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Ⅳ. 新しい医学とミツバチ健康科学
   —3.経路網からの疾病の理解と薬物標的探索 (2)—

3.6 免疫疾患と自然免疫の経路

(1) 免疫と免疫疾患

    生物には、光や大気や水や環境中の化学物質など、他の生物由来ではない外部環境変化に対応する機構が備わっている。そこでは、AhR、核内受容体、Nrf2 をセンサー役として、薬物代謝酵素集団を処理役とする応答系が対応する。それとは別に、病原性微生物や、抗原と呼ばれる、他の生物由来の脂肪酸やペプチドのような高分子に対処するのが免疫系 immune system である。
    免疫系の基本的な働きは、病原体 pathogen の識別と、病原体への攻撃と破壊である。その免疫系には、自然免疫 innate immunity と適応免疫 adaptive immunity の2種類がある。自然免疫は基本免疫とも呼ばれ、英語では non-specific、non-adaptive などとも呼ばれる。適応免疫は獲得免疫 acquired immunity、specific memory immunity などとも呼ばれる。
    生物の進化の過程で、最初に出現してきたのは自然免疫であり、遊離細胞をもたない下等動物は、専ら自然免疫系に依存してきた。これに対して適応免疫では、血液のような遊離細胞系が、主な機能を担っている。適応免疫は、脊椎動物の中の有顎類あたりから機能を獲得してきたと考えられている。したがって、(有顎)脊椎動物は自然免疫と適応免疫という2種類の免疫系を有するが、最初に働くのは自然免疫である。興味深いことに、生物医学の歴史において、免疫学として活発に研究されてきたのは適応免疫であった。自然免疫の存在が認識され、研究が盛んになったのは、Janewayの予言がなされ(Janeway89)、ショウジョウバエの Tollタンパク質のヒトのホモログ homolog(TLR, Toll like receptor)が発見されて(Medzhitov97)からの、この10年ほどに過ぎない(Germain04、Vivier05)。
    免疫機能障害に起因する疾患は、自己免疫 autoimmunity 疾患、免疫不全 immunodeficiency、(免疫)過敏症 hypersensitivity に大別される。自己免疫は、自他 self, non-self 識別能力がうまく機能しないことにより自己生体成分が攻撃されてしまう現象で、関節リウマチや膠原病が代表的な疾患である。免疫不全は、免疫系の構成要素が障害され、病原体を攻撃、排除するという、本来の機能を十分発揮できない状態であり、エイズ(AIDS)は、これに当たる。免疫の過敏症とは、病原体への過剰反応、あるいは無害な外来物への応答であり、一般のアレルギー allergy、花粉症 pollen allergy や喘息 asthma などがこれに当たる。

参考文献

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(2) 自然免疫

    自然免疫の研究は、TLR (Toll like receptor) の発見を嚆矢とする。免疫系による防御は、生体にとっての自己と非自己の区別に依存している。マクロファージ macrophage や樹状細胞 dendritic cell など、免疫細胞 immune cell と呼ばれる細胞は、その表面に、他の生物由来のペプチドや核酸(DNAとRNA)や、グラム陰性菌の外膜表層のリポポリサッカライド(lippolysacharide、LPS)のような病原体 pathogen そのものの部分構造などを認識する分子をもっていると考えられていた。この仮説における外来物の構造を、PAMP(Pathogen Associated Molecular Pattern)と呼び、それらを認識する側の分子を、PRR (Pattern Recognition Receptors)と呼んでいる。そしてTLRが、このPRRだということがわかってきたことにより、自然免疫研究が一挙に加速された。
    現在、明らかにされている構図は、以下のようなものである(Akira06, Kawai06, Karin06, Albiger07)。ヒトには10種類のTRLが見つかっており、マウスでは13種類が見つかっているが、それ以外にも、NOD-like receptor (NLR) や、RIG-I-like Receptor (RLR) など類似の機能を担っているタンパク質が見つかっている。TLRは、細胞の膜に存在するが、細胞内の小胞体 endoplasmic reticulum や endosome など、細胞内の器官の膜や、細胞質内にも存在する。これらは異物のセンサー役を果たしている。
    これらのセンサーに捕捉される外来因子としては、病原菌の膜壁の構成成分であるリポ多糖類、病原菌の鞭毛の成分タンパク質、病原体由来の核酸(一本鎖および二本鎖RNA, DNAのCpG領域)、さらには自己の heat shock protein や fibrinogen、核酸(mRNA)なども応答反応を引き起こす。
    外来因子PAMPをセンサーPRRが捕捉すると、両者の結合によって惹き起こされた変化が、細胞内の多様な信号伝達 signal transduction pathway を介して、転写因子を活性化して、応答遺伝子の転写やタンパク質合成を引き起こす。この過程に動員される転写因子としては、NF-κB、Ap-1、IRF-3、IRF-5、IRF-7 などが知られている。これらの転写因子によって、NF-κB からはTNF、COX2、IL-18 のような炎症反応に関わる因子(サイトカイン cytokines)が産生され、IRFからはINF-α/βなどのインターフェロンが産生される。

図4-18.自然免疫TLR経路網
(Akira06, Figure.2を参考とした)

    炎症は、がん、肥満、神経変性症、アレルギーなど、各種の疾患への十字路 cross road の役を果たしていると考えられているから、自然免疫系がそれらの疾患と関係していることは、明白である(Karin06)。また、PAMPには、内在性の因子も含まれているが、それは自己免疫疾患の原因となると考えられている。さらに脊椎動物や哺乳類などにおいては、自然免疫が、適応免疫を動員する引き金になっていると見られているから、それは免疫全体の応答の基盤になっているとも考えられている。ワクチンに使われるアジュバンドは、自然免疫を活性化するPAMPの働きをしている、と考えられている。
    以上の構図は、極めて大雑把な描像であって、実際の要素間の相互作用は、非常に複雑であり、未知の部分が多く残されている。また、こうした構図は、単一の細胞に関する話であり、細胞が異なれば、またその環境が異なれば、違ったものになる。それでもTLR群を出発点とする分子相互作用経路網を同定し、データベースあるいは知識ベースとしてまとめようとする努力が行われている(Alper08, Lynn08, Gardy09)。

