HOBEEY DB

HOME

I. ミツバチについての基礎知識
  —ミツバチとはどんな生物か?—

(1) ミツバチの分類

昆虫 Insects

    地球上の生物はすべて進化の系統樹による類縁関係で結ばれている。それらは原核生物 Prokaryote と呼ばれる細胞核をもたない単細胞生物に始まる。単細胞生物から細胞核をもつ真核生物 Eukaryote が分岐し、真核生物は、生物である単細胞生物自身が産生する酸素が地球の大気に増えることと相乗して、その種類と数を増してきた。そこから、多細胞動物(後生動物 Metazoa)が分化した。現存する生物のうち多細胞動物の共通の祖先に近い生物は、立襟鞭毛虫や海綿などだったと想像されている。
    後生動物では、単一の細胞である(受精)卵が分裂を繰り返して成体を形成するが、この発生過程で働く転写因子と呼ばれるタンパク質分子群は、進化の過程においてよく保存されていることがわかってきた。それらは、RTK, Wnt, Hedgehog, TGF, Notch, 核内受容体 Nuclear Receptors などである。ミツバチもその例外でないことは、ゲノムが解読された時に確かめられている。後生動物が誕生した頃の生物は海の中に生息していた。海の中の生物の種類は、化石の記録としては5億4千万年前頃のカンブリア紀に爆発的に増大している。そこでは、単細胞生物である藻類の他に、さまざまな多細胞動物が見つかっている。その中には、甲殻類や後の脊椎動物につながる脊索動物も見つかっている。
    そのうちの甲殻類は、5億年から4億年ほど前に陸上に進出し、そこで鰓呼吸から空気呼吸をする気門と地面を移動するための脚を獲得したものが分岐した。それが昆虫である。昆虫に分岐する祖先生物としては、現在淡水に生息しているミジンコのような鰓脚類に近いものだったと推測されている。最初の昆虫は翅をもたない、現在のカマアシムシやトビムシのような動物(無翅昆虫)だったと推測されている。そこから翅をもった(有翅)昆虫が分岐した。有翅昆虫は無翅昆虫のうちのシミ目と系統的、形態的に近いことがわかっている。つまり、有翅昆虫は無翅昆虫のうちのシミ目に属する昆虫から分岐したと推測されている。なお昆虫は、節足動物 arthropods という門 phylum に属する。
    昆虫は陸上に存在する生物の中でも、極めて多様性にとみ、個体数も多く、繁栄していると言われている。実際に、名前が付けられている昆虫だけでも約100万種類が知られている。名前が付けられている生物種の全体は200万に近いので、その6割が昆虫で占められていることになる。しかもそのほとんどが翅がある有翅昆虫である。ただし、昆虫にしても生物種にしてもあまりに数が多いので、このような推計も大変大雑把なものである。例えば、昆虫の種類は200万から1,000万、科学的に識別された約100万種類の生物のうち、75%が昆虫だという推計もある(Peters88)。
    昆虫には、コロニー colony とよばれる群を形成(群居)する社会性昆虫 social insects と、孤立性あるいは群居しない solitary な昆虫がいる。社会性昆虫は、人間社会のモデルになるかもしれないという期待もあって研究者の関心が高い。その代表はハチとアリである。
    この昆虫の中から、花を訪れ花粉や花蜜を採取することから、結果として植物が殖えることを助けるものが出現してきた。そうした花を訪れるハチ(ハナバチ)の中からミツバチが分化した。花粉を媒介(送粉)する昆虫の出現と多様化は、花が外から目につきやすい被子植物が出現、繁栄してきた時代と重なっている。このことは、両者の共存関係を示唆している。

