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I. ミツバチについての基礎知識
  —ミツバチとはどんな生物か?—

(3) ミツバチの行動

ミツバチの行動

役割Casteと寿命
    ミツバチのコロニーの、役割を異にする3種類の構成員、女王バチ、働きバチ、雄バチは、大きさも形態も寿命も違う。女王バチは、巣房内にいる期間が 16日ともっとも短いのに、体は最も大きく、2年以上も生きている。女王バチの巣房は、巣板 comb の縁に垂れ下がった形でつくられるので、働きバチや雄バチが水平の巣房内で育つのに対し、女王バチの蛹は地面に垂直な姿勢をとる。女王バチは、巣房からでて一週間ほどで、数日間、雄集団が舞う空間に交尾のために飛んでいき、精子を貯留して戻ってから、後はひたすら産卵を続ける。
    しかし、集団から見れば、こうした正常な状況がいつも可能になるとは限らない。例えば、女王バチが急死した場合、コロニーは、すでに産みつけられた卵や育っている働きバチの幼虫の餌を、ローヤルゼリーに換えるなどして、新しい女王バチを緊急に誕生させようとする。その時は巣房の形や大きさも調節される。
    あるコロニーが新しいコロニーを生み出すのが分蜂である。この場合は、もとになるコロニーの女王バチはそのままの役割を続けるが、同時に 20ほどの女王バチ用の巣房が巣板縁に新たにつくられる。これらの巣房のうち、最初のものの蓋が閉じられると、もとの女王バチは巣の一部の構成員をつれて新しい巣作りに飛び立っていく。残った巣では、最初に誕生した女王バチが、残りの構成員たちと新しいコロニーを形成する。複数の女王バチが誕生した時は、殺し合いによって一匹に淘汰される。 あるコロニーの女王バチが老いた場合、1つか2つの新しい女王バチ用の巣房がつくられ、ここで新女王バチが誕生する。この場合、新女王バチは、誕生後5日から一週間ぐらいで交尾飛行にでかけ、後は卵を生むことに専念するようになる。この場合、古い女王バチは姿を消すが、まれに、新旧の女王バチが並存していることがある。
    巣房内を 21日で出た働きバチは、最初の2週間は巣房の掃除や幼虫やさなぎの世話し、餌を与える。次の1週間は、ワックスを分泌して巣房をつくり、運搬されてきた採取物を受け取る役をする。次の幾日かは巣の入り口の警護に当たり、それ以後は外に出て、花蜜、花粉、プロポリス(樹脂)、水の採集に従事し、5-7週間ぐらいで死んでしまう。
    大きく太って見える雄バチを、初心者はしばしば女王バチと見誤るが、よく観察すれば、女王バチの腹部は雄バチのそれより長く、雄バチの胴は女王バチのそれより太く、複眼が大きいことがわかる。女王バチと(同じ雄バチから精子が受精に使われた一部の)働きバチとは遺伝的には同一である。女王バチも働きバチも雌の生殖器官をもっている。
    雄バチの役割は、主に集団の交尾飛行に参加することだけである。したがって雄バチが見られるのは、4月から9月頃だけである。ただし、雄バチの仕事の例外は巣の温度を調整することで、花粉や花蜜や水を求めて働きバチが巣を出払ったような寒い朝方、巣の温度を摂氏35度に保つように、集まって筋肉を振るわせることがある。また、餌の受け渡しに参加することもある。そのためか、集団交尾飛行が行なわれるのは、だいたい午後1時から5時ごろである。交尾に成功した雄バチは、生殖器官がちぎれてそのまま空中で死んでしまう。交尾に成功せず生き残った雄バチは、花粉や花蜜が収穫できない季節になると、巣の中の厄介者となり、餌を与えられなくなり、働きバチに咥えられて巣の外に運ばれるなどして、巣から追い出され、餓死して巣の外で果ててしまう。巣箱の外に雄バチの屍が多く見られるのは、巣が健全に機能していることを示す印であり、養蜂家には望ましい状況である。

交尾行動

図1-11.ミツバチの交尾行動
(Winston91, Fig12.3, 12.4を基に作成)

コロニーの生活史

図1-12.コロニーの年間生活史
(Diemer88, p14の図を基に作成)