参考文献

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(3) 免疫ネットワーク

    マウスやヒトのような血液系の適応免疫を有する動物には、免疫に動員されるさまざまな血液細胞が存在し、互いに連係しながら働いている。その主体になるのは白血球で、それには単球(マクロファージ、樹状細胞)、リンパ球、顆粒球などが含まれている。リンパ球には、T細胞、B細胞、NK(Natural Killer)細胞が含まれ、T細胞は、Th(T helper)細胞、Tk(T killer)細胞などである。これらの血液細胞群は、一方が分泌する因子が他方に影響してその性質(内部状態)を変えるというような、相互依存的な関係になっている(図4-19参照)。これらの細胞群は、連係して組織防衛的な機能を発揮する。

図4-19.免疫細胞群の連係システム
免疫細胞群は、互いに刺激し合いながら成熟していく。図はその概念を単純に視覚化したもの。

    例えば、病原体が侵入すると、マクロファージや樹状細胞などが移動して、病原体を飲み込んで破壊する貪食という応答が起きる。次に、これらの貪食の自然免疫系が、病原体特有の因子PAMPを認識してIL などのサイトカインを産生するというような応答を引き起こす。樹状細胞は、飲み込んだ病原体を分解して、その一部(抗原)を細胞表面にあるMHC Class IIと呼ばれる分子に結合して提示する。そこにTh細胞が誘引され、インターフェロンなどの応答物質を産生する。
    一般に、病原体を貪食した免疫細胞は、それを分解し、その一部を抗原として、細胞表面のMHC Class I あるいはMHC Class II分子に結合させて提示し、これを標識にT細胞、B細胞、NK細胞など他の免疫細胞が遊走してくる、というのが適応免疫の典型的な様式である。ここでの問題は、MHC分子に提示された抗原を認識する遊走してきた免疫細胞の細胞表面の抗体の仕組みである。抗原は多様であるから、抗体も多様でなければならないので、どのようにそうした多様な抗体を産生するかが、適応免疫の課題であった。この仕組みが解明された現在、免疫学の関心は、初期に動員される自然免疫と適応免疫の連係にまで拡大されている。

(4) 無脊椎動物の自然免疫

    適応免疫は、遊離細胞のある動物が獲得した機能であるから、これまでの免疫学は、マウスを主たる実験材料として行われてきた。自然免疫は、脊椎動物だけでなく、線虫やショウジョウバエなど簡便なモデル動物にも存在しているので、そうした無脊椎動物と哺乳動物の間の自然免疫を担う遺伝子や経路の相似と相違を明らかにする試みが行われている。
    その一つは、ゲノム解読がなされた生物で自然免疫のセンサー役になっているTLRの多様性をしらべることである。その結果、これまで確認されているTLRタンパク質は、6つのグループに分類できると報告されている(Roach05)。
    一方、無脊椎動物の自然免疫系でもセンサー役のTLRからの信号伝達を、それによる転写を介した遺伝子発現が、主要な役割を果たしていることが見出されている(Hatanaka09)。それはショウジョウバエ(Ferrandon07)、線虫(Kim05、Tenor08)、ミツバチ(Evans08)に共通している。もちろんTLRの種類やその応答特性、TLRから遺伝子発現にいたる経路や応答する遺伝子には、違いがある。ただし線虫に関しては、最初はTLRがないと言われていたが、その後、ホモログが見つかった。しかし、それが同じように機能しているかについては、議論がある。線虫 C.elegans では、自然免疫が神経細胞で制御されていることや、ヒトの腸内細菌を移植して応答を見ることや、病原体に応答する遺伝子が何かをマイクロアレイを用いて同定する(Shivers08)などの実験が行われている。

参考文献

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(5) 治療の標的

    自然免疫の主役であるTLRについては、ヒトではTLR1-10までの10個が知られているが、そのうちのTLR1, 2, 3, そして4の細胞外ドメインの3次元構造が報告されている(佐藤10)。例えば、LPSは、TLR4に結合するが、その際共役的に働く受容体(共受容体)としてMD-2が見つかっており、その構造も決定されている。こうしたTLRと関連タンパク質は、医薬品開発の標的として研究されている。
    自然免疫系の擾乱は、免疫疾患を誘発するが、その前駆となるのが炎症である。炎症は、がんの引き金ともなるが(Lin07)、こうした炎症応答では各種の kinase が信号伝達に関わっている。これらの kinase に対する阻害剤は、抗炎症作用を発揮するのではないかという研究がなされている(Gasetel09)。同じような考えは、他のインターロイキンの経路についても適用できると考えられている(Weber10)。
    自然免疫系と関係が深いのは、腸管免疫系である。腸管粘膜は、体の内部にあるが、外界の諸因子と直接相互作用しているから、病原体とも接触しやすい領域である。そのゆえか、腸管には他の組織にはない特別な免疫応答系が存在している(竹田10)。このような自然免疫系は、欧米に多いクローン病 clone disease のような、炎症性腸疾患と関係していることがわかってきた。
    腸内細菌叢は、ヨーグルトのような食品との関係で研究されていたが、ゲノム解読技術の進歩(メタゲノム)は、その傾向に拍車を掛けている。この意味で腸管免疫系の研究は、健康食品と深く関係していると言える。

