山田養蜂場運営の研究拠点「みつばち健康科学研究所」が発信する、情報サイトです。ミツバチの恵み、自然の恵みについて、予防医学と環境共生の視点から研究を進めています。

山田英生対談録
予防医学 ~病気にならないために~

第六回「がんにならないための食生活」

がん予防の答えは、日本人の伝統的な食卓にあります。

年齢を重ねれば、誰でも心配になってくるのが、がんでしょう。日本人の2人に1人が罹る病気であり、高齢者であれば、いつ誰が発症しても不思議ではありません。命を脅かすがんにならないためには、どうすればよいのでしょうか。がんの原因の約30%は、食生活にあることが最近の研究で分かっています。がんを防ぐにはどのようなものを、どのように食べればよいのか。老化と長寿研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(54)と山田英生・山田養蜂場代表(55)が、がんを予防する食生活などについて語り合いました。

予防が一番のがん対策

山田

日本人の平均寿命が延びるのに伴って、がんが増えてきました。毎年、約70万人に近い人ががんになり、約35万人の方が亡くなられています。今や国民の約3人に1人ががんで亡くなる時代。がんは、誰でも罹る身近な病気と言ってもよいかも知れません。そんな怖いがんですが、その種類や部位によっては早期発見、早期治療をすれば、かなりの確率で治るとも言われています。

白澤

がんも、早期発見と早期治療によって治る確率が高まり、以前のような「不治の病」というイメージはなくなってきましたね。それでも依然、死亡原因の第1位であることには変わりありません。でも、がんの原因はこれまでの調査や研究のデータから「食生活」の影響が約30%、「喫煙」が約30%であることが分かっています。つまり、がんはタバコをやめ、食事に注意すればかなりの確率で予防することができるようになるのです。早期発見はもちろん大切ですが、それ以前にがんに罹らないように予防することが何といっても一番のがん対策だと思いますね。

山田

食生活と喫煙ががんの原因の約60%以上を占めるとするならば、端的にいってこの原因を取り除いた生活を送れば、3分の2のがんは防げることにもなりますね。そういえば、がん予防の指針である国立がんセンターの「がん予防12か条」も、「バランスのとれた栄養をとる」など、12か条のうち8か条が食事や食習慣に関連したものであり、いかに食生活とがん予防が深く関わっているかが分かります。

白澤

1960年代のアメリカでも、がんは心臓病に次いで死亡原因の第2位でした。こうしたがんなどによる医療費が国の財政を圧迫したため、政府は国をあげて医療改革に乗り出したのです。当時のニクソン大統領は1971年、国家的プロジェクトとして「がん撲滅計画」をスタートさせ、巨額の研究費をがんの治療に投入したのですが、がんは減るどころか逆に増え続けたため、治療よりも予防対策にお金をかけることにしたのです。上院に「栄養問題特別委員会」(ジョージ・S・マクガバン委員長)を設置し、アメリカ国民の食生活を徹底的に調べ、問題点を洗い出しました。その結果、出てきたのが、「上院リポート」という報告書です。

山田

いわゆる「マクガバン・リポート」のことですね。

白澤

そうです。この中で「がんや心臓病などの慢性病は、肉食中心の誤った食生活が原因」として、高カロリー、高脂肪の肉、乳製品などの動物性食品を減らし、未精製の穀物や野菜、果物を積極的に摂るように勧告しました。大量の脂肪、砂糖、塩分などがアメリカ国民のがん、心臓病、脳卒中などを引き起こす”元凶“であることを突き止めたのです。

日本食こそ健康食

山田

当時のアメリカでは、分厚いステーキやハンバーガー、ポテトチップスなどの脂っこい食事にコーラ飲料といった組み合わせが一般的だったのでしょう。マクガバン・リポートはさらに、最も理想的な食事として「伝統的な日本人の食事」を挙げていると、聞いたことがあります。ここでいう「伝統的な日本人の食事」とは、精白しない殻類を主食とし、季節の野菜や海草、魚介類を食材として使った食事のことを指すようです。今でこそ、日本食は「ヘルシーでおいしい」と世界的なブームになっていますが、すでに当時から健康によい食事の一つとされ、「日本食=健康食」というイメージがしだいに世界に定着していったのでしょう。

白澤

このリポートを受けて、アメリカ国立がん研究所(NCI)は、がんと食事の関係を調べ、「デザイナーフーズ・プログラム」(右の図)を発表しました。がん予防に効果のある野菜・果物など40種類の食品群を3段階に分け、ピラミッド状に配置したものです。たとえば、一番上の段にあるのはニンニク、キャベツ、甘草、大豆、ショウガ、セリ科の野菜(ニンジン、セロリ)で、こうした食品を積極的に摂れば、がん予防が期待できるというものでした。このプログラムは、食品の持っている生理調節機能と病気の関係に着目し、疫学調査の分析などを通じて科学的に解明してありますので、この表を冷蔵庫などに貼り付け、毎日の食事づくりの参考にするのもよいと思います。

