山田養蜂場運営の研究拠点「山田養蜂場 健康科学研究所」が発信する、情報サイトです。ミツバチの恵み、自然の恵みについて、予防医学と環境共生の視点から研究を進めています。

山田英生対談録
予防医学 ~病気にならないために~

第十回 「人生、老いを待つだけではもったいないと思いませんか?」

第十回 「人生、老いを待つだけではもったいないと思いませんか?」

「たった一度の人生であれば、健康で幸せに自分らしく生きたい」―。
老いは単なる年齢の積み重ねではなく、正しい生活習慣と心のあり方しだいで豊かな老後をデザインすることも可能になります。
「もうトシだから」などとあきらめず、「生涯現役」の気概を持って、夢や生きがいを持ち続けることが何よりも大切になるでしょう。
「人生100年時代」。その晩年をどう生きるか。統合医療の第一人者で、東大名誉教授の渥美和彦さん(86)と山田英生・山田養蜂場代表(58)が老いと上手に付き合う方法や健康長寿をめざす生き方などについて語り合いました。

心のアンチエイジングを意識していつまでも若々しい人生を。

老いをどう受け止めるか

山田

医学の進歩で、日本人の平均寿命は2013年には、女性が86.61歳と世界一を維持し、男性も80.21歳と初めて80歳を超えました。「人生50年」といわれた頃から比べると、夢のような時代が訪れましたね。長生きすること自体は、大変喜ばしいことですが、その一方で老いは、加齢に伴う心身の衰えや病気などの悩みを抱えて生きて行くことであり、今、この長い老後をどう生きて行くか私たちに新たなテーマを突き付けているように思います。

2014年に発表された健康とされる基準範囲

渥美

難しい問題ですね。「最近、物忘れがひどくなった」「顔にシミやイボができた」…。年をとると、そんな悩みが私たちの心身には次々と出てきます。自分では「年のせいだ」と薄々わかっていても、病気のせいにして、老化が原因であることを誰も認めようとはしません。でも、これは紛れもなく肉体の老化からくる機能の低下です。これに対し、こころ(精神)の老いは、年齢に比例しないと思いますね。

山田

そういえば、私自身も50代後半に入って、「人の名前がすぐ出てこない」「なかなか疲れがとれない」など若い頃と比べ、体にも少しずつ変化が現れるようになりました。これも、一種の老化のサインかもしれませんね。人は、老いを意識したとき、どう受け止めたらよいのでしょうか。

渥美

自然のままに老いを受け入れ、人生のそれぞれのステージに合わせて、軽やかに自分のありようを変えていくことが大切ですね。「昔はできたのに、なぜ今はできないのだろうか」などと思い悩まず、「この年では、仕方がない」と軽く受け止め、スマホやパソコンのような便利な「文明の利器」を上手に活用しながら、楽しく快適に暮らすのも一つの手でしょう。創意工夫をすれば、また違った人生の味わいが生まれてくるものです。

ヘルシーエイジングを提唱

山田

その一方で、「いつまでも若々しくありたい」と、最近はアンチエイジングに励む人も増えてきました。人間であれば、誰でも「人から若く見られたい」、特に女性であれば「いつまでも美しく輝いていたい」と思うのは、自然な感情だと思いますね。

渥美

おっしゃる通り、今はアンチエイジング全盛の時代といってもよいでしょう。医療技術が進んで、外見上は簡単に「老化」を遅らせることができるようになりました。それも女性だけでなく、最近では男性までもがエイジングケアに夢中と聞きます。「若くありたい」と願う気持ちは、「こころの若さ」につながる側面もあり、一概に否定できませんが、「老化」を認めないこととは、意味が違うと思いますね。「老化」を認めたくないのは、ようやく熟れた人生の果実をみすみす自分から捨てているように、私には思えてなりません。

山田

と、いいますと…。

渥美

人生には、それぞれの段階に応じた新しい生き方が用意されているものです。例えば、経験はなくても体力がある20代。経験と体力がともに備わった40代、そして、体力は衰えても、豊かな経験と知恵に包まれた60代、70代。人にはその時々に合った本来の生き方があるものですが、アンチエイジングが目的化すると、自然な流れに逆らっているように私には感じられます。それよりも自然の流れに身を任せ、自分の心身の状態に耳を傾けながら穏やかに年を重ねていく「ヘルシーエイジング」を、私は提唱したいですね。老化からくる心身のさまざまな衰えを無理に追い払うのではなく、自分の健康は自分で管理する「セルフケア」を心がける。そんなライフスタイルが満ち足りた日々をつくるのではないでしょうか。

山田

たしかに、私もそう思いますね。

生きがいを持って生きる

渥美

西洋では、ともすれば老いや死を科学的に解決しようと考えますが、その点、加齢に抗うアンチエイジングは、西洋的な考え方といってもよいでしょう。一方、東洋では、「人間は自然に老いて、死ぬものだ」との思想が根底にあり、その意味では、ヘルシーエイジングも東洋的なものといえますね。私たちが、ヘルシーエイジングを統合医療の一つの形として提唱している理由も、そこにあります。

