紫外線による皮膚老化を防ぐ酵素分解ローヤルゼリーの可能性
和歌山県立医科大学 皮膚科学講座 神人 正寿(2014年度採択)
健やかな皮膚には健やかな血管が重要
皮膚の老化は、紫外線、喫煙、ストレス、不適切な食習慣が、皮膚の細胞へ影響を及ぼし、表皮の萎縮や、細胞外基質(※)の変性を引き起こすことによって促進される。さらに、皮膚に存在する血管の内皮細胞が老化すると、毛細血管が減少し、残存する血管でも血管壁の弾力が低下して不規則に拡張する。その結果、正常な血管系を維持することが難しくなり、血液循環の障害、皮膚温度の低下、皮下血腫の発症、創傷治癒の遅れがしばしば認められるようになる。したがって、皮膚の老化に伴う様々な障害を防ぐためには、正常な血管系を維持することが重要である。
※ 細胞外基質:細胞の外に存在する物質。細胞間を充填したり、組織の構造を維持したりする働きがある。コラーゲンやエラスチンといったタンパク質を含む。
皮膚の老化を防ぐローヤルゼリー
ローヤルゼリーはこれまでに、紫外線による皮膚の老化を防いだり、角層の水分量を高めたりする作用を持つと報告されている。しかし、詳細なメカニズムは解明されていない。そこで和歌山県立医科大学の神人氏らは、ローヤルゼリーが、生体内で様々な遺伝子発現を調節する「マイクロRNA」という因子に作用し、血管の障害を阻止することで、紫外線による皮膚の老化を防いでいるのではないかと考え、マイクロRNAの発現に対するローヤルゼリーの影響を調査した。
紫外線による血管の老化に関わるマイクロRNA
初めに神人氏は、ローヤルゼリーによって発現が調節されるマイクロRNAを特定するために、酵素分解ローヤルゼリーで処理したヒト皮膚微小血管内皮細胞(HDMEC)における84種類のマイクロRNAの発現を解析し、酵素分解ローヤルゼリーを処理していない細胞と比較した。その結果、酵素分解ローヤルゼリーの処理によって、5つのマイクロRNAの発現が顕著に増減していた。
次に、酵素分解ローヤルゼリーによって増減した5つのマイクロRNAの発現について、若年者から採取した細胞と高齢者から採取した皮膚細胞で比較したところ、miR-129-3pとmiR-129-5pという2種のマイクロRNAが、高齢者の皮膚細胞で有意に増加していた。また、紫外線(B波)をHDMECに照射したところ、miR-129-5pの発現が有意に増加した。これらのことから、miR-129-5は紫外線(B波)によってダメージを受け、老化した血管内皮細胞で発現が誘導されるマイクロRNAであることが示された。
酵素分解ローヤルゼリーが皮膚の老化を防ぐメカニズム
最後に神人氏は、皮膚の血管老化の予防におけるローヤルゼリーとmiR-129-5の関わりを調べた。酵素分解ローヤルゼリーを処理したHDMECでは、処理していないHDMECと比較して細胞数が有意に増加した(図1)。また、HDMECでmiR-129-5pを強制的に過剰発現させると細胞数は有意に減少し、強制的に発現を抑制すると、有意に増加した(図2)。これらの結果から、酵素分解ローヤルゼリーはmiR-129-5pの発現を抑制することで、血管内皮細胞の減少を抑えることが示唆された。酵素分解ローヤルゼリーは、紫外線によるmiR-129-5pの発現を抑え、毛細血管の減少を防いで正常な血管系を維持することで、皮膚の老化を防ぐ可能性がある。