ハチの分類 Classification of Bees

    ハナバチの一種であるミツバチは英語で honeybee と呼ばれる。ハナバチ類はアナバチ類から進化したと考えられている。すなわち、分岐した毛をまとったアナバチがハナバチだと考えられている。ハナバチ類 bees は多様に分化しており、7科 family と425属 genera(genus)、約20,000の種 species に分類されているが、まだ知られていない種類も多いと推測されている(Michener00)。
    ハチの一部は社会性をもっている。それらは、同じ社会性を有するアリと形態も似ている。実際にこれら2つの昆虫は、ハチ目(膜翅目、まくしもく)Hymenoptera に分類されている。そのハチ目は、ハバチ亜目(広腰亜目、こうようあもく)Symphyta とハチ亜目(細腰亜目、さいようあもく)Apocrita という2つの亜目から構成されている。このうちミツバチが属しているのはハチ亜目の方であり、これは寄生蜂類と有剣類から構成される。有剣類はセイボウ上科、スズメバチ上科、ハナバチ上科に分類され、ミツバチはこの有剣類ハナバチ上科に属している。

    ハナバチ類の化石としては、ミツバチよりハリナシバチがよく出てくる。例えば、ハナバチ類の化石で、米国のニュージャージーで採取された琥珀に閉じ込められていたハチの年代は7,500万年前頃と推定されているが、これは現存するハリナシバチ属 Trigona に非常に似ている。これより新しい化石は、ドミニカ共和国で見つかった、やはり琥珀に閉じ込められたオオハリナシバチ属 Meliponaで、数千万年前のものと推定されている。ちなみに、ハナバチ類の最古の化石と言われるのは、ミャンマーで採取された琥珀に閉じ込められていたハナバチである。その年代は1億年前頃と推定されている。

系統分類

図1-1A.ミツバチの系統分類ーハチ目 拡大図↑

図1-1B.ミツバチの系統分類ーハチ目スズメバチ上科 拡大図↑

図1-1C.ミツバチの系統分類ーハチ目ハナバチ上科 拡大図↑

ハナバチ上科 Apoidea
    ハナバチ上科 Apoidea には、主に幼虫の餌として昆虫を利用するアナバチ類と、植物から花粉や蜜を集め、幼虫に餌として与えるハナバチ bee と呼ばれるハチ類に分類されている。この科 family には、ムカシハナバチ科 Colletidae、ヒメハナバチ科 Andrenidae、コハナバチ科 Halictidae、ハキリバチ科 Megachilidae、ミツバチ科 Apidaeなどのハチが分類されている。
    英語でいう wasp の仲間であるハチの多くはカリウドバチと呼ばれ、他の昆虫や蜘蛛を毒針で麻痺させ幼虫の餌として与える。こうしたハチでも成虫の食性は花蜜や花外蜜で、花を訪れる。こうしたハチの中から、他の昆虫を幼虫の餌とすることをやめ、花を食源とするよう進化してきたのがハナバチである。
    これらのハチは、もちろん花蜜を採取するために便利な口(吻)をもっている。これらのハチは、長い舌をもっているか、短い舌をもっているかで大きく2種類に分類される。短い舌をもつハチは、花の管が浅く、蜜が容易に採取できる進化上初期の被子植物 Angiosperm の蜜を集めていたハチの子孫であり、長い舌のそれは、蜜が花の奥深くにあるような進化上後期に出現した被子植物からも蜜を採取する能力を備えたハチの子孫だと考えられている。この分類では、ミツバチは長い舌をもったハチに分類されている。

アナバチ ムカシハナバチ ヒメハナバチ コハナバチ ハキリバチ
アナバチ科 ムカシハナバチ科 ヒメハナバチ科 コハナバチ科 ハキリバチ科

図1-2.ハナバチ上科に属するハチ類

ミツバチ科 Apidae
    ミツバチ上科 Apoidea の中に、ミツバチ科 Apidae が分類されている。この科 family には、クマバチ亜科 Xylocopinae、キマダラハナバチ亜科 Nomadinae 、ミツバチ亜科 Apinae の亜科 subfamily が含まれている。
    ミツバチ科の亜科に分類されるハチの中でも、進化の上でミツバチ Apis にもっとも近縁だと考えられているのが、シタバチ族 orchid bee(Euglossini)、マルハナバチ族 bumble bee(Bombini)、ハリナシバチ族 stingless bee(Meliponini)である。これらのハチは、後脚脛節の外側に花粉かご corbicula(pollen basket) を有する。