コロニーの生活史
    社会性昆虫の群れの活動は、個々の構成員の生活が総合されたものである。この視点で見れば、太陽活動に連動した季節性が見られる。植物の花に依存するハチ、とくにミツバチでは、群れの活動は花が出現する時期に始まり、生活圏に見られる花が少なくなるとともに急速に減退する。この状況は、図1-12のような曲線で表現される。冬季は活動が停止される。
    コロニーをつくるハチでも、冬眠した女王バチ一匹が、春に単独でコロニーをつくるものもあるが、ミツバチの場合は、女王バチは常に働きバチと一緒に生活している。

巣における行動
    ミツバチの巣におけるコロニーの構成員の行動目標は、次世代につなげていくことに関係している。そのために、女王バチと雄バチを育てること、女王バチと雄バチを交尾飛行に送り出すこと、女王バチに卵を産ませること、それらの卵を育て、それぞれの構成員の数に関して、必要な調整を行なうこと、新しいコロニーを生み出すこと、などが行われる。
    これらについては、巣の項で説明したが、そこには多くの対象および状況判断、仲間とのコミュニケーション、対象に対する制御行動が関わっている。巣の中が暗いから、そうした行動には、口や脚や体毛などの接触による力学的な感覚と、匂いやフェロモンにあたる化学物質に依存した感覚が関与している。それらひとつひとつの行動の物質的な基礎と遺伝学的な基礎を明らかにすることは、ほとんどこれからの研究課題として残されている。それらには、ミツバチに特有なものと、他のハチや社会性昆虫に共通なものがある。
    ミツバチでとくに特徴的なのは、巣房あるいは巣の温度管理である。それは羽を動かすのと同じ筋肉を、飛翔のためにでなく動かし、その力学的なエネルギーを熱的なエネルギーに変える能力であるが、その力学的なエネルギーの源は、蜂蜜という高カロリー食にある。生物にとって、温度は生存に関わる基本的な因子であるが、ミツバチは群れの住居に冷暖房装置を備えているという点で珍しいだけでなく、子育ての温度が人間の体温に極めて近い摂氏35度だという点も興味深い。さらに、巣の中のコミュニケーションの手段として、化学的な信号だけでなく、ワックス網を伝播する振動を利用するという現象も珍しいと言える。

