山田養蜂場運営の研究拠点「みつばち健康科学研究所」が発信する、情報サイトです。ミツバチの恵み、自然の恵みについて、予防医学と環境共生の視点から研究を進めています。

山田英生対談録
予防医学 ~病気にならないために~

第一回「腸の健康こそ、快適な人生のキーワード」

「病気の根源は腸内細菌にあり」

山田

最近、新聞やテレビなどで、「腸内細菌」の働きがクローズアップされています。これまで、腸といえば「便秘」や「下痢」にでもならない限り、特別意識するような臓器ではなかったような気もしますが、今なぜ大腸や、腸内細菌の働きがこんなにも注目されているのでしょうか。

辯野

現代人の腸内環境が悪化し、大腸がんなど大腸を発信源とした疾患が急増し、大腸に棲む腸内細菌がいろいろな病気と関わりのあることが、近年の研究によってしだいに分かってきたからではないでしょうか。今では、「あらゆる病気の根源は、腸内細菌にあり」といってもよいほど腸内細菌の重要性が明らかになっています。たとえば、花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患をはじめ、肥満症や糖尿病、自閉症、パーキンソン病などとの関連性を示す研究報告が増えてきました。以前から、腸内細菌の働きが体の免疫機能と関係することはよく知られていましたが、最近の研究方法の目ざましい発達で、「腸内細菌が、私たちの病気の原因を解明するカギになった」といってもよいと思いますね

山田

「緊張すると、おなかが痛くなる」「旅行に行ったら便秘になった」などの話をよく聞きますが、私たちの体と心も腸と密接につながっているわけですね。

今や腸は「第1の脳」?

辯野

その通りです。腸は、「神経の網タイツをはいている」ともいわれるくらい、腸壁には数多くの神経細胞が張り巡らされています。その数は、脳とともに中枢神経系を形成する「脊髄(せきずい)」に匹敵するほど多いといってもよいでしょう。腸は、私たちが寝ている間も、休みなく働いてくれます。腸には、脳とは別の独自の神経機能があるのに加え、免疫機能も備わっています。このため、外部から侵入した細菌やウイルスなどの異物を撃退し、私たちの体をしっかり守ってくれるんですね。こうした優れた機能を持つ腸は、「第2の脳」ともいわれていますが、その働きぶりが明らかになるにつれ、私には第2どころか、「第1の脳」といってもよいくらい、大事な機能を持った器官に思えてなりません。

山田

その腸の中でも近年、大腸がんが急激に増えてきました。女性では、死因の第1位、男性でも肺がん、胃がんに次いで第3位で、「近い将来、男女とも死因のワースト1になるだろう」と予測する人もいます。なぜ、こんなに増えているのですか。

辯野

その背景にはまず、肉類を食べる人が増える一方で、野菜を摂る人が減るなど、食生活の変化があるように思いますね。それと、精神的なストレスや運動不足が重なっている点も見逃せません。事実、米国がん研究財団の調査では、「肉を頻繁に食べ、食物繊維の少ない食生活や運動不足が続けば、大腸がんのリスクは高くなる」と報告しています。

山田

確かに食生活の面では、食の欧米化が進み高脂肪、高タンパク、高カロリーの肉類やチーズ、バターなどの乳製品を摂る人が増えました。IT技術の発達で、一日のほとんどの時間をパソコンの前に座り、仕事の指示もメールでやり取りする時代です。交通手段が発達し、どこへ行くにも車に乗り、家ではリモコン付きの電化製品が何でもやってくれます。その結果、現代人は、体を動かす機会が減り、運動不足に陥っています。豊かで便利な生活の一方で、厳しい競争社会、複雑な人間関係などから多くの人がストレスにさらされ、心の病に悩んでいる人も少なくありません。こうしたストレスは、健康によいはずはありませんが、それがなぜ腸内細菌と関係あるのですか。

辯野

腸内細菌については、次回以降詳しくお話しますが、腸内細菌には、体によい働きをする「善玉菌」と悪い働きをする「悪玉菌」、そして、よい働きも、悪い働きもする「日和見(ひよりみ)菌」などがあるのをご存知だと思います。

山田

善玉菌といえば、ヨーグルトのCMにも出てくる「乳酸菌」や「ビフィズス菌」がよく知られていますが、当社でも、はちみつ由来の乳酸菌を発見しました。

辯野

どのような乳酸菌ですか。

山田

ご存知のように、働き蜂は、花粉に蜂蜜を加えて発酵させた「蜂パン(bee bread)」を主食としています。この「蜂パン」に微生物の特別な力が働き、ミツバチの健康に役立っているのではないか」と考え、腸内や蜜胃、花粉荷など1000を超えるサンプルを採取して調べました。その結果、314株の細菌の中から137株のはちみつ乳酸菌を確認しました。この中には人にも有用なものが含まれていることも明らかになっています。