クマバチ コシブトハナバチ キマダラハナバチ マルハナバチ ハリナシバチ
クマバチ コシブトハナバチ キマダラハナバチ マルハナバチ ハリナシバチ

図1-3.ミツバチ科に属する亜科のハチ類

クマバチ亜科 Xylocopinae
   クマバチ族 Xylocopini
    クマバチ Carpenter bees は、日本ではしばしばクマンバチと混同されているが、クマンバチはスズメバチである。また、クマバチ Xylocopa appendiculata circumvolans と呼ばれるハチは、ミツバチ科のクマバチ亜科 Xylocopinae に属するハチであり、日本では本州、四国、九州で見つかる。マルハナバチとクマバチは大きさがほぼ同じで似ている。
    クマバチは、木材や竹材に穴を開けて住むので、家屋の壁板や垂木に穴をあけてしまうというような被害の報告がある。素手で掴むと刺される。

ミツバチ亜科 Apinae
   マルハナバチ族 Bambini
    マルハナバチ Bumble Bees は、ミツバチ科マルハナバチ亜科に分類されるハチとして、世界でこれまで約250種が知られている。社会寄生性のヤドリマルハナバチ属と独立栄巣性のマルハナバチ属に分類されていたが、最近の分類体系では、マルハナバチ属 Bombus として一属にまとめられている。アジア中央部の草原地帯が分布の中心であるが、欧州、東アジア、東南アジア、南北アメリカ大陸にも分布している。
    温帯に生息する種の多くでは、女王バチが春先に単独で巣づくりをはじめ、次に働きバチが増えると女王バチは産卵に専念し、夏から秋にかけて次世代の女王バチと雄バチを産む。雄バチと交尾した新女王は土の中などにもぐりこんで越冬する。この様式はスズメバチに似ている。熱帯に生息する種のなかには、ミツバチと同じように巣分かれ(分蜂)で増えるものもある。
    日本には15種のマルハナバチが生息している。北海道と本州では種の構成が異なり、また一部の種で亜種への分化がみられる。本州では、中部山岳域で多くの種がみられる。マルハナバチは多くの植物にとって重要な送粉者である。このハチは種によって吸蜜の舌の長さが異なり、採取する蜜源の花も異なる。ナス、ピーマン、トマトなど花蜜を出さない植物のハウス栽培では、ミツバチではなく、振動採餌習性があり、受粉能力に優れているマルハナバチが使われている。米国では2009年6月に、マルハナバチを受粉に使うための会合がスミソニアン博物館の主催で開かれている。
    マルハナバチは体の大きさに較べて翅が小さく、一秒間に200回も羽ばたきをするが、なぜ飛翔できるか説明しえないとして、航空力学の研究者の興味も惹いている。

   ハリナシバチ族 Meliponini
    ハリナシバチ Stingless Bees は、ミツバチ Apis に似たハチである。後に述べるように、ミツバチは単一の属のみであるのに対して、ハリナシバチは多数の属に分かれており、主な属として、ハリナシバチ属 Trigona とオオハリナシバチ属 Melipona がある(Rasmussen07)。
    花粉や花蜜を採取するハチ類は、自然界においては受粉媒介者 Pollinator としての役割を果たしている。花をつける植物にとって、彼らは重要な共生者であり、両者は相互依存しながら陸上で繁栄してきたと推察されている。「ミツバチと環境」の項でふれているように、こうした共存関係の最古の証拠となる、ランの花粉とハリナシバチの働きバチが閉じ込められている1,500-2,000万年前と推定される琥珀が、ドミニカ共和国で見つかっている(Ramirez07)。

    なおハチの分類については、I. Gauld and B. Bolton, The Hymenoptera, Oxford University Press, 1988 や ミッチェナー Charles D. Michener の大著、The Bees of the World, Johns Hopkins Univ., 2000 がある。日本語では、千葉県立中央図書館(監修)、あっ!ハチがいる!世界のハチとハチの巣とハチの生活、晶文社、2004 が一般向きである。しかし、膨大な種類のハチの分類は研究者によって違うし、また似た種類が多いので、一般には極めてわかりにくい。