参考文献

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3.7 老化と長寿の経路網

(1) 加齢と老化

    ヒトは成人に達した後、各種の生理学的な機能が衰え、疾患に遭遇する確率が高くなる。加齢 aging に伴う機能の衰えが老化 senescence である。これに逆らって機能の衰えを食い止めよういう試みが、抗加齢 anti-aging である。生物学でいう加齢は、個体が生まれた時からの時間の経過ではない。例えば、生物の成長の度合いは温度に左右されるから、微生物の中には低温にすれば成長を遅らせたり、極低温に保って凍結保存したりできるものがある。したがって、一般に活動状況と切り離して、物理的な寿命を延長させても、生物的な寿命を延長したことにならない、と考えられている。生物学的な加齢、すなわち老化に関する研究は老年学 Gerontology と呼ばれている。
    生物学の歴史で、加齢に関する議論はいろいろなされてきたが(Ljubuncic09)、これまでの老年学の主流は文字通り、老人を研究する学問であった。この状況が劇的に変わったのは、寿命に関係した遺伝子の変異が、マウスを材料とした研究で発見され(Weindruch86)、その後、この効果に関わるインシュリン経路(Insulin/IGF-1 Pathway)が線虫で同定されてからのことである。カロリー制限 caloric restriction による寿命の延長とその経路は、その後、酵母、ハエ、マウスなど、幅広いモデル生物で同定された(Kenyon01/05)。また2009年には、同じ効果が、霊長類(アカゲザル、Rhesus Monkey)で始めて確認された(Colman09)。

(2) 加齢の経路網

    こうした発見によって加齢あるいは抗加齢研究が、分子生物学の中に市民権をうることになり、寿命や長寿の経路網の探索と、それを基礎にした抗加齢(長寿)物質の探索が始まった(Bishop07)。そのような研究は、医薬品の開発(Curtis05)や食物 food や食事療法 diet 研究にも大きな影響を与えるようになってきている(Baur07)。
    寿命に関わる経路網の発見はまだ続いている。当然、一つの発見は、次の発見の引き金になる。かくして寿命に関わる経路網だけでも、百花繚乱という様相を呈しており、その全体像を捉えることが難しくなっている。これを整理するには、2つの作業が必要になる。その第1は、実験材料からの整理である。この課題で、最もデータが産出されているのは、C.elegans を用いた実験からである。これに続くのは、酵母、ショウジョウバエ、マウスなどである。そこで、これらの生物の間の、問題となる経路網とそれに関連する遺伝子の名称を対応させ、それらの相異と相似を分析する必要がある(Kuningas08、Table1)。第2は、浮かび上がってきた経路網の間の関係を推定することである。そうした推定作業は、どのような現象を重要と考えるかに、大きく依存している。

表4-4.Selected examples of genes identified to influence lifespan in model organisms
(Kuningas08のTable1 より)
*Organism in which the gene was first shown to influence lifespan
Organism* Gene Gene name/description Function Reference
S.cerevisiae Sir2 NAD(+)-dependent deacetylase Regulation of metabolism,stress resistance Kaeberlein et al., 1999
C. elegans age-1 Phosphatidylinositol kinase Insulin signalling Morris et al., 1996
  daf-2 Insulin receptor-like gene Insulin signalling Kimura et al., 1997
  daf-12 Nuclear hormone receptor Regulation of metabolic and developmental pathways Larsen et al., 1995
  daf-16 Forkhead transcription factor Regulation of metabolic and developmental pathways Ogg et al., 1997;
D. melanogaster Cat Catalase Antioxidant activity Orr & Sohal, 1994
  Chico Insulin receptor substrate Insulin signalling Clancy et al., 2001
  Sod1 Superoxide dismutase Antioxidant activity Parkes et al., 1998
  Sod2 Superoxide dismutase Antioxidant activity Sohal et al., 1995
  Mei-41 Phosphatidylinositol kinase, ATR kinase othologue DNA repair Symphorien & Woodruff, 2003
  Pcmt Protein carboxyl methyltransferase Protein repair Chavous et al., 2001
M. musculus Gh Growth hormone Insulin signalling, tissue proliferation Bartke, 2005
  Klotho Beta-glucuronidase Inhibits IIS signalling Kuro-o et al., 1997
  p53 Tumour protein p53 Tumour suppression Tyner et al., 2002

    例えば、寿命に関わる経路として、最初に注目されたのは、インスリン insulin あるいはインスリン様成長因子IGF受容体からの経路であったが、酵母で発見された Sirtuin (酵母では、Sir2、哺乳類ではSirt1-7)が、寿命の生理に深く関与しているという説も提唱されている。Sirtuin は、NAD依存性のヒストン脱アセチル化酵素(III)であり、エピジェネティクスに関与している(Imai09、Bogan08)。この他にも、TOR (Target of Rapamycin) の経路(Hands09)やミトコンドリアにおける電子輸送系 electron transport chain の関与が示唆されている(Vijg08の図)。

図4-20.長寿とTORとミトコンドリアの関係を示す図
(Ⅳ. 新しい医学とミツバチ健康科学
3.経路網からの疾病の理解と薬物標的探索(1)
図4-8.長寿に関係していると思われる経路網
(Vijg08による)に同じ)

    このような遺伝子や経路が明らかになるまでは、寿命 life span の研究は、一般の医学研究とはあまり関係のない、特別な興味に基づく研究と見られていた。しかし、分子レベルの長寿研究が進むにつれ、寿命あるいは加齢に関わる遺伝子群や経路は、決して特殊なものでなく、がん、代謝疾患、神経変性症、炎症など、現代社会の主要な疾患に共通するものであることが明らかになってきた。またそこから、「長寿をもたらす化合物には、がん、代謝疾患、神経変性症、炎症など、現代社会の主要な疾患を予防、改善する働きがあるのではないか」、という仮説も導かれている。そして最近、このような仮説を裏付けるような知見が急速に蓄積されるようになってきている。その一つはがんとの関係であり(例えばFinkel07)、また糖尿病など代謝性疾患との関係である(Garten09)。

