本大学薬学部の三隅将吾教授らの研究グループは、ローヤルゼリーに腸管免疫を活性化する効果があるかを、M細胞に着目して調べた。

三隅教授らは、まず、ローヤルゼリーのヒト腸管上皮細胞に対する効果を調べた。この細胞は、リンパ球から適切な刺激を受けることによってM様(よう)細胞(M細胞と同様の性質を持った細胞)へ変化することが知られている。腸管上皮細胞にローヤルゼリーを添加し、3日間培養した結果、何も添加しなかった場合と比べて、ローヤルゼリーは腸管上皮細胞をM様細胞に変化させており、抗原(抗体をつくらせる原因物質)を取り込むための入口として機能も亢進させることが示唆された。

次に、酵素分解ローヤルゼリーを摂取すると抗原特異的なIgA抗体の反応性が上昇するかを調べた。評価のためのモデルを2グループに分け、片方のグループに抗原を1 mg、別のグループには抗原1 mgと酵素分解ローヤルゼリー240 mgを定期的に摂取させ、1、12、20日目の糞便を採取した。糞便中のIgA抗体の反応性を分析したところ、抗原のみを摂取したグループでは抗原特異的IgA抗体の反応性に変化がなかったが、抗原と酵素分解ローヤルゼリーを同時に摂取したグループでは著しく増加した(図)。

抗原のみを摂取したグループではIgA抗体の量に変化がなかったが、抗原と酵素分解ローヤルゼリーを同時に摂取したグループでは著しく増加した

以上の結果から、ローヤルゼリーは腸管内のM細胞の数や機能を調節し、かつ、継続的に摂取することによって抗原特異的IgA抗体の反応性を上昇させることが明らかになった。M細胞の数や機能に影響を与える食品としては、ローヤルゼリーが初めての報告である。このことは、ローヤルゼリーの摂取によって腸管免疫が強化され、細菌やウイルスへの抵抗力が高まる可能性を示唆している。なお、M細胞は年齢とともに減少することが報告されているため、ローヤルゼリーを摂取することは特に高齢者の感染症の予防や症状の軽減に役立つのかもしれない。今後、ローヤルゼリー中のM細胞の増加を促す関与成分の解明が待たれる。

参考文献

  • Kai H et al., Food Sci Nutr, 1(3), 222-227 (2013)

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