山田養蜂場運営の研究拠点「山田養蜂場 健康科学研究所」が発信する、情報サイトです。ミツバチの恵み、自然の恵みについて、予防医学と環境共生の視点から研究を進めています。
日本人にもっとも多い生活習慣病のひとつである糖尿病。放っておくと確実に悪化し、死に直結するさまざまな合併症を引き起こします。
手遅れにならないよう、糖尿病のメカニズムと予防法を糖尿病治療のエキスパートである鈴木吉彦先生に教えていただきました。
糖尿病になる日本人の数が増え続けています。グラフ1でわかるように、糖尿病が強く疑われる人(糖尿病の人)と、糖尿病予備群の人(糖尿病の可能性が否定できない人、「境界型」と呼ぶ)を合わせると、20歳以上の日本人で、糖尿病または糖尿病予備群の人は、27%にも上ります。しかし、グラフ2が示すとおり、そのうち治療を受けている人は6割にとどまっています。治療を受けない理由の多くは、「自覚症状がないから」。ここに、大きな危険がひそんでいます。
糖尿病は、自覚症状が出たときには、すでに上で示したような病気の危険が高まっています。また、糖尿病予備群であっても、動脈硬化から脳梗塞や心筋梗塞になる危険度は、糖尿病の人と変わらないことがわかっています。
ところが、「糖尿病予備群(境界型)」と診断された人は、“まだ大丈夫だろう” と、暴飲暴食をはじめ不摂生な生活を送りがちです。そもそも糖尿病は、重大な合併症を引き起こす前に発見し、治療するために、慎重な診断を行っています。正確な診断のためには、次に紹介するようないくつもの検査を行います。ですから、「糖尿病予備群」と診断された人は、決して“まだまだ大丈夫”な状態ではありません。糖尿病と診断された人と同様に、すぐに改善する必要があるのです。
糖尿病とは、血液中のブドウ糖の濃度(糖値)を一定に保つためのシステムが壊れ、ブドウ糖が増えすぎて血糖値が高くなっている状態です。ここで、血糖値が上がる仕組みをみてみましょう。
口から入った糖質は、消化の過程でブドウ糖に代えられ、私たちが活動するのに必要なエネルギー源になります。体内でのブドウ糖の代謝に不可欠なのが、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンです。インスリンは血液中のブドウ糖を減らす働きをし、血糖値を下げてくれます。
健康な人は、食事を始めると適切なタイミングでインスリンが分泌され、食後の血糖値上昇も大きくならずに速やかに元に戻ります。ところが、過食などで血糖値が高い状態が続くと、インスリンを分泌し続けなければならない膵臓は疲れ、インスリンの分泌が減ったり、インスリンの働きが悪くなったりします。インスリンの働きが悪くなった状態を「インスリン抵抗性」と呼びます。糖尿病予備群の人には、インスリン抵抗性を持つ人が多いと考えられます。
糖尿病かどうか診断するためには、主に3種類の検査を行います。
それぞれの検査と、診断基準となる検査値について説明します。
前夜から10時間以上絶食して朝食の前に血糖値を測ります。誰でも空腹時には血糖値が下がりやすいのですが、この検査値が126㎎/dlを超えると糖尿病、110~ 126 ㎎/dlは糖尿病予備群の可能性。
血糖値の変動を調べます。空腹時にブドウ糖を溶かした水を飲み、30分ごとに2時間後まで血糖値を測ります。空腹時血糖値が正常値とされる110㎎/dl未満でも、ブドウ糖負荷2時間後の血糖値が140㎎/dl以上であれば糖尿病予備群の可能性。
過去1~2か月の血糖値の平均を調べます。HbA1cと表記され、HbA1cが6.5%(国際標準値)または6.1%(日本糖尿病学会基準)以上であれば糖尿病、6.0~6.4%(国際標準値)または5.6~6.0%(日本糖尿病学会基準)であれば糖尿病予備群の可能性。
健康診断などで空腹時血糖値がほぼ正常と出ても、実は食後の血糖値が高いケースもありますので、疑わしい人は糖尿病専門医を受診し、詳しく検査する必要があります。
肥満の人は特に注意が必要です。肥満の人はインスリンの分泌が盛んであるために、夜間に血糖値が下がりやすくなっていることも考えられます。インスリンがきちんと働いている間は問題ありません。しかし、血液中のインスリン濃度が高いと、次第にインスリンの働きが悪くなり、「インスリン抵抗性」になる可能性が高いのです。
糖尿病が増えている大きな原因は、食生活の変化。脂っこい肉料理や、揚げ物、糖分の高いものなどを食べすぎて体脂肪が増加すると、血糖値をコントロールするインスリンの働きが低下します。
炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル、食物繊維を過不足なく摂る食事に変えれば、血糖値も安定してきます。おすすめは、主菜+一汁二菜の食事です。
ご飯などの主食を極端に減らすと、体と脳のエネルギーが不足します。しかもそれらに含まれるデンプンは、糖質の中では血糖値の上昇がゆるやか。主食できちんと摂りましょう。主菜では、脂身の少ない肉や、魚、卵、大豆などでタンパク質を摂りましょう。野菜や海藻に多いビタミン、ミネラル、食物繊維は体調を整え、他の栄養素の働きを助ける役目があり、血糖値のコントロールに不可欠。副菜で十分に摂りましょう。
糖尿病を引き起こすもうひとつの要因は、運動不足。血液中のブドウ糖の70~90%は、筋肉を使うことで筋肉に取り込まれ、消費されるのです。運動量を増やせばブドウ糖が消費され、血糖値は下がります。
運動によって血糖値が下がる理由はもうひとつあります。血液中のブドウ糖が細胞に取り込まれるためにはインスリンの働きが必要ですが、毎日運動していると、筋肉や脂肪組織がインスリンに反応しやすくなり、細胞が直接血糖を取り込むようになります。すると、インスリンの指示がなくてもブドウ糖をエネルギーとして消費できるようになり、血糖値が下がるのです。
加齢とともに基礎代謝は減るので、食べる量が同じでも体重が増加しがち。ウォーキングなどの有酸素運動を積極的に行いましょう。
監修
鈴木吉彦先生
日本医科大学客員教授。HDC アトラスクリニック院長。糖尿病専門医。専門は糖尿病の食事療法・神経障害・インスリン療法・血糖自己測定・患者教育と多岐にわたる。『糖尿病予備軍こそ治療を受けなさい』(主婦の友社)など著書多数。