(3) 加齢と関係する経路網

    この他にも、寿命と関連が推察されている経路網は少なくない(表参照)。それらは例えば、炎症、(自然)免疫、ユビキチン化 ubiquthination、酸化ストレス応答(Redox)、熱ショックタンパク質HSF (Heat-shock transcription factor)–1、HIF (Hypoxia inducible factor)-1、などである。これらの経路に関与しているタンパク質(遺伝子)は、他の疾病現象でも重要な役割を果たしている。例えば、HIF-1は、がん組織が無酸素状態を生き延びて転移する機能に関係している。
    なお、これまでの寿命経路の発見のほとんどは、変異原物質やRNAiによる遺伝子の不活性化によるものであるから、遺伝子の活性化(over expression)による寿命延長の可能性の確認は、残された課題になっている。
    寿命に関わる経路網をまとめたGreerらの報告(Greer08)があるが、すでに古くなっている。

参考文献

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3.8 経路網の比較と、症状あるいは疾患の相関性

    最初に述べたように、ゲノムとIT革命が可能にした、経路網からの疾病の理解と標的の探索という研究戦略は、医学知識そのものの構造改革を推進していると言える。
    最も重要なことは、疾患を理解するためには進化―遺伝―発生という視座が重要であり、かつ有用であるということが実証されてきたことである。このことは、がんと発生に関与する遺伝子や経路網の共通性の高さが最も如実に物語っていることである。同じように、老化(加齢)とがん、老化と生活習慣病に関与する遺伝子や経路網の共通性も判明してきた。さらに炎症が、がん、関節リウマチ、肥満と糖尿病、神経変性症など、さまざまな疾患の交差点 cross road の役をしていることも、それらの疾患や症状の間の相関をうかがわせるものである。
    メタボリック症候群との関係で浮上してきた肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧、動脈硬化などの疾患の引き金となる脂肪組織 adipose tissue の肥大も、脂肪細胞が炎症を介して、さまざまな疾患群と関係している交差点の役を果たしているという仮説が提出されている。同様に、生体の防衛機構である酸化還元 Redox 反応も、多細胞生物の根源であるミトコンドリアにおけるエネルギー変換に関係していることから、活性酸素種 Reactive Oxygen Species(ROS)の発生と関係し、その処理系である Keap1-Nrf2-ARE と関係していることが明らかにされた。
    最近、後者の経路は、HSP(熱ショックタンパク質)や自然免疫系などとも関係していることを示唆する報告がでている。この応答系は、AhR (Aryhydrocarbon Receptor)と核内受容体NRと共に、薬物代謝酵素(I, II, III)群を標的遺伝子とする、化合物センサーの役割を果たしていることも明らかとなった。
    このように、高齢化社会と言われる現在の経済的な先進国で社会的な問題になっている多くの疾患が、分子経路網のレベルで見ると相互に深く関係していることが非常に鮮明になってきた。そうした相互関係は加齢 aging と深く関係しており、さらにその根底においては、生体の発生と形態形成に関与する経路網や、生体が生きるために摂取している栄養とエネルギー変換のための物質の処理系が、関与しているのである。後者のエネルギー変換には、酸化リン酸化 OXPHOS、Redox(酸化還元)反応が関係している。また、燃料にあたる食物として摂取された物質の利用には、核内受容体やその類縁転写因子とNrf2経路(酸化ストレス応答反応)などの経路網や、生体防御としての炎症や自然免疫系の経路が関係していることも明らかになってきた。
    病気についてのこのような新しい俯瞰図は、予防医学やいわゆる健康食品の研究にも大きなヒントを与えるものである。すなわち、いわゆる長寿の経路、酸化リン酸化OXPHOSやRedox(酸化還元)反応経路、核内受容体やその類縁転写因子とNrf2(酸化ストレス応答)の経路、さらには生体防御としての炎症や自然免疫系の経路が、「主要な介在点 Primary Intervention Points」だというかなり信頼のおける作業仮説が浮上してきている。
    以上のことは、現在の健康食品の研究開発でよく言われる、抗加齢、抗酸化物質、免疫力の強化などともよく合致しているし、公的な研究班が推奨しているがん、メタボリック症候群、アルツハイマー疾患などの予防の根拠を与えるものであり、また、見直されつつある生活の知恵に科学の光を当てることにもつながっている。
    実際に、上記の主要な経路の標的に働きかける天然物が、幅広い疾患の予防や改善効果を示すような研究報告は増えている。例えば、クルクミンは炎症に関係したNF-κBの経路網に影響を与え、糖尿病に効果があると経験的に知られている植物には、核内受容体であるPPARγに結合する成分を含有しているものが多く見つかっている。そうした例は、急ピッチで増えている。したがって具体的な研究戦略としては、健康の維持や改善に効果のある天然物成分を、上記のような、主要な経路に含まれる標的を候補として探索することが考えられる。問題は、それをどれだけ効率化できるかである。
    結論として、健康科学においても、また、健康状態の改善や維持の実践法についても、医薬品開発と同じような、経路網の知見が生かされる時代がやってきた、ということができよう。 最近、Nature誌は、aging に関する特集を行った(2010年3月25日号)が、そこでは上記のような見解を裏付ける最新の解説論文が掲載されている(Kenyon10、Bishop10)。

参考文献

  • C. J. Kenyon, The genetics of aging, Nature, 464: 504-512, 2010.
  • N. A. Bishop, T. Lu, and B. A. Yankner, Neural mechanisms of aging and cognitive decline, Nature, 464: 529-535, 2010.