辯野

はちみつ由来の乳酸菌として早く人の健康に役立つようになるといいですね。

老化が進む若い世代の腸年齢

山田

ところで、腸内細菌のうち善玉菌、悪玉菌、日和見菌のそれぞれ占める割合は、どのくらいですか。

辯野

健康な人であれば、おおまかにいって善玉菌20%、悪玉菌10%、日和見菌70%の割合で構成されています。善玉菌が多く、悪玉菌が少なければ、病気にはなりにくいのですが、このバランスが崩れ、善玉菌が減って、悪玉菌が多くなると、病気に罹り(かか)やすくなります。もともと、便をつくるのが大腸の仕事ですが、悪玉菌は便のもととなる食べカスを腐敗させ、有害物質をつくり、これが腸壁や血液を介して全身を回り、いろんな病気を引き起こす、といわれています。

山田

年をとれば誰でも老眼になったり、耳が遠くなったりするように腸も老化すると聞きました。腸にも「腸年齢」があるそうですが、腸が老化すると、どうなりますか。

辯野

腸も、ほかの臓器と同じように加齢に伴って老化していきます。腸の老化は、腸粘膜の細胞の働きが低下するとともに大腸が胃下垂のように垂れ、腸の機能が落ちていくことが大きな原因と思われます。しかし、それ以上に、私が重視しているのは腸内細菌のバランスが年齢とともに変わっていくことです。一般的には、人は年をとると、善玉菌が減り、悪玉菌が増えていく傾向がある、といわれています。悪玉菌が増えれば、腸に有害な腐敗物質が溜まり、それが腸管から吸収されて腸の働きがさらに悪くなるという悪循環に陥ります。特に50歳を過ぎたころから、いろんな病気に罹(かか)りやすくなるのは、腸内環境が悪化することで、腸内細菌の構成パターンが大きく変わるのも一因でしょう。同じ高齢者でも腸内環境には個人差があって、実の年齢に比べて腸年齢が若い人もいれば、老化した人もいます。問題なのは、今の若い人たちの腸年齢が実の年齢以上に老化していることなんです。

山田

若い人たちの腸年齢は、どのくらい老化しているんですか。

辯野

腸年齢は、正確には便の色や形とか便の中の腸内細菌の構成などを調べればわかりますが、おおまかな傾向なら食事など生活習慣からもつかめます。そこで私は、誰でも手軽に腸年齢がわかる24項目のチェックリストを作りました。これをもとに、さまざまな研究機関や企業などの協力を得て、多くの人に「腸年齢チェックテスト」を実施してもらいました。例えば東京・大阪に住む20代から60代までの女性600人を対象とした「腸年齢と健康に関する調査」では、実年齢20代の平均腸年齢は、なんと45・7歳、実年齢30代の人は51・3歳、40代の人は54・2歳でした。また、テレビ番組を通じて集めた便の調査でも同じような結果が出ており、中には実年齢が25歳であるにもかかわらず、腸年齢が74歳と判定された方もいました。

“腸高齢化”の主因は、食生活

山田

まさに“腸高齢者”ですね。日本人の腸の老化は予想以上に進んでいて、整腸力が落ちている証拠といってもよいでしょう。

辯野

こうした若い人たちの「腸高齢化」の主な原因は、食生活などにあると思います。動物性脂肪の多い食事に加え、ファストフードやスナック菓子などを普段から頻繁に食べていることも影響しているのではないでしょうか。

山田

食事は何でも食べればよいというものではなく、何が健康によいかを考えて食べることが大切ですね。でも、このチェックテストを受けることで自分の腸の健康度が分かるわけですから、たとえ腸年齢が高いと判定されても、腸の健康管理のために、どんな食事に変えたらいいかなどの課題が見えてきます。一度、テストを受けてみる必要がありそうですね。

辯野

仮に悪い結果が出たとしても、あくまで大まかな目安ですので悲観することはありません。これをきっかけに生活習慣を見直せば、その後の健康管理にはプラスになるでしょう。脳の働きも、腸内環境と密接に関連しているともいわれています。この「腸年齢と健康に関する調査」でも腸年齢の若い人ほど、脳機能の衰えが少なく、老化も進みにくい傾向が読み取れました。

山田

ある程度、年をとると、「人の名前が出てこない」、「漢字を忘れる」、「物をどこに置いたかわからなくなる」など物忘れが激しくなってきます。これも腸年齢と関係しているのでしょうか。

辯野

「関係していない」とはいえませんね。また、この調査では、腸年齢が若い人ほど肌の悩みが少なく、健康状態や体力、気持ちの持ち方、見た目などの点でも若い傾向にある、との結果が出ています。腸を若々しく保てば何歳になっても病気にならない健康な体をつくることにもつながります。そういう意味では、腸年齢の若さを保つことは健康長寿へのカギを握っていると、いっても過言ではありません。

山田

「健康の秘訣は腸内細菌にあり」といわれる理由が、よくわかりました。

辨野 義己(べんのよしみ)

(独)理化学研究所イノベーション推進センター辨野特別研究室・特別招聘研究員。酪農学園大学特任教授。農学博士。専門は腸内環境学、微生物分類学。1948年、大阪生まれ。東京農工大学大学院を経て同研究所に入所。2009年から現職。著書に「大便学」(朝日新聞出版)「大便通」(幻冬社)「整腸力」(かんき出版)「健腸生活のススメ」(日本経済新聞出版社)など多数。