野外行動
    ミツバチの野外活動は、役割 caste によって全く違う。女王バチが巣をでるのは、最初に精子を溜め込むための交尾飛行と、分蜂 swarming のため新たな巣に移住する時だけである。雄バチは、集団交尾飛行に参加するためである。 これに対して働きバチは、餌となる花粉、花蜜 nectar、甘露蜜 honeydew、プロポリス(の原料)、水などを見つけて搬送してこなければならないため、最も頻繁に出入りする。これを採餌行動 foraging と呼ぶ。
    花蜜は植物の蜜腺 nectary から分泌される液体で、平均 20%ほどの糖分を粗糖 raw sugar の形で含んでいる。水分は 30-90%とばらついている。花蜜は巣において糖分が濃縮されて蜂蜜になる。ミツバチのひとつのコロニーは、一年間に40kgの蜂蜜を必要とするが、そのためには 225kgの花蜜が採集されなければならないことを意味している。甘露蜜 honeydewとは花の分泌物ではなく、植物に付くアブラムシなど(アブラムシ aphids, カイガラムシ coccids, scale insects)が分泌する液体で、16-20%の糖分の他、アミノ酸やミネラルを含んでいる。
    ミツバチが採集対象とする花は、地域と状況でさまざまであるが、好まれる花(植物)と好まれない花(植物)がある。また、同じ花でも、花蜜と花粉は同時期に採集されないことがある。また、花粉や花蜜は採集できても、honeydew が採集できる植物とできない植物がある。
    採餌のためには、偵察したり、目的物の良し悪しを判断して試験採集したり、目的地と採集物などの情報を仲間に伝達したり、新人に採集方法を教えたりする行動が必要になる。また、花を観察し、採集に値する対象かを識別する必要もある。ここには、当然、記憶、学習、仲間とのコミュニケーション能力が求められる。
    偵察飛行で、花を見つけ、それを吟味し、採取する一連の行為では、視覚と嗅覚が使われる。ミツバチの行動範囲は、半径数キロにおよぶので、化学物質による感覚だけでなく、眼による視覚情報に頼ることになる。ミツバチは、野外の景色を認識しながら飛行し、花を識別する。この時、外界を映すのは2つの複眼である。ミツバチのひとつの複眼は、6000個の単眼レンズからなる系である。その解像度は悪く、数センチ程度である。ミツバチの劣悪な視覚認識機能を助けているのは、波長に応じた応答、すなわち色であるが、この応答特性は人間のそれとは同じではない。すなわち、ミツバチは人間が赤と認識する長波長を捉えることができないので、そうした赤、例えば赤いポピーは黒に映る。その代わり、人間が感知できない紫外線を感知でき、紫外線を反射する部分をもつ花弁を容易に識別することができる。
    ミツバチの形態識別能力は、餌の採取場所で最高に発揮されるが、帰巣飛行においてはその能力はすでに働いていない。ミツバチの飛行は、スナップショットのような情景の連続だと考えられている。こうした能力は、採餌飛行だけでなく他の飛行行動、例えば働きバチが集団交尾飛行に参加する女王バチや雄バチに同伴する飛行や、分蜂時に集団となる飛行などでも発揮される。
    花の形や色だけでなく、香りもミツバチの誘引を助けている。哺乳類の嗅覚器と違って、ミツバチの嗅覚器はアンテナである。アンテナの表面には無数の匂い受容体細胞が分布し、匂い分子を捉えるだけでなく、触覚、温度、湿度も検知する。
    花を訪れるミツバチの行動は、一見、アブ(ハエ)や蝶のそれと似ているが、よく観察するとミツバチの飛行には、開花している同じ種類の花を訪れるという、花選好性(あるいは定花性)flower constancy と呼ばれる規則がみられる。ミツバチのこの能力は、形と色と匂い感覚を統合したものと考えられているが、それぞれの感覚ごとの学習能力は異なるものである。すなわち、匂いはもっとも学習が容易で、形と色の学習には時間がかかる。
    ミツバチの採餌飛行は、野外に分布するどの花をいつ訪れるかという巡回飛行計画にしたがっているように見える。そのような計画は、ミツバチが、飛行中の自分と左右の位置を認知し、景色や花の形状の対称性を感知し、花粉や花蜜などの多少を認識できなければ立案できないと考えられている。だからこうした計画飛行ができるミツバチは、高度な知能を備えているのではないかと考えられている。
    偵察飛行で発見された餌となる花の場所までの飛行情報を仲間に伝えるのが、有名な尻ふりダンスである。それは太陽の方向と蜜源の方向のなす角度を、地面への垂直線とダンスで示される線との角度に対応させ、蜜の多少をダンスの激しさに、距離をダンスの線のゆらぎに対応させるコミュニケーションである。太陽の位置を参照したミツバチの飛行には、コンパスとなる地磁気の感知機能も必要である。
    このように、ミツバチの採餌行動には、視覚、聴覚(あるいは音の感知能力)、味覚、嗅覚、地磁気の感知能力などが総動員される。

図1-13.8の字ダンス 目的地までの方向と距離
(Tautz08, Fig.4.20, 21, 23を基に作成)

防御能力

積極的な防衛行動
    ミツバチを攻撃する生物は大きく3つのグループに分けられる。ひとつは、人間、熊、鳥、鼠など、ミツバチよりずっと大きな野生の動物である。第2は、同じ昆虫の仲間など無脊椎動物である。第3は、寄生あるいは感染性のダニや微生物およびウィルスである。このうち第1と第2の攻撃者には、地域的な特徴がある。例えば北米なら、第1のグループは熊、アナグマ、スカンク、ヒキガエルなどであり、日本なら熊、ヒキガエルなどである。日本での第2グループには、オオスズメバチ Vespa mandarinia、キイロスズメバチ V. simillima、コガタスズメバチ V. analis などのスズメバチが含まれる。熱帯ではアリもミツバチの巣を襲う。これらの攻撃者は、ミツバチを殺し、幼虫や蜂蜜を食料として奪っていく種類もいる。鳥は、巣の近くの見張りや採餌、集団交尾などで飛行しているミツバチを空中で捕らえて食べてしまう。
    第1の攻撃者のうち巣を襲う哺乳類に対しては、音を出して威嚇するなど集団で向かい、針で刺すというような防御行動をする。しかし、こうした物理的な接触によらない防衛行動も報告されている。それには aposomatic coloration と呼ばれる体の色を変える対処法などがあるが、研究者の関心を惹いている行動のひとがシマリング shimmering である。これは、開放空間に巣をつくるオオミツバチ Apis dorsata、トウヨウミツバチ A. cerana やコミツバチ A. florea で見られる。シマリングというのは、1986年にメキシコのサッカーの観客が行なった、人が波のように次々と立ち上がるメキシコウエーブのような集団の動作である。ただし、人の場合は立ち上がるのであるが、ミツバチは腹を上に振り向ける。こうした行動は捕食者を追い払うのに効果があるのではないかと考えられているが、確証はない。最近、それがスズメバチ hornet を撃退する効果があるという研究もなされている。