3.9 ミツバチとミツバチ産品研究との関連

(1) ヒトとミツバチ

    これまでのミツバチとミツバチ産品の研究においては、ミツバチの健康とミツバチ産品のヒトの健康への影響とを同じように論ずるという風土はなかったと言えよう。しかし、近未来においては、こうした状況が劇的に変化すると予想される。
    その理由の第1は、比較ゲノム学の進歩で、がん、内分泌および代謝性疾患、神経変性症、免疫疾患など、ヒトの主要な疾患や寿命に関わる経路網が、多細胞動物(後生動物 Metazoa)の進化の過程で、よく保存されていることが発見されたことである。このような経路網の共通性と結びつきが、具体的に明らかになってきたのは、わずかこの10年ほどのことである。
    第2の理由は、ハチミツやプロポリスやローヤルゼリーなど、ミツバチ産品がなぜ、異なる種であるヒトにも有用なのかを、分子レベルでしらべることが可能になってきたことである。
    これまで見てきたように、ヒトの主要な疾患や寿命に関与する経路網には、種を越えて後生動物で共通なものが多い。実際すでに発生における経路、エネルギー代謝とインシュリン信号経路、核内受容体が関与する物質代謝経路、酸化ストレス応答経路、炎症応答経路、自然免疫経路などで、双方の共通性が数多く発見されている。このことは、発生や老化、エネルギー変換様式、食や栄養成分、外界の異物や生体への防御など、生命のダイナミックな営みの多くが、分子レベルでは多細胞動物の種を越えた共通の様式で行われていることを示唆するものである。
    ヒトとミツバチは、他方は哺乳類、他方は昆虫として、知能と社会性を最も高度に発達させてきた動物である。この両者が、物質の代謝や情報処理において、進化の過程でどの程度共通のものを残し、どの程度違いを獲得してきたかは、生物学と地球環境の視点から大いに興味をそそられる問題である。
    これまでは、分子や経路網レベルでの共通性は、ショウジョウバエや線虫など、現在の分子生物学の標準的なモデル動物でまず確認されてから、他の種に拡大されていくことが多かった。その中に将来ミツバチが入ってくるのは、極めて自然であり、こうした研究の先には、「健康で活発なミツバチを飼育する研究と、ヒトの健康に関する研究を融合させた研究」への道が開かれることが期待される。

(2) ミツバチの生体防御系

    生物としてのミツバチとヒトの共通性に関して、もっとも関心をもたれている視点は、両者に共通する社会性である。とくにミツバチの生活空間は密集度が高く、巣の恒常性も高く、生物資源も大量に蓄積されている。したがって、他の動物からの攻撃や、微小な病原体の侵入を受ける可能性は極めて高い。それに対しては、集団(巣)としての防御能力と個体としての防御能力を発達させて対処してきたと考えられている(Schmid-Hempe05)。
    ミツバチの集団(巣)としての防御法としては、grooming と呼ばれる仲間同士の身づくろいや、巣の掃除や消毒や殺菌、戦闘行為が知られており、細菌、カビ、ダニをうまく排除し、感染を防いでいる。例えば、プロポリスは巣の住居の消毒や殺菌に使われていると思われる。
    ミツバチを含む昆虫には何段階もの防御機構が存在している。彼らはまず、体の表面に抗菌的な物質を分泌する。また彼らの腸も病原微生物を攻撃する機能を有している。それらの前線が突破されると、体内の細胞やホルモンによる免疫系が対応する。そこでは、抗微生物的なペプチドの分泌や、病原体の貪食 phagocytosis、黒色化 melanization、酵素による分解などが行われる(Hoffmann03)。これらはヒトを含む脊椎動物と共通している。さらに、昆虫(例えば双翅類)のような無脊椎動物の自然免疫系 innate immunity に関わる分子や経路網も、ヒトを含む脊椎動物と似ていることがわかっている(Beutler04)。Evansらは、ハエや蚊や蛾との比較から、ミツバチの自然免疫系に関わる分子と経路網として、Toll、Imd、JAK(Janus Kinase)/STAT、JNKを想定し、それらが実際に存在することを見出している(Evans06)。彼らはまた、そのような免疫に関わる遺伝子をハエや蚊のそれと比較し、遺伝子の種類に関して3者は似ているが、ミツバチでは同種遺伝子 paralog の数が少ないとも指摘している。このような分析を踏まえた総説も発表されている(Evans09)。

参考文献

  • P. Schmid-Hempel, Evolutionary ecology of insect immune defenses. Annu Rev Entomol 50: 529–551, 2005.
  • J.A. Hoffmann, The immune response of Drosophila. Nature, 426: 33–38, 2003.
  • B.Beutler, Innate immunity: an overview. Biochem. Mol Immunol 40: 845–859, 2004.
  • J. D. Evans et al., Immune pathways and defence mechanisms in honey bee Apis mellifera, Insect Molecular Biology, 15(5): 645-656, 2006.
  • Jay D. Evans, Marla Spivak, Socialized medicine: Individual and communal disease barriers in honey bees, Journal of Invertebrate Pathology 103 (2010) S62–S72.