   ミツバチ族 Apini
    現存するミツバチ(Apidae: Apini)は、すべて Apis と呼ばれる単一の属 genus に分類される。しかし、そのミツバチにも様々な種類がある。その分類としては、例えば Ruttnerのそれ(Ruttner88)が良く引用される。ただし、ミツバチの分類には異論もあり、いまだに決着していない。
    例えば最初は、セイヨウミツバチと呼ばれるアピス・メリフェラ Apis mellifera、オオミツバチ giant honey bee と呼ばれるオオミツバチ Apis dorsata とヒマラヤオオミツバチ Apis laboriosa、インドミツバチ Indian honey bee と呼ばれるトウヨウミツバチ Apis cerane、コミツバチ dwarf honey bee と呼ばれるコミツバチ Apis florea という5つの種 species が知られていたが、その後9種に分類されるようになった。
    これらは、開かれた空間に単一の巣をつくる種類、すなわち、オオミツバチ giant honey bees (オオミツバチ A. dorsata、ヒマラヤオオミツバチ A. laboriosa)、dwarf honey bees (クロコミツバチ A. andreniformisA. florea)と、穴状の閉鎖空間に複数の巣板をつくる cavity-nesting ハチ (セイヨウミツバチ A. mellifera、トウヨウミツバチ A. cerana、サバミツバチ A. koschevnikovi、キナバルヤマミツバチ A. nuluensis、クロオビミツバチ A. nigrocincta) に分類される。さらに、オオミツバチの亜種 A. dorsata binghami を独立種、A. binghami として10種類に分類する説もある。逆にヒマラヤオオミツバチをオオミツバチの亜種として扱い8種にする研究者もいる。
    進化の上では、開放空間に巣をつくる種は、穴状の閉鎖空間に巣をつくる種より、原始的だと考えられている。人に飼われて利用される性質を備えているのは、閉鎖空間に営巣するセイヨウミツバチだけである。

9種類の分類:日本語の名称と生息地
   全部で9種類に分類されるミツバチと生息地は以下の通りである。

  • セイヨウミツバチ(学名:Apis mellifera) - ヨーロッパ・アフリカに分布。
  • トウヨウミツバチ(学名:Apis cerana) - アジア全域に分布。
  • サバミツバチ(学名:Apis koschevnikovi) - インドネシアのボルネオ島、ジャワ島、スマトラ島に分布。
  • キナバルヤマミツバチ(学名:Apis nuluensisi) - インドネシアのカリマンタン(ボルネオ)島に分布。
  • クロオビミツバチ(学名:Apis nigrocincta) - インドネシアのスラウェシ島に分布。
  • オオミツバチ(学名:Apis dorsata) - 東南アジア・南アジアに分布。
  • ヒマラヤオオミツバチ(学名:Apis laboriosa) - ヒマラヤ地域に分布。
  • コミツバチ(学名:Apis florea) - 東南アジアから南西アジアに分布。
  • クロコミツバチ(学名:Apis andreniformis) - 東南アジアに分布。
コミツバチ オオミツバチ セイヨウミツバチ トウヨウミツバチ
コミツバチ オオミツバチ セイヨウミツバチ トウヨウミツバチ

