山田養蜂場運営の研究拠点「みつばち健康科学研究所」が発信する、情報サイトです。ミツバチの恵み、自然の恵みについて、予防医学と環境共生の視点から研究を進めています。

山田英生対談録
予防医学 ~病気にならないために~

第二回「過剰な肉食を続けると、人間はどうなるか」

急激に増える大腸がん

山田

急速な高齢化に伴って、がんが増えてきました。日本人の死因の第1位はがんであり、今や国民の3人に1人ががんで亡くなっています。がんの中でも、大腸がんで亡くなる人が近年、増えており、女性は死因の第1位、男性も3位を占めています。(厚生労働省「人口動態統計」)。このまま今の傾向が続けば、やがて日本人の死因のワースト1になる可能性も否定できません。このように大腸がんが増えてきたのはなぜでしょうか。

辯野

確かに増えていますね。1960年から2010年までの50年間の死亡率を見ましても、大腸がんで亡くなった人は、男性が人口10万人中5人から約40人へと8倍、女性も5人から約30人へと6倍も増えています。その理由は、いろいろありますが、とりわけ食生活の変化が大きい、と私は考えています。つまり、肉類の消費量が大幅に増える一方で、野菜の摂取量が減ってきたことが考えられますね。例えば、肉は2010年で、1人平均で年間29.1㎏、1日平均で79.7gを食べています。

山田

それでも、ステーキの本場であるアメリカと比べると、圧倒的に少ないでしょう?

辯野

少ないですね。アメリカでは1人当たりの肉の消費量は、年間123㎏、1日当たりにすると337gを食べている計算になります。それでもアメリカは、肥満などへの影響を心配してか近年肉の消費量が減っているのに対し、日本人の消費量は、大幅に増えています。1960年の1人当たり年間消費量が5・1㎏ですから、この約50年間で6倍近く増えたことになりますね。

肉はバランスよく食べる

山田

でも、肉はおいしくて栄養価も高く、特に粗食がちな高齢者は、健康長寿のためにももっと肉を食べるよう勧める専門家もいます。なぜ肉を食べるのは、大腸によくないのでしょうか。

辯野

肉にはタンパク質や脂肪が豊富に含まれており、バランスよく食べれば特に問題はありません。よくないのは、肉に偏った食生活ですね。肉食中心の食生活がただちに大腸がんを誘発するわけではありませんが、こうした食生活が長年続けば腸内環境に悪影響を与え、その結果大腸がんのリスクを高めることになるでしょう。過剰な肉食は、腸内に悪玉菌をのさばらせ、それがさまざまな病気の引き金になる恐れも出てきます。大腸がんについていえば、肉類などに含まれる動物性脂肪がリスク要因の一つといってもよいでしょう。

山田

なぜ動物性脂肪が大腸がん発症のリスクを高めることになるのですか。

辯野

ご承知のようにがんは、がんを発生させる「発がん物質(イニシエーター)」と細胞のがん化を促す「発がん促進物質(プロモーター)」の2段階で発生する、と考えられています。動物性脂肪を大量に摂り過ぎると、それを分解するため肝臓から「胆汁」が過剰に分泌され、胆汁に含まれている胆汁酸(一次胆汁酸)の一部が大腸に流れ、これを悪玉菌の「クロストリジウム」が発がん促進物質の「二次胆汁酸」に変えてしまう、といわれています。動物実験でも、二次胆汁酸と発がん物質を与えると、大腸がんが発生することがわかりました。肉中心の食生活は、悪玉菌を増やすので、腸内で腐敗が起きやすく、発がん物質が作られやすくなると考えられています。

山田

肉ばかり大量に食べていると、大腸がんのリスクを高めることになるわけですね。

辯野

実際、アメリカに移住した日系人のがん罹患率を見ても、日系1世は胃がんが多いものの、大腸がんの発生は、とても低いことが調査の結果、わかりました。おそらく、日系1世は、肉を控え、伝統的な日本食を守り、塩辛いものを食べていたからでしょう。ところが、2世、3世になると、食生活も欧米化し、大腸がんの発生率もアメリカの白人と変わらないくらいに増えました。

山田

食生活によってがんの種類が変わることを示した興味深い調査ですね。話は変わりますが、以前アメリカでファストフードだけを1日に3回、30日間、食べ続けたら、どうなるかを記録した「スーパーサイズミー」というドキュメンタリー映画がありました。私も見ましたが、極端に偏った食生活を長く続けると、健康上大きなリスクを抱えることがわかり、とても衝撃を受けた記憶があります。先生は、それを上回る過酷な実験をされた、と伺いましたが…。

40日間、肉食だけの人体実験

辯野

35歳の時でした。肉ばかり食べ続けたら、腸内環境はどう変わっていくのかを知りたくて自らの体を実験台にして同僚3人と始めました。40日間、コメや野菜、果物など他の食べ物は一切食べずに、毎日1・5㎏の肉だけを、しかも朝・昼・夜の3食、食べ続けるという実験です。こんな過酷な実験を最後までやり抜くには、「おいしい肉でなければ続かない」と100g800円もする高級な霜降り牛肉を選びました。1人48万円、4人合わせると200万円近くもかかり、上司からえらく怒られました。実験を始めるに当たっては、もともと野菜嫌いで、肉好きだった私には、それほど不安はありませんでしたね。