    第2の攻撃に対しては、もう少し個別的な対応が見られる。養蜂家によく知られているのが、スズメバチの襲撃である。とくにオオスズメバチは天敵で、最初数匹が偵察にやってくる。これに対してセイヨウミツバチは、個々に戦うが、オオスズメバチの頑丈な下顎によって噛み砕かれ、コロニーが全滅させられてしまう。ところがトウヨウミツバチは、これを巣の中に誘い込んで取り囲み(蜂球形成、あるいは熱球形成 heat balling)、集団で温度を摂氏45度に上げて殺してしまう。セイヨウミツバチとトウヨウミツバチ(ニホンミツバチは日本の固有種である)のこの違いは、昔からオオスズメバチの生息地域で生き抜くために編み出した戦術と考えられている。ニホンミツバチの蜂球形成は、ハチだけでなく、シオヤアブや(開放巣の場合であるが)クマゼミに対してもみられたという。
    ところが、そのセイヨウミツバチがニホンミツバチの巣を襲い、その貯蔵物を強奪することがある。この際、侵入者は、ニホンミツバチに口を差込み、体内の蜜貯蔵器官から蜜を吸い上げることもする。これに対してニホンミツバチは無抵抗である。
    この他の個別防衛行動としては、例えば巣門にアリが近づくと羽を震わせてはたき落とす例が報告されている。

害虫や寄生種と免疫
    ミツバチを直接攻撃するわけではないが、害をなす昆虫に蛾の一種であるハチノスツヅリガ wax moth がいる。そのメスは、ミツバチの巣に入り込み、卵を産みつけ、その幼虫が巣の素材であるワックスを食べてしまう。この蛾は日本ではスムシと呼ばれている。
    眼につき難く、養蜂家が対処できにくいのが、病気を引き起こす病原体 pathogens、あるいは寄生(感染)生物 parasites である。それらは、ウィルス、細菌、カビ、ダニなどである。局地的な性格をもった第1と第2の攻撃者と違って、これらの病原体は、宿主に寄生して、長距離を移動するから、検疫などが行なわれても、全世界的に広がってきている。
    主に幼虫あるいは蛹の時期に感染する病気は、フソ(腐蛆)病、チョーク病などである。主な病気と原因は以下の通りである。まず、アメリカフソ病 American foulbrood があり、その病原体は桿型のバクテリア Paenibacillus larvae である。欧州フソ病 European foulbrood の病原体は Melissococcus pluton(旧名 Streptococcus pluton)である。チョーク病 Chalk brood の病原体はカビの一種 Ascosphaera apis である。同じく幼虫や蛹に起きる病気、サックブルード病 Sacbrood の病原体はウィルス Morator aetatulae である。同じ幼虫や蛹に起きる病気、ストーンブルード病 Stonebrood の病原体はカビの一種 Aspergillus flavusである。
    コロニー消失(蜂群崩壊症候群)の原因ではないかと疑われている現在最も注目されているのは、バロア病 Varroa である。これは蜘蛛に寄生するダニの一種、ミツバチヘギイタダニ Varroa jacobsoni の寄生による病気である。このダニは、もとはトウヨウミツバチに寄生していたが、シベリアにもちこまれたセイヨウミツバチに寄生し、それから欧米に拡大した。その他、アカリンダニ症 Acarine disease は、同じく蜘蛛に寄生するダニの一種 Acarapis woodi を病原体とする病気であるが、これは成虫のみが罹る。ノゼマ病 Nosema disease は、微胞子虫類のノゼマ Nosema属に属する原生動物の寄生によって引き起こされる。
    密集して生活する社会性昆虫は、寄生生物など、多くの感染性の病原体にさらされやすいが、一方でそれらに対処する免疫系が発達しているのではないかと考えられている。人など高等な脊椎動物には、血液系を基礎とする適応免疫系 Adaptive immune system が、生体防衛で重要な役割を果たしているが、昆虫など下等な生物は、自然免疫 Innate immune system という、より素朴な免疫系のみに依存している。この免疫系に関与するタンパク質が最初に発見されたのは、ショウジョウバエの研究においてである。ショウジョウバエは、基礎生物学で最も使われている研究材料のひとつであるから、自然免疫の研究もショウジョウバエで詳しくなされている。ミツバチの自然免疫の研究も、ショウジョウバエを参照しながら行なわれている。
    養蜂家は、ミツバチの保護を考慮して巣箱の構造や設置場所を考える。また、天敵であるスズメバチに対しては、捕獲する仕掛けを置いたりして、ミツバチを助ける。また、寄生性の病原体は、薬剤などで駆除するようにしている。
    なお、コロニー消失が報告され、ミツバチの健康状態が詳しくしらべられるようになると、これまで知られていなかったウィルスが発見されるようになった。それと同時に、人間と同じように腸内細菌の役割の重要さも認識されるようになってきている。

