ローヤルゼリーは脳のミトコンドリアを活性化しうつ症状を改善する
鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 神戸 悠輝 (2016年度採択)
誰にとっても身近なうつ病
うつ病は「気分が落ち込む」「何をしても楽しくない」などの“こころ”の不調や、「眠れない」「食欲がない」などの“からだ”の不調が現れる病気である。「人付き合いが億劫になる」「仕事が手につかなくなる」など生活に支障が出る場合も多く、適切な対処が必要である。厚生労働省によると、うつ病などの気分障害と診断された患者数は年々増加し、平成29年には120万人を超えた。対処法として現在は、「うつ病の原因は脳内のセロトニンやドーパミンといった神経伝達物質(モノアミン)が減少することだ」という仮説に基づき、脳内のモノアミンを増やす作用のある抗うつ薬が主に使用されている。しかし、うつ病患者の3分の1は主要な抗うつ薬が効かないことが分かっており、異なるメカニズムでの対処が望まれている。
うつ病の原因はミトコンドリアの異常?
これまでの研究で、うつ病患者の脳内ではエネルギー(ATP)産生に関わるミトコンドリアの量や機能が低下していることが報告されており、ミトコンドリアが正常に機能していないことがうつ病の原因の1つと考えられている。また、うつ状態ではミトコンドリアの活性化に重要なサーチュイン1というタンパク質の発現量や活性が低下していることが明らかになっている。
うつ症状を改善する可能性があるローヤルゼリー
ローヤルゼリーはこれまでに、更年期によるうつ症状を改善したり、骨格筋のミトコンドリアの機能を高めたりすることが報告されている。しかし、ローヤルゼリーがどのようにうつ症状を改善するかは未だ不明な部分が残されている。そこで、鹿児島大学大学院の神戸氏らは、ローヤルゼリーによるうつ症状の改善には、脳でのミトコンドリアの機能改善が関わっているのではないかと考え、うつ症状に対するローヤルゼリーの影響とミトコンドリア機能の関係について調べた。
ローヤルゼリーは扁桃体のミトコンドリアを活性化する
神戸氏らは、うつ病モデルを、ローヤルゼリーを体重1 kgあたり1 gの用量で毎日摂取する群と、ローヤルゼリーの代わりに水を毎日摂取する群に分け、ストレスによる無気力状態の程度を評価した。その結果、ローヤルゼリーの摂取開始から10日目以降で、無気力状態にある時間が有意に短くなり、ローヤルゼリーがうつ症状を改善することが示された(図1)。続いて、脳内でのサーチュイン1タンパク質の発現量を測定したところ、ローヤルゼリーの摂取によって扁桃体(※)でサーチュイン1タンパク質の発現量が有意に増加した(図2)。また、扁桃体において、ミトコンドリアでのATP合成に必要な酵素であるATP5Aの発現量が有意に増加し、ミトコンドリアの内膜でATP合成の駆動力を作るタンパク質の発現も上昇する傾向にあった。
※ 扁桃体
側頭葉内側の奥にあり、不安や恐怖といった感情に深くかかわっている脳部位。うつ状態では強いストレスにより活動が過剰になっている。
以上の結果から、ローヤルゼリーによるうつ症状の改善には、扁桃体におけるサーチュイン1の発現を上昇させ、ミトコンドリアを活性化する作用が重要な役割を果たす可能性が示された。今後、ミトコンドリアをターゲットとするローヤルゼリーは、現在主流の抗うつ薬が効きにくい人に対するうつ病の対策に役立つことが期待される。