山田

いくら肉好きといえども毎日、それも40日間続けるとなると、誰でも二の足を踏むでしょう。実験を始めてからは、どんな変化がありましたか。

辯野

始めた頃は、全身からパワーがみなぎってくるように感じましたが、やがて体臭がきつくなり、皮膚も脂ぎってテカテカになり、体も重く感じられ疲れやすくなりました。一緒に始めた同僚3人は、ゴール折り返し地点の20日間ほどでギブアップしました。私もダウン寸前でしたが、何とかやり続け、やっとゴールまでたどりつくことができました。

山田

実験を途中で打ち切られた方の気持ちもわかりますね。実験を続けられた結果、どのような変化がありましたか。

辯野

もっとも劇的に変わったのは、便でした。実験前は黄色の健康色だったのがしだいに黒ずんでいき、実験の終了直前にはタールのようになりました。色が変化するにつれて排便の量も少なくなり、臭いも段々きつくなって、我ながらトイレに入るのが嫌になるほどの悪臭でした。

山田

さぞかし、ご家族も大変でしたでしょうね。ほかにどんな変化がありましたか。

辯野

便の色や臭いだけでなく、便自体も実験前の弱酸性から弱アルカリ性に変わりました。これは腸内で、悪玉菌が優勢になった証拠で、事実腸内細菌を調べてみると、ビフィズス菌などの善玉菌が実験前は20%だったのが、実験後には15%に減り、実験前10%だったクロストリジウムなどの悪玉菌が実験後には18%に増えていました。強い勢力になびく日和見菌も、悪玉菌が増えるにしたがってそちらに加担して悪さをします。それによって全体的に腐敗が進み、大便の色が変わり、臭いもきつくなった、と考えられます。

山田

それにしても、貴重な経験をされました。

辯野

いくら肉好きとはいえ、こんな実験は2度とやりたくはありませんね。それと大腸がんが増えてきた背景には、日本人の野菜離れもあると思いますね。

食物繊維は、「第6の栄養素」

山田

そういえば、野菜を食べる人が最近、減ったような気がします。事実、厚生労働省の調査でも、2011年の日本人の大人1日当たりの野菜の摂取量は、277.4㌘で、10年前に比べ6%減っている、とのデータがあります。(2011年国民健康栄養調査)。野菜にはビタミンやミネラル、食物繊維などの栄養素がたくさん含まれているうえカロリーも低く、高血圧や肥満などの生活習慣病にもよい、といわれています。最近の健康ブームで野菜の良さが見直されていると思っていましたが、食べる人が減っているとは意外な気もします。

辯野

国民健康運動の指針である「健康日本21」では、野菜は、1日当たり350gを摂取するよう勧めていますが、一番食べているのは、60~69歳で300g前後、20代の若者に至っては200gも食べていないでしょう。特に野菜に含まれる栄養素のうち、食物繊維は、厚労省の「日本人食事摂取基準」(2010年版)でも、男性の目標摂取量は19g以上、女性は17g以上とされているのに、実際は平均で14~15g程度しか摂れていない、といわれています。食物繊維は5大栄養素に次ぐ「第6の栄養素」ともいわれ、便秘解消にも役立つことがわかっています。だから、私は、「肉を食べるときは、野菜はその3倍を食べろ」といっています。

山田

野菜は、「健康によい」とわかっていても、十分な量を摂るのは意外と難しいですよね。生野菜では、たくさん食べようと思ってもそんなに食べられません。それなら煮たり、蒸したり、具だくさんのみそ汁にするなど、野菜をおいしく、たくさん食べられるよう料理の仕方を工夫する必要がありそうです。昔の日本人の食事といえば、一汁三菜、つまり、ご飯に汁物、主菜1品と副菜2品が一般的なスタイルでした。塩分が多い点を除けば、食物繊維も多く、栄養バランスにも優れた健康的な食事でしたが、今の日本では食の欧米化とともに、こうした伝統的な日本食が廃(すた)れ、逆に欧米では健康食である日本食がブームになっています。

辯野

皮肉な現象ですね。確かにかつての伝統的な日本食は、玄米や麦飯に魚などを主菜に、根菜などの野菜や海藻を副菜にした食物繊維たっぷりの食事でした。また、日本には納豆や漬物、みそ、しょうゆなど健康によい発酵食品がたくさんあります。こうした伝統的な食材を日常的に食べていれば、それなりに腸内で善玉菌を増やすことも可能です。欧米風に偏り過ぎた今の食生活を見直す意味でも、これらの発酵食品をどんどん取り入れてほしい、と思いますね。

辨野 義己(べんのよしみ)

(独)理化学研究所イノベーション推進センター辨野特別研究室・特別招聘研究員。酪農学園大学特任教授。農学博士。専門は腸内環境学、微生物分類学。1948年、大阪生まれ。東京農工大学大学院を経て同研究所に入所。2009年から現職。著書に「大便学」(朝日新聞出版)「大便通」(幻冬社)「整腸力」(かんき出版)「健腸生活のススメ」(日本経済新聞出版社)など多数。