(3) ミツバチの蜂群崩壊症候群との関係

    蜂群崩壊症候群CCD問題が関心を集めるにつれ、オミックス解析やミツバチの免疫機能を基礎としたCCDの研究が行われるようになってきた。こうした研究は、国際的な連係で行われている。例えば、米国とフランス合同チームである Navajasらは、ダニが原因であるバロア病に罹りやすいコロニーと、耐性を示すコロニーから採取した個体の遺伝子発現を網羅的に比較して、耐性を示す個体では神経系に特有な遺伝子、とくに嗅覚に関与する遺伝子の発現に違いがあるとして、これらが身づくろい grooming のような防御的な行為と関係しているかもしれないと結論づけている(Navajas08)。
    一方、米国の Johnsonらは、ミツバチの腸が免疫の最前線にあると想定し、CCDに見舞われたコロニーを米国の東西海岸から集め、これとCCDに見舞われる前の健全な状態にあったミツバチの腸の試料とによって、全ゲノムにわたるマイクロアレイ解析を行い、遺伝子発現プロファイルを比較した。この結果、発現パターンに地域的な違いは見られたものの、CCDに見舞われたか否かで、はっきりとした差がある遺伝子は発見できなかった。ただし、61の遺伝子を疑わしい候補として同定している(Johnson09)。
    フランス国立研究機構(INRA)の研究者たちは、ノゼマ病の原因となる微胞子虫 Nosema microspores と農薬であるネオニコチノイド neonicotinoid の双方に暴露されたミツバチは免疫力が低下し、病原体に感染しやすくなるとも報告している(Alaux09)。彼らは、2つの要因のうちの一方だけに暴露された個体では、免疫力の低下が見られず、複合的な影響があった時のみ、影響が見られると報告している。同じ研究者たちは、多細胞動物の免疫力が摂食によるタンパク質に依存しているとして、採集対象となる花粉の種類が少ないと、ミツバチの集団(コロニー)としての免疫力の低下を招くという研究結果を発表した(Alaux10)。これは蜜源植物の種類が少なくなると免疫力が低下することを意味しており、単一の蜜源に依存する養蜂が、蜂群崩壊症候群CCDの原因になりうることを示唆するものである。ここでの免疫力の指標としては、血液細胞(血球)haemocyte の数と phenoloxidase 活性が使われている。
    ミツバチの腸内にもヒトの腸内に見られる細菌が生息していることが知られている。ビフィズス菌は、その一例である。そうした腸内細菌叢がミツバチの免疫系にどのような影響及ぼしているかは、興味深い問題である。例えば、スウェーデンのグループは、ミツバチの腸から分離した新種の乳酸菌が、アメリカフソ病の病原体である桿型バクテリア Paenibacillus larvae の増殖を抑制することを報告している(Forsgren09)。我が国の木村らは、16S rRNAを指標として腸管細菌叢の解析を行い、グラム陽性および陰性菌の双方が生息すること、年長の幼虫の方が若い幼虫より細菌数が多いこと、さらにこれらの細菌のいくつかが、アメリカフソ病の病原菌の繁殖を阻害することなどを見出している(Yoshiyama09)。近い将来、ヒトと同じように、ミツバチに対しても、給水や給餌を工夫することで免疫力を強化して、ミツバチを健康に生育できることや、CCDへの耐性をもたせられる可能性があることを示唆するものである。

参考文献

  • M Navajas et al., Differential gene expression of the honey bee Apis mellifera associated with Varroa destructor infection, BMC Genomics, 9:301, 2008 (on-line).
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(4) ミツバチ産品の健康への効用の解明

    ハチミツやローヤルゼリー、プロポリス、蜂毒など、ミツバチ産品は、人類の長い歴史の中で、病的症状の改善や健康の維持、抗加齢に効果があるとされてきた。しかし、その根拠はまだ十分解明されていない。ここでは、これまで紹介してきた common disease と呼ばれる現代の主要な4つの疾患や長寿などに関わる分子経路網が、この問題とどのような関係にあるかを簡単に紹介する。ただし、個々のミツバチ産品の効用については、別のところで紹介されている。

(5) 核内受容体標的化合物

    ミツバチ産品の中でも予防医学あるいは健康科学の観点から、最も関心がもたれているのは、ローヤルゼリーである。その効能成分としては、いわゆる主要タンパク質 major proteins やその分解物であるアミノ酸、あるいは脂肪酸であると考えられている。ローヤルゼリーには、内分泌ホルモン(とくに女性ホルモン)類似の化合物が含まれていると報告されており、その成分としては、脂肪酸(とくにデセン酸、例えば 10-hydooxy-trans-2-decenoic acid など)が有力視されている(例えばMishima05、Suzuki07)。だが、それ以外の成分にどのような効能があるかは、まだはっきりしていない。以下では、ローヤルゼリーの効用が何らかの核内受容体に結合した結果としてもたらされると仮定して考察してみる。
    そのような核内受容体作動薬としては、女性ホルモンエストロゲン estrogen の受容体ERに結合する乳がんの薬、tamoxiphene や raloxifene、ビタミンDの受容体VDRに結合するビタミンD3など、内分泌ホルモン受容体作動薬が最初に知られるようになり、次にPPARγを標的とする糖尿病薬が注目されていたが、その後LXRを標的とする代謝疾患薬など他の核内受容体作動薬へと広がっている。現在では、さらにER(小胞体)ストレスという概念が浮上し、PPAR、LXRが新しく注目されている。
    この領域で最近とくに注目されているのは核内受容体のサブタイプへの選択性である。例えば estrogen 受容体には、2つのサブタイプERαとERβがあり、ERαには結合せずERβに結合する化合物に、アルツハイマー疾患の改善効果があるという興味深い結果が、Wyeth社のマウスを使った実験として報告されている(Liu08、Hughes08)。
    PPARに関しては、PPARγ以外に、PPARβ/δの作動薬が脚光を浴びている。核内受容体の一種であるPPARβ/δの作動薬を投与すると、トレーニングをしなくとも、トレーニングした結果作られる筋肉をもつマウスがつくられることがすでに報告されていたが、その後、そうした化合物と、AMPKの作動薬を一緒に投与することで、あたかも運動したのと同じ効果を上げられることが報告されている(Narkar08, Barish08)。
    同じく、LXRについてもαとβという、2つのサブタイプ選択的なリガンドが探索されている。とくにこれまではメタボリック症候群(あるいは高脂血症)の改善薬と考えられていたLXRの作動薬が、皮膚の老化やアルツハイマー疾患の改善効果を示すという知見がえられている(Chang08)。皮膚の老化 skin aging は、加齢 chronological aging と、光による老化 photoaging の2つの作用か相乗した結果と考えられ、LXRβ agonist が改善薬になる可能性が示されている。
    さらにPPARγやLXRを標的とする薬が、代謝性疾患だけでなく、アルツハイマー疾患やパーキンソン疾患を対象とした改善薬として有効ではないかという仮説に基づいて研究されている。
    これらの最近の知見は、かりにローヤルゼリーの中にER、PPAR、LXRなどに選択的に結合する成分が含まれているとすれば、加齢、代謝疾患、神経変性症を予防あるいは改善する可能性があっても不思議ではないことを示唆している。

参考文献

  • S. Mishima et al, Royal Jelly has estrogenic effects in vitro and in vivo, Journal of Ethonopharmacology, 101: 215-220, 2005.
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  • Zoe A. Hughes et al., WAY-200070, a selective agonist of estrogen receptor beta as a potential novel anxiolytic/antidepressant agent, Neuropharmacology, 54(7): 1136-1142, 2008.
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  • K. C. N. Chang et al., Liver X Receptor Is a Therapeutic Target for Photoaging and Chronological Skin Aging, Mol Endocrinol, 22: 2407-2419, 2008.

