山田養蜂場運営の研究拠点「みつばち健康科学研究所」が発信する、情報サイトです。ミツバチの恵み、自然の恵みについて、予防医学と環境共生の視点から研究を進めています。

山田英生対談録
予防医学 ~病気にならないために~

第四回「善玉菌を増やし、悪玉菌を減らす」

年齢を重ねれば白髪が増え、耳が遠くなるのと同様に、腸も老化し、働きが鈍くなります。最近、特に気になるのが若い人の腸年齢が実年齢以上に老化していること。腸が老化すれば善玉菌が減って悪玉菌が増え、「悪玉菌優位の腸内環境」となって様々な病気に罹り(かか)やすくなる、といわれています。こうした病気を防ぐには、悪玉菌を減らし、善玉菌を増やして腸年齢の若さを保つことが重要となってきます。そのためには、乳酸菌やビフィズス菌など健康によい働きをする善玉菌を日常の食生活に積極的に摂り入れることも一つの方法でしょう。腸内細菌研究の第一人者で、理化学研究所イノベーション推進センター・特別招聘(しょうへい)研究員の辨野義己さん(66)と山田英生・山田養蜂場代表(57)が、腸の若さを保つ秘訣などについて語り合いました。

高齢化する若い人の腸年齢

山田

これまでの先生のお話では、今の若い人たちの腸年齢が実年齢に比べ、かなり高齢化している、とのことでした。「腸が老化している」ということは、腸の働きが低下すると同時に腸内細菌のパターンが変わるということですよね。つまり、体に有害な作用をする悪玉菌が増え、有益な働きをする善玉菌が減ること。その結果、腸内環境が悪玉菌優位になれば、さまざま病気の引き金にもなる、と聞きました。

辯野

悪玉菌の多くは、腸内のアミノ酸や脂肪、糖類などの栄養分を腐敗させ、この腐敗によって有害物質が生まれ、疲労や頭痛、不眠、イライラ、肌荒れなどを起こし、いろんな病気を引き起こす原因になる、といわれています。腸年齢が若ければ健康、体力、気持ちの持ち方も若い傾向にあり、脳の老化も少ないようです。腸年齢の若さを保つことは、とても重要です。

山田

そのためにも、善玉菌を増やして悪玉菌を減らす。つまり、善玉菌優位の腸内環境を保つことが大事ですね。それには、どうしたらよいのでしょうか。

辯野

よい腸内環境を保つには、
①「プロバイオティクス」の摂取
② バランスのよい食事
③ 食物繊維の摂取
④ 規則正しい生活
⑤ 水分を多く摂る
⑥ 適度な運動と十分な睡眠
の6つが重要なポイントになります。

山田

プロバイオティクスという言葉は、最近よく聞きますが、どんな意味ですか。

辯野

「生きたまま腸に届く、体によい働きをする微生物のこと。また、それらを含む食品のこと」をいいます。乳酸菌は、胃や小腸を通るとき、そのほとんどが胃酸や胆汁(消化液)で死滅してしまいます。だから、生きたまま腸に届くことが重要になってくるのです。プロバイオティクスについては次回以降、詳しくご説明しますが、たとえば、乳酸菌やビフィズス菌などはもちろんのこと、こうした善玉菌の入ったヨーグルトや乳酸菌飲料、納豆などの発酵食品がプロバイオティクスに該当します。

発酵食品を食生活に

山田

乳酸菌やビフィズス菌は、お腹の調子を整える整腸作用に加え、免疫力のアップやアレルギー症状の緩和にもよい、といわれています。こうした点を意識してか、最近、乳酸菌やビフィズス菌の入ったヨーグルトを食べる人が増えてきたように思えます。人間は加齢や偏った食事に加え、ストレスを受けると、善玉菌である乳酸菌やビフィズス菌が減っていくのに対し、悪玉菌の割合は逆に増える傾向にあり、その結果、免疫の働きが悪影響を受け、いろいろな病気を引き起こすリスクが高まる、と聞きました。もう一つ、気になるのが近年、食の欧米化が進み、日本の伝統的な和食を摂る人が減ってきたことです。腸内細菌をバランスよく保つためにも、乳酸菌などがギッシリ詰まった発酵食品を日常の食生活にぜひ取り入れたいものです。

辯野

乳酸菌とビフィズス菌は、生物学的には細胞に核を持たない真正細菌の一つです。真正細菌とは、「バクテリア」のことですが、このうち乳酸菌は、ブドウ糖を資化して主に乳酸をつくり、ビフィズス菌は同じくブドウ糖を資化して主に酢酸や乳酸などをつくります。これらの酸は、悪玉菌を減らし、元々腸内に棲んでいる善玉菌の比率を高める働きがある、といわれています。それと、乳酸菌やビフィズス菌だけを摂るのではなく、その餌となるオリゴ糖や食物繊維と組み合わせて一緒に摂ると、効果はさらに高まるでしょう。特にオリゴ糖は、ビフィズス菌を活性化する働きがあり、腸内バランスの改善にもつながります。