山田

誰でも年を取れば、病気の一つや二つ、抱えるものですが、その一方で、世の中には、90歳を超えても、自分の身の回りのことはもちろんのこと、仕事やボランティア活動、趣味などに精を出し、日々エネルギッシュに活動されている方がたくさんおられます。こうした人たちに共通するのは、バランスの取れた食事や適度な運動に加え、いくつになっても生きがいを失っていないことですね。「もう、トシだから」などとあきらめず、新しいことに次々チャレンジする気持ちは「心の老化」を防ぐのに、とても役に立つように思います。

渥美

肉体の老化とは単なる年齢の積み重ねだけではなく、心のあり方も大きく影響していると思いますね。臓器の働きや筋力、免疫機能などは、年齢を重ねるごとに衰えていきますが、脳だけは使えば使うほど元気になるものです。しかも、脳はホルモンの分泌を司っているわけですから、こころや考え方の影響は非常に大きいのです。私がそう確信したのは、本田技研工業の創業者、故本田宗一郎さんの脳をMRI(磁気共鳴画像)で撮影した画像を見たときでした。当時、本田さんは60歳を過ぎておられましたが、彼の脳細胞はぎっしり詰まり、20代の人と何ら変わることがありませんでした。好奇心旺盛でバイタリティーにあふれ、その柔軟な発想が、次々と革新的な技術や製品を生み出した原動力になっていたからではないでしょうか。

「青春とは、心のあり方」

山田

そうでしょうね。脳は年をとるごとに細胞が減少し、40歳を過ぎると老化し始める、といわれていますが、細胞は減っても、その働きが活発になれば、それだけ脳の機能は高まりますね。

渥美

私が生前、親しくさせていただいた本田さんをはじめ、ソニーの創業者の一人だった井深大さんや盛田昭夫さん、そして、松下電器産業(現パナソニック)を興し、世界的企業に育て上げた「経営の神様」、松下幸之助さんも、老いてからもますます柔軟な思考を広げておられました。私はその柔軟な思考と発想がうらやましくてなりませんでした。こうした人たちとのお付き合いを通じて、私は「老いるだけではもったいない」ことを身をもって学びました。

山田

「青春とは年齢ではなく、心のあり方」とよくいわれますが、いつまでも夢や希望を持ち続けることは、脳の老化を防ぐためには、とても大切ですね。先生は、心臓外科医になられたあと、人工心臓の研究に取り組まれ、1984年には人工心臓を装着したヤギの生存の世界最長記録を打ち立てられました。また、レーザーによる手術に日本で初めて成功されたほか、医学のコンピュータ化でも、今の電子カルテの先駆けとなる技術などを次々開発されました。そして、86歳になられた今も、「統合医療」という新しい医学の道を切り開こう、と意欲的に活躍されておられるのは、まさに、その言葉を実践されているように思えてなりません。

尊厳と品格に満ちた人生

渥美

思えば、怖いもの知らずで、研究一筋に突っ走ってきたような気がします。その根底に常にあったのが、新しいことに挑戦するチャレンジ精神でした。未知の分野に挑む緊張感と、それを成し遂げたときの充実感は当時の私に、何倍もの活力を与えてくれました。

山田

ビジネスの世界でも同じことがいえますね。未知の分野は、その人にとって経験したことのない領域であり、成功できるかどうかわかりません。私にも経験がありますが、失敗を恐れず勇気を出して踏み込んだ結果、目的を果たすことができたときの充実感は格別なものです。まさに未知の分野への挑戦は、男のロマンといえますね。ところで、先生がお考えになる理想的な老い方とは、どのようなものですか。

渥美

「老化をどう考えるか」ということは、人によってそれぞれ違っていいと思います。私は、真の医療を目指して昨年、財団を設立し、健康を支える医療産業を創出するために今もチャレンジしています。その一方で、豊かな自然環境に恵まれた家に住み、天気のよい日は畑を耕し、雨の日は家にこもって本を読む。そんな晴耕雨読のような生活を送りながら、段々と食欲が落ちてきて、ロウソクの火が消えるように穏やかに死んでいく。そんな生き方もいいのではないかとも思います。

山田

人生の最期まで健康で、その人らしく尊厳と品格に満ち、喜びや幸せに包まれながら生きていく。そんな生き方が理想ですね。

山田 英生(やまだ・ひでお)

山田 英生(やまだ・ひでお)

山田養蜂場代表:1957年岡山に生まれる。1983年に家業の養蜂場を継ぐも、厳しい経営環境の中、活路を通販に求め、現山田養蜂場を築く。予防医学の観点から健康食品の開発をしている。山田養蜂場 健康科学研究所・免疫分析研究センターなどの機関を持ち、研究活動に力を入れている。また、自然保護や教育メセナに積極的に取り組んでいる。

渥美 和彦(あつみ・かずひこ)

渥美 和彦(あつみ・かずひこ)

(財)渥美和彦記念未来健康医療財団理事長・日本統合医療学会名誉理事長・東大名誉教授:1928年大阪生まれ。1954年東大医学部卒業後、人工心臓やレーザー治療などの研究に取り組む。1984年、人工心臓を装着したヤギの生存世界記録を達成。東大医学部教授などを経て現職。