(6) HRTの効用とリスク対策

    閉経後の女性が見舞われるさまざまな障害に対して、HRTが有効なことは、欧米では広く知られており、この療法を受ける人が多かった。だが2003年に開始された大規模試験、the Women's Health Initiative (WHI) Study の途中で、乳がんリスクが高くなっていることが指摘されたことで、この療法への需要が一気に減退してしまった。しかし、その後この問題に対しては、見直しの議論が盛んになり、HRTの有用性を示す実験的、臨床的な研究が行われていること(Garcia-Segura01、Behl02, Sherwin03など)を根拠として、補助的な対処法 supplementation therapy としての価値が再評価されている。
    内分泌ホルモン様の作用が期待されるサプリメントについては、当然、HRTと同様な乳がんリスクが(あるいは他のリスクも)疑われている。このことは、イソフラボンなどのファイトケミカル一般についても言えることである。したがって、ER結合性の成分(genistein, daizein)が含まれる大豆製品(豆腐、納豆など)についても、この可能性は指摘されている。それゆえ、これらの成分の望ましい摂取の上限も提案されている。このように体によいという成分も量次第ということは、毒と薬が量的に決定されるということを意味するが、このことは昔からよく知られていたことだとも言える。
    結局、ゲノム医学の急速な進歩を考えると、健康科学がめざすべき未来の課題の一つは、ゲノム解読やオミックスによって個人の特性を明にした、Personalized Diet & Supplement の実践であろう。

参考文献

  • L.M. Garcia-Segura et al., Neuroprotection by estradiol, Prog. Neurobiol. 63 (2001), pp. 29-60.
  • C. Behl, Oestrogen as a neuroprotective hormone, Nat. Rev. Neurosci. 3 (2002), pp. 433-442.
  • B.B. Sherwin, Estrogen and cognitive functioning in women, Endocr. Rev. 24 (2003), pp. 133-151.

(7) 長寿経路を標的とした有効成分の探索

    ローヤルゼリーについては、抗加齢効果への期待がある。一般には、その候補成分として、パロチンや類パロチンなどがあげられているが、分子生物学的な研究は報告されておらず、他の成分、あるいは複数の成分の複合的な効果である可能性が高い。経路網の立場からすれば、このような効果でまずしらべるべきは、長寿の経路網への作用であろう。ただ長寿に関する実験系は、ヒトはもちろん、サルやマウスでもそう簡単ではない。もっとも効率がよいのは、寿命の短い簡便な系、酵母、線虫、ハエなどを使う方法である。
    例えば、カロリー制限と同様な効果を示す食品成分として、ポリフェノールやレスベラトロール resveratrol の影響をしらべた実験の報告も増えているが、例外的にそれに対する疑問も提出されている。例えばポリフェノールは、線虫の寿命を延長する(Wilson06)という報告に対して、線虫やハエでの実験で、この効果が疑わしいという報告がある(Bass07)。しかし、その後のマウスを使った実験でレスベラトロールの効果は確認されている(Pearson08)。また、線虫を使ったカロリー制限の効果が神経細胞を介するという説(Bishop07)や、長寿経路は Insulin/Foxo と AMPK を介する2経路があるという報告もある(Greer09)。
    このように長寿経路と健康食品成分との関係は、まだ研究が始まったばかりであるが、線虫をもちいた長寿を指標とするスクリーニングが、有用成分の探索に有効だという証拠は増えている。例えば、バック Buckらは、線虫の寿命を延ばす化合物を発見することを目的に、8,800の化合物のスクリーニングを行ったが(Petrascheck07)、そこで見つかった(20%の)長寿をもたらす化合物が、ヒトに使われている抗うつ薬と似た構造をしていることを見出した。さらに詳しい解析の結果、これらの薬物が線虫の寿命延長因子として働くには、セロトニンとオクトパミン octopamine という2種類の受容体の存在が必要なことを見出している。
    以上の状況から、線虫を使った実験は、健康食品、抗酸化機能食品、神経変性疾患 Neurodegenerative Disease、さらにうつ病などの予防、改善を視野に入れた天然物由来化合物の探索や既存の有効物質の機能解明に有用だと思われる。

参考文献

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  • T. M. Bass et al., Effects of resveratrol on lifespan in Drosophila melanogster and Caenorhabditis elegans, Mechanism of Aging and Development, 128: 546-552, 2007.
  • Kevin J. Pearson et al., Resveratrol Delays Age-Related Deterioration and Mimics Transcriptional Aspects of Dietary Restriction without Extending Life Span, Cell Metabolism, 8(2): 157-168, 2008.
  • N. Bishop & L. Guarente, Two neurons mediate diet-restriction-induced longevity in C. elegans, Nature, 447:545-550, 2007.
  • Eric L. Greer and Anne Brunet, Different dietary restriction regimens extend lifespan by both independent and overlapping genetic pathways in C. elegans, Aging Cell, 8: 113–127, 2009.
  • Michael Petrascheck, Xiaolan Ye & Linda B. Buck, An antidepressant that extends lifespan in adult Caenorhabditis elegans, Nature, 450:553-557, 2007.

