葉酸で動脈硬化を予防しよう
武庫川女子大学 国際健康開発研究所 森 真理(2008年度採択)
動脈硬化の原因として、近年、“ホモシステイン”に注目が集まっている。ホモシステインは、必須アミノ酸のひとつであるメチオニンが体内で代謝されるときにできる物質で、これが血中に蓄積すると動脈硬化が引き起こされる。
ホモシステインは、葉酸、ビタミンB6、およびビタミンB12の代謝に関係するいくつかの酵素によって再びメチオニンへ転換され、血中濃度が正常に保たれるように調節されている。そのような働きを担う酵素のひとつに、メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)がある。MTHFRは、ホモシステインからメチオニンへの転換に必要な化合物を作り出す酵素で、MTHFRの活性が下がると、ホモシステインがメチオニンに転換されにくくなるため、血中ホモシステイン濃度が高まることが知られている。
MTHFRには、遺伝子配列の違いによって3つの型がある。対立遺伝子(父方から受け継いだ遺伝子と母方から受け継いだ遺伝子)の677番目の塩基が両方ともシトシンであるCC型、片方がシトシンからチミンに変異したCT型、両方ともチミンに変異したTT型である(模式図参照)。TT型は活性の低い変異型であるため、TT型を持つ人は、CC型やCT型を持つ人よりも血中ホモシステイン濃度が高くなってしまう。さらにTT型は、心血管疾患、神経管欠損症、および精神・神経疾患の発症リスクを高めることも分かっている。
これまでに述べたMTHFRについての知見は、成人を対象とした研究で明らかにされたものだが、MTHFRのような代謝を担う酵素の変異は、若年者に対してこそ、大きな影響を与えると考えられる。なぜなら成人よりも、発育段階にある若年者の方が代謝が活発だからである。しかし、MTHFRの変異が若年者の血中ホモシステイン濃度に影響するかどうかは明らかにされていなかった。
そこで武庫川女子大学の森 真理講師らの研究グループは、若年者におけるMTHFRの変異と血中ホモシステイン濃度との関わりを明らかにするために、日本の健康な若年女性を対象とした調査を行なった。具体的にはまず、日本の女子中高生192名についてMTHFR の型を調べ、CC型、CT型、TT型にグループ分けした。そして食事調査を行ない、それぞれのグループにおけるビタミンB6、ビタミンB12、および葉酸の摂取量を調べるとともに、血中の葉酸とホモシステインの濃度を測定した。
その結果、ビタミンB6、ビタミンB12、および葉酸の摂取量がすべてのグループでほぼ同じだったにもかかわらず、TT型の人は他の型の人よりも血中の葉酸濃度が有意に低く、血中ホモシステイン濃度が有意に高いことが分かった。すなわち、成人のみならず若年女性でも、活性が低いTT型のMTHFRを持つ人は血中ホモシステイン濃度が高いことが確認された。
しかし、グループ全体における葉酸摂取量と血中ホモシステイン濃度の関係を調べたところ、葉酸摂取量の多い人の方が、血中ホモシステイン濃度が有意に低いことが分かった。また、TT型であっても、血中の葉酸濃度が高いと血中ホモシステイン濃度が低くなることも明らかとなった。これらの結果は、生まれながらに持つ遺伝子による病気のリスクが、食事によって軽減できることを示唆している。
日本の若年女性は痩身願望が強くダイエットに走りがちであるが、自分自身や将来出産する子どもの病気を予防するためにも、葉酸を多く含む食材(ほうれん草などの青菜、大豆製品、ブロッコリーやキャベツ、マンゴーやイチゴなど)を食事に取り入れ、葉酸を充分に摂ることが重要である。さらに、若年女性に食事の大切さを伝える食育が必要であると、森講師らは訴えている。