山田

ビフィズス菌も乳酸菌の一種で、よく似ているようですが、その違いは、どこにあるのですか。

辯野

乳酸菌は、酸素があっても生きられる「通性嫌気性菌」ですが、ビフィズス菌は酸素があると生きられない「偏性嫌気性菌」です。もう一つの大きな違いは、菌の数ですね。乾燥させた便1g当たり、乳酸菌は1000万~1億個なのに対し、ビフィズス菌は100億~1000億個と圧倒的に多く、腸内の善玉菌の99.9%を占めている、といわれています。それだけに、ビフィズス菌の増減が腸内環境を左右するカギになるといっても過言ではないですね。細菌を分類する場合、たとえば、乳酸菌飲料に使われている乳酸菌の学名「ラクトバチルス(菌属)・カゼイ(菌種)・シロタ(株)」のように菌属、菌種、株の順に表します。現在までに分かっている乳酸菌の種類は、26菌属、400菌種以上、ビフィズス菌は40菌種といわれています。

山田

では、ビフィズス菌入りのヨーグルトなどを食べると、菌は腸内に定着しますか。

辯野

口などから入ったビフィズス菌や乳酸菌は、腸内環境を改善する効果はありますが、腸内に棲み付くことはありません。でも、自分の腸内にもともと棲みついている善玉菌なら定着します。ですから、腸内細菌のバランスがもっとも健全な青年期のビフィズス菌を保存しておいて、悪玉菌が増える壮年期や老年期に青年期のフィズス菌を取り込み、腸内環境を改善するのが将来、当たり前になる時代が来るかも知れません。そういう私も、20代の頃、自分で分離・培養したビフィズス菌を凍結乾燥させてカプセルに入れ、体調が悪い時などに時々飲んでいます。

山田

興味深い話ですね。飲んだあとは、体調はよくなりますか。

辯野

何ともいえませんね。「ちょっと腸を若返らせたい」と思った時、軽い気持ちで飲んでいます。自分の若い頃の菌だから一番自分に合っているし腸にも定着し、安全性の面でも心配はありません。

山田

つまり、若い頃の菌を「ビフィズス菌銀行」に“貯菌”しておいて、高齢になって腸内環境が悪くなったときに、引き出して使うということですね。

北里柴三郎博士の名言

辯野

そういうことになりますね。ペスト菌の発見者で、「日本の細菌学の父」として知られる北里柴三郎博士は、「菌で起こった病気は菌で、食で起こった病気は食で治せ」という名言を残しました。「菌で起こった病気は菌で治せ」とは、正常な菌と病原菌を闘わせ、腸内環境をコントロールするということを意味します。一方、「食で起こった病気は食で治せ」とは、「食事と病気の治療は、ともに健康を保つためのものであり、その源は同じ」という『医食同源』の大切さについて述べています、博士は、すでに100年以上前から細菌学の要諦や医学の真髄について語っておられたことになります。その意味でも、本当にすごい先生でした。

山田

北里博士は、1901年の第1回ノーベル生理学・医学賞の候補に挙がっていた、と聞きました。今生きておられたら、ノーベル賞を受賞されていても不思議はありませんね。

運動を楽しむ高齢者

辯野

当然、そう思いますね。本当に凄い細菌学者でした。

山田

先ほど先生は、腸内環境をよくするには、「適度な運動が大切」とおっしゃいましたが、近年、ウォーキングなどを楽しむ人が増えてきたように思います。でも、最近のある調査では30分以上の運動を週2回以上、1年間継続している人は、男性約35%、女性約29%に過ぎません(平成23年度国民健康栄養調査)。健康やダイエットを意識して、もっと多くの人が運動をしていると思っていたのですが、意外と少ない気がします。

辯野

特に若い人は、運動が足らないように思いますね。それに比べご高齢者は時間もあり、結構運動をされている方が多いようです。昨年、102歳を迎えられた現役の医師、日野原重明先生がシニア世代の新しい生き方として提唱された「新老人の会」は、皆さん、知的好奇心が強く、多くの会員の方が毎日のように出かけているそうです。歩くスピードも同世代の人たちよりも速く、体力も申し分なく、年をとられても、皆さん矍鑠(かくしゃく)とされておられます。運動は腸内環境をバランスよく整えるだけでなく、便を外に押し出す腹筋や腸腰筋(ちょうようきん)を鍛えることになります。

山田

生活が豊かで便利になる一方で、私たちの運動量は減っています。適度な運動が生活習慣病だけでなく、腸内環境の改善にも好影響を与えるならば、ぜひ毎日の暮らしの中に運動を取り入れたいものですね。

辨野 義己(べんのよしみ)

(独)理化学研究所イノベーション推進センター辨野特別研究室・特別招聘研究員。酪農学園大学特任教授。農学博士。専門は腸内環境学、微生物分類学。1948年、大阪生まれ。東京農工大学大学院を経て同研究所に入所。2009年から現職。著書に「大便学」(朝日新聞出版)「大便通」(幻冬社)「整腸力」(かんき出版)「健腸生活のススメ」(日本経済新聞出版社)など多数。