化学物質への応答

    一般に昆虫は、化学物質を介した情報収集能力とコミュニケーション能力を備えている。とくに社会性昆虫では、この能力が高度に発達している。ミツバチの交尾、育児、採餌、巣の防衛などの行動もこうした能力に支えられている。体の外に放出され、一般に動物で仲間とのコミュニケーションを媒介する化学物質をフェロモン pheromone と呼ぶ。ミツバチでは、1970年代で、すでに18種類の化合物がフェロモンとして見つかっており、この数はその後も増えている。
    これらのうちでもよく知られているのは、働きバチが6番目と7番目の体節の間にあるナサノフ腺 Nasanov gland から分泌するフェロモンである。このフェロモンには複数の化合物が含まれているが、これまで同定されたものは、ゲラニオール geraniol、ネロリック酸 nerolic acid、ゲラニック酸 geranic acid、(E)-citralと(Z)-citral という2種類のシトラール、ファルネゾール (E-E)-farnesol、ネロール nerol という、6種類の化合物である。このうちゲラニオールはバラの、シトラールはレモンの匂い成分物質として知られている。
    これらのフェロモンは、ミツバチの方向 orientation 感覚に訴える物質である。例えば、働きバチは巣の入り口でこの匂いを分泌して、羽で吹き飛ばしながら仲間を誘導する。同様に、水の採集場所でも、後から来る仲間のハチに位置を知らせるように、この物質を放出する。分蜂においても仲間が一時結集したり、新しい巣の入り口を示したりするために使われる。
    最近、日本では在来種であるニホンミツバチの飼育が見直されているが、巣箱の入り口近くに誘導植物としてキンリョウヘンというラン(蘭)を置くことが推奨されている。この植物が、ナサノフ腺フェロモンと類似の化合物を分泌するのか否かは、研究の対象になっている(菅原道夫、ミツバチ学、東海大学、2005)。
    針で刺す時に放出される化合物も、警告や防御行動物質として同定されている。これらには、isoamyl acetate、2-nonanol、(Z)-11-eicosen-1-ol などが含まれている。
    女王バチのフェロモンとして知られているのは、9-keto-(E)-2-decenoic acid(これは 9-oxodecenoci acid 略して9ODA)と 9-hydroxy-(E)-decenoic acid(9HDA)であり、いずれも大顎腺 mandibular gland から分泌される。このうちの前者(9ODA)は、「女王物質 queen substance」として盛んに研究されている。これらのフェロモンは、働きバチによる(新)女王バチの飼育の抑制、働きバチの卵巣の発達や産卵の抑制、交尾飛行時における雄バチの誘引、分蜂時の集結行動、働きバチのナサノフ腺からのフェロモン放出、採餌行動など、多彩な行動に影響していることがしらべられている。
    この他に、雄バチや幼虫や蛹、さらには巣板が、フェロモンを放出していることや、ハチの体臭や巣の匂いも、コロニー仲間や女王バチの認識に寄与している。
    なお、働きバチが花など外界からの化学物質を匂いや味として探知する能力は、脳神経系の研究の一環として、分子レベルで詳しくしらべられている。なお、ミツバチは嗅覚に関わる受容体は多いが、味覚のそれは少ないことも、最近のゲノム解読の結果としてわかっている。

フェロモン類の構造

図1-14.フェロモン類の構造

参考文献

  • G. Kastberger, E. Schmelzer, I. Kranner, Social Waves in Giant Honeybees Repel Hornets, PloS One , 3(9), e3141
  • 菅原 道夫、ミツバチ学 ニホンミツバチの研究を通し科学することの楽しさを伝える、東海大学、2005.
  • Juergen Tautz, Helga R. Heilmann, David C. Sandeman, The Buzz about Bees : Biology of a Superorganism, Springer, 2008.

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