図1-4.ミツバチ亜科ミツバチ属のハチ類

    <セイヨウミツバチ>
    セイヨウミツバチ Apis mellifera の名称は、ラテン語の melli すなわちハチミツと、ferre すなわち「荷(にな)う」から来ている。厳密に言えば、ハチミツではなく花蜜の運び屋であるセイヨウミツバチは、養蜂において最も広く飼育されている種類である。これはそもそも9(10)種類に分類される Apis のうちの例外的な種類であり、アフリカ、中東、欧州地域に生息していたとされる。その他はすべてアジア、それも熱帯地域に生息しているミツバチである。
    養蜂の発展に伴い、セイヨウミツバチの生息地域は、いまや全世界に広がっているが、それらはまた多くの亜種 subspecies に分類されている。亜種の数は24とされているが、28亜種に分けている研究者もいて一応の目安である。その大きな分類としては、ヨーロッパの北西に生息する亜種が、 A. m. iberica、A. m. intermissa、A. m. lihzeni、A. m. mellifera、A. m. sahariensis の5つ、ヨーロッパの南西に生息する亜種が、A. m. carnica、A. m. cecropia、A. m. ligustica、A. m. macedonica、A.m. ruttneri、A. m. siciliana の6つ、中東に生息する亜種が、A. m. adamii、A. m. anatoliaca、A. m. remipes、A. m. caucasia、A. m. cypria、A. m. meda の6つ、アフリカに生息する亜種が、A. m. adansonii、A. m. capensis、A. m. intermissa、A. m. lamarckii、A. m. litorea、A. m. major、A. m. monticola、A. m. sahariensis、A. m. scutellata、A. m. unicolor、A. m. jemenitica の11である。
    ちなみに、養蜂に適しているとされ最も広く飼育されているのは、上記のセイヨウミツバチの亜種のうちイタリアに生息していた(品種名)イタリア Italian bees(A. mellifera ligustica)である。それ以外では、オーストリア・アルプスの南のスロベニアに生息していたカーニオラン Carniolan bees(A. mellifera carnica)、コーカサス山脈付近にいたコウカサス Caucasian bees(A. mellifera caucasia)、ドイツ German dark(A. mellifera mellifera)などが使われている。
    米国大陸にはもともとミツバチがいなかったが、スペイン人たちが持ち込んだセイヨウミツバチ(最初は A. m. mellifera、後に A. m. ligustica)が北米にも広がった。1956年には、セイヨウミツバチ A. mellifera のアフリカの亜種、A. mellifera sucutella が、ブラジルに研究用に持ち込まれた。この亜種は、既にヨーロッパから導入していたセイヨウミツバチとも交配し南米と北米にも広がったが、性質が荒いことから北米ではキラー・ビー killer bee の異名をとり、アフリカ化ミツバチ Africanized Honey Bees と呼ばれ問題になっている。ただし、ブラジルなどでは、高温多湿に適合する性質を発揮して、良質のプロポリスを産生しているという説もある。

    <トウヨウミツバチ>
    日本に生息するニホンミツバチは、アジアに生息する Apis cerana の一亜種であり、学名は Apis cerana japonica である。東アジア地域では、中国亜種、インド亜種、ヒマラヤ亜種、日本亜種という、トウヨウミツバチ A. cerana の4亜種が生息しているとされている。ただし、この分類は8亜種やそれ以上に分ける説もあり、未だ定かではない(Engel99, 高橋03)。
    興味深いことに、ネパールには、A. laboriosa、A. dorsata、A. florae、A. ceranaという4種類のミツバチが野生で生息している。そのうちの A. laboriosa は、ヒマラヤ高地の断崖の木の枝に巣をつくる、世界最大のミツバチで、ヒマラヤオオミツバチ Himalayan giant honey bee と呼ばれるが、地元民はこのハチの巣からもハチミツを採集している。A. dorsata もオオミツバチであるが、マレーシアのサラワク州(ボルネオ/カリマンタン島)では、伝統的にこのオオミツバチの巣からハチミツを採取することが行なわれている(鮫島03)。コミツバチ A. florea は、世界最小のミツバチで、ネパール以外に、同じ東アジアの熱帯の低地に生息している。先に述べたように、A. cerana は、日本にいる野生のミツバチと同種類のミツバチである。
    セイヨウミツバチについては多くの研究がなされているが、アジアのそれはこれまで比較的少なかった。最近、総説的な著作が刊行された(Oldroyd06)。