(8) Nrf2に結合する健康食品成分

    もう一つ有用成分探索に有効と思われる経路網は、酸化ストレスに応答する、Keap1-Nrf2-ARE 経路である。抗酸化作用や抗加齢物質のスクリーニングとしてよく行われるのは、活性酸素種(ROS)の消去能(酵素作用)の測定であるが、Keap1-Nrf2-ARE系は、抗酸化に動員される酵素群を産生する機構と考えられる(Danikova-Kostakova05)。両者は関係し合っているが、どちらかと言えば、個々の酵素より、多様な酵素を用意する産生系である Keap1-Nrf2-ARE経路の方がより根源的な役割を果たしていると考えられる。
    ローヤルゼリーと並ぶ健康食品としてのミツバチ産品はプロポリスである。プロポリスは、ミツバチの巣に侵入する病原体を排除するような抗菌作用をもつと考えられているが、その成分は産地依存的である。Shimizuらは、ブラジル産のプロポリスの成分であるアルテピリン Altepillin C が、DNAのARE (antioxidant response element) に結合すると報告している(Shimizu06 の Discussionの項)。このことは、Altepillin C が Keap1-Nrf2-ARE 経路を活性化する可能性を示唆している。Altepillin C については、他の活性も報告されている(Messerli09、Tani10)。
    Danikova-Kostakovaらは、Keap1-Nrf2-ARE系を活性化する食品成分を探索している。最も活性が強かった食品成分は、(ブロッコリーのもやしに含まれる)サルフォラファン sulforaphane であるが、この他に、レスベラトロール resveratrol、お茶成分のエピガロカテキン EGCG、クルクミン、カプサイシンなどが見つかっている(Kundu09)。また、こうした化合物は、紫外線の損傷に関しても効果があることも報告されている(Dinkova-Kostova08)。
    このことは、Keap1-Nrf2-ARE系を使えば、レスベラトロールやサルフォラファンのような食品中の健康成分をスクリーニングできる可能性を示唆している。三輪らは線虫のNrf2のホモローグであるSKN1にGFT(Green Florecent Protein)を組み込んだ改変線虫をもちいて、Keap1-Nrf2-ARE類似の応答系によるスクリーングを簡便に行える実験系を開発し、毒性を疑われるアクリルアミド acrylamide やわさびの成分が検出されることを示した(Hasegawa07/07/09/10)。

参考文献

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(9) 健康食品成分探索の研究戦略

    ミツバチ産品に限らず、一般に、健康食品に関わる科学の最重要課題は、有用成分の効用の根拠を明らかにすることである。そうした研究の規範となるのは、医薬品のそれであり、そこでは Evidence-Based Medicine の考えにしたがった2重盲検法 double blind test が、もっとも望ましい評価法とされている。しかし、単一成分でも工業製品でもない天然物である食品に、このような方法を適用することには原理的な無理がある。また、食物アレルギーがあることから明らかなように、「体によい天然物」には個人差がある。
    一方、分子経路網から有用天然物を探索する方法は、十分条件を満たしていないが、望ましい必要条件になると考えられる。なぜなら何らかの作用が認められたなら、それは必ず、何らかの動物モデルの分子経路網のどこかにその痕跡を捉えられる可能性が高いからである。分子経路網は、天然物のような作用点が複数あるものの効果を分析する基盤になりうる。そのよう解析は簡単ではないが、データが信頼に足るものであれば、計算機を駆使すれば複雑な解析も不可能ではない。
    以上を勘案すれば、健康食品成分探索の研究戦略は、以下のように要約できるだろう。

  • (1)一般の食品のように、安全であるものを選択する。
  • (2)ヒトだけでなく、動物モデルを使った経路網解析が可能な実験も考慮する。
  • (3)効能とリスクの個人差を明らかにするよう努力する。
  • (4)有効性の量的な依存性を明らかにするよう努力する。
    このうちの(3)は、HRT類似の効果があると思われる健康食品においては、とくに考慮すべきことであろう。(4)については、毒性と薬功が量に依存するというホルメシス Hormesis の概念を尊重する立場である。

3.10 主要な疾患と標的に関する情報知識基盤の構築

    以上紹介してきた事例は、「経路網からの疾病の理解と、それに基づく治療標的の選択と検証」という、医学と医薬品開発の新しい作業理念に関するものである。これらは、生物医学の直接のデータと言うより、データから導かれたさまざまな結論を「構造化した知識」である。それはまだ整理の途上にあるが、現在は、猛烈な勢いで蓄積され、整理され、そして可視化(図式化)され、生物医学関連の研究者だけではなく、医薬品開発や、さらには健康食品やサプリメントの研究開発者の基盤的な知識として活用されようとしている。 ただ、それらはあまりに急速に発展してきただけ、十分体系的に整理されていない上に、多くはまだ断片的なものである。それでも、製薬会社や研究費に余裕のあるアカデミアや公的な(独立行政法人系の)研究グループでは、高額のソフトウエアとして導入し始めている。
    しかし、近未来を予測すると、次のような可能性が見えてくる。

  • (1)疾患と経路網、および標的に関する知識は、生物医学で誰もが参照できるように Public Domain の知識基盤として整備される。
  • (2)しかし、製薬企業の研究所や、規模の大きな公的研究機関では、Public Domain の知識基盤を自分たちの目的のために Customize して使う環境を構築するようになる。
  • (3)臨床医や薬剤師、あるいはさまざまな健康科学の研究者も、Public Domain の知識基盤を活用し、さらにそれを自分の専門に応じて Customize して使うようになる。
  • (4)このような知識を、一般の人(消費者)の健康の改善、維持、増進にも活用してもらえるように編集する作業が行われるようになる。
    この最後の点については、「市民への健康情報の提供」のところで、具体例を示す。健康科学の視点から言えば、根拠に基づいた健康の実践をめざすためには、このような知識基盤の整備が、避けて通れない課題となるであろうと思われる。

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