日本のミツバチ

    日本には、トウヨウミツバチの亜種である野生のミツバチ Apis cerana japonica が固有(亜)種として生息していたが、1877年(明治10年)に、アメリカ経由でヨーロッパからセイヨウミツバチが持ち込まれた。セイヨウミツバチは、養蜂に使われるミツバチとしては優れた性質をもっていたため、ニホンミツバチを駆逐した。その結果、ニホンミツバチはほとんど忘れられた存在となっていたが、その後、一部の養蜂家や研究者によって、ニホンミツバチの復活が図られている。我が国の場合、養蜂用のセイヨウミツバチは人に管理されて生息しているが、ニホンミツバチは、飼育されても人工的な巣を集団で退去(逃去)してしまう性質があるため、野生のものと飼われているものとの区別はまだあいまいである。
     なお、日本の壱岐島(いきのしま)長者原(ちょうじゃばる)から、オオミツバチ A. dorsataと近縁のミツバチの化石がみつかった。これはオオミツバチ亜族の種の化石としては最初のもので、Apis lithohermaea と名付けられ、国立科学博物館に保管されている(Engle06)。

身近なハチたち

アシナガバチ Long-legged Paper Wasps
    アシナガバチは、スズメバチ科 Vespidae のアシナガバチ亜科 Polistinae に属するハチで、日本では3属11種が生息している。英語の Paper Wasps は、このハチが、木材の繊維と唾液をまぜて薄く延ばした紙のような材質で巣をつくることに由来する。日本産のアシナガバチで、もっとも大きいのがキアシナガバチ(学名:Polistes rothneyi iwatai van der Vecht)で、マルハナバチやスズメバチと同じように越冬した女王バチが目覚めて大家族をつくっていく一年周期の生活史をもつものである。

スズメバチ Hornet/Wasp
    スズメバチは、アシナガバチと同じくスズメバチ科 Vespidae に属しているが、その中のスズメバチ亜科 Vespinae を構成する4つの属、スズメバチ属 Vespa、ヤミスズメバチ属 Prorespa、クロスズメバチ属 Vespula、 ホオナガスズメバチ属 Dolichorespula に分類されるハチである。 スズメバチの発祥の地は中国南部である。日本では3属16種が生息している。そのうち大型のスズメバチ属に属するハチが7種類知られている。
    その中のオオスズメバチ V. mandarinia は、大型スズメバチの中でも世界最大級で、体長は女王バチで45mm、働きバチでも大型のものは40mmほどある。我が国の都会で増加しているのは、キイロスズメバチ V. simillima(Japanese Hornet)である。
    なお、英語の Yellow Jacket は、スズメバチ科クロスズメバチ類に属する小型のハチの総称である。

参考文献

  • T. M. Peters, Insects and Human Society, Van Nostrand Reinhold, 1988.
  • Charles D. Michener, The Bees of the World, Johns Hopkins Univ., 2000.
  • C. Rasmussen and S. A. Cameron, A molecular phylogeny of the Old World stingless bees (Hymenoptera: Apidae: Meliponini) and the non-monophyly of the large genus Trigona, Systematic Entomology (2007), 32, 26–39.
  • S. R. Ramirez et al., Dating the origin of the Orchidaceae from a fossil orchid with its pollinator, Nature, 448: 104201045, 2007.
  • 千葉県立中央図書館(監修)、あっ!ハチがいる!世界のハチとハチの巣とハチの生活、晶文社、2004.
  • F. Ruttner, Biogeography and Taxonomy of Honeybees, Springer, 1988.
  • Benjamin P. Oldroyd and Siriwat Wongsiri, Asian Honey Bees: Biology, Conservation, and Human Interactions, Harvard University, 2006.
  • 鮫島弘光、ボルネオのオオミツバチApis dorsata F.と蜂蜜採集、日本熱帯生態学会Tropical Ecology Letters, No.50, 2003.
  • M. S. Engle, A Giant Honey Bee from the Middle Miocene of Japan (Hymenoptera Apidae), American Museum Novitates, 3504: 2006.
  • M. S. Engle, The taxonomy of recent and fossil honeybees (Hym.; Apidae; Apis). Journal of Hymenoptera Research 8(2): 165-196. 1999c.
  • 高橋純一、ニホンミツバチの起源と分布、昆虫と自然、38: 12-15, 5, 2005.

前のページにもどります

ページTOPにもどります