興味深い米国の実験

山田

このプログラムを進めたアメリカでは実際に成果は上がったのでしょうか。

白澤

上がりましたね。プログラム発表後、国民の野菜摂取量は飛躍的に増え、当時でも日本人の野菜摂取量を上回ったようです。これに符合するかのように、がんの罹患率や死亡率も1990年代を境に毎年、少しずつ減っていきました。特に、食事と密接な関係のある大腸がん、前立腺がん、乳がんの減少が顕著だったと言われています。

山田

アメリカの人たちは、野菜・果物の持つ高機能成分の恩恵を十分受けることができたわけですね。それに比べ、日本人のがんはどうでしょう。減るどころか逆に増えています。その原因としては、伝統的な日本食を食べる人が減り、肉類を中心とした食事を好む人が増え、食の欧米化が進んだことが背景にあるのでしょうか。

白澤

やはり食生活の影響は、大きいですね。日本人の食生活が欧米化するにつれて、がんの種類も変わって行きました。これまで多かった胃がんの死亡率が減り、肺がん、大腸がん、乳がんの死亡率が増えたのです。肺がんは、明らかに喫煙の影響が大きいのですが、大腸がんは野菜や海草類など食物繊維の摂取が減って、肉類など動物性脂肪の食事を多く摂るようになったのが原因の一つと言ってもよいでしょう。

山田

健康的な日本食を自ら放棄した結果と言えますね。がんは、ある日突然発症するのではなく、20年、30年と長い年月をかけて現れるケースが多いと聞いたことがあります。

若齢化が目立つ乳がん

白澤

確かにがんは、加齢とともに増えるのが一般的ですが、最近は必ずしもそうとは言えなくなってきました。たとえば、乳がんは最近、若齢化が目立っています。かつて乳がんといえば、40代、50代の女性に多かったのですが、最近は20代、30代で発症するケースも珍しくありません。やはり不規則な食生活に加え、ジャンクフードや加工食品、甘いものの摂り過ぎなどが影響しているのでしょう。この年代は、子育ての真っ最中でもあり、がんで闘病するとなると、社会的にも極めて大きな影響が出てきます。乳がんは明らかに食生活が関係していると思われますが、具体的に何が悪いのかは、まだ特定できていないため、「あれをやめろ」「これを食べるな」とは言えません。ただ、言えるのは、かつての日本人の伝統的な食生活に戻れば、若い女性の乳がんはある程度は減ると思いますね。

山田

確かに今の若い女性の食生活を見ていると、ちょっと心配になりますね。ダイエット願望や、手軽で美味しいスナック菓子などもあるのでしょうが、朝食を抜いたり、昼食にしてもスナック菓子か軽い野菜サラダなどで簡単に済ませている女性をよく見かけます。本人の健康はもちろんですが、将来生まれてくる子供たちの健康のことを考えると、きちんと3食をとり、偏食しないようバランスよく栄養を摂ることが大切ですね。ところで、がんを予防する食べ物には、どんなものがありますか。

白澤

長年の疫学研究では、野菜や果物にがんを防ぐ働きのあることがわかってきました。先ほど述べたデザイナーフーズでも、がん予防を期待できる野菜としてニンジン、セロリ、ブロッコリーなどを挙げていますが、特に緑黄色野菜には、植物の化学成分であるファイトケミカルが多く含まれ、がんを抑える作用があるといわれています。がんは遺伝子の本体であるDNAに傷がつくことがきっかけとなって発症しますが、その原因の一つが活性酸素です。ファイトケミカルには、この活性酸素を消してくれる抗酸化作用があるため、がん予防によいといわれています。

緑黄色野菜を摂ろう

山田

ファイトケミカルは、色素や香り、苦みなどの成分で、これまでに数千種類の成分が明らかになっていますが、この中でがんを抑える代表的なファイトケミカルといえば何でしょうか。

白澤

まず、カロテノイドが挙げられますね。これは、緑黄色野菜の赤や黄色、オレンジ色などの色素成分の総称で、強い抗酸化作用やがんの予防効果があるのが特徴とされています。カロテノイドには、「α―カロテン」「β―カロテン」「クリプトキサンチン」「リコピン」など数多くの種類がありますが、この中で、最もよく知られているのがβ―カロテンではないでしょうか。デザイナーフーズの最上位に位置するニンジンのほか、カボチャにも多く含まれている成分です。

山田

ほかには、どんな野菜がありますか。

白澤

ブロッコリーでしょうね。デザイナーフーズでも上位から2番目に入っています。ブロッコリーは、約200種類のファイトケミカルが含まれる「野菜の王様」。このブロッコリーに含まれる「スルフォラファン」(イソチオシアネート)にがんの予防効果があるのです。また、大豆に含まれるイソフラボンも乳がんや前立腺がんの予防によいことがわかってきました。トマトやスイカなどに含まれるリコピンにも、がんを予防する働きがあるといわれています。

山田

こうした野菜や果物を私たちは、1日にどのくらい摂ったらよいのでしょうか。

白澤

厚生労働省の国民健康づくり運動「健康日本21」では、1日当たりの野菜摂取量の目安として350g以上、このうち緑黄色野菜は120gを摂ることを勧めています。しかし、実際の日本人の野菜摂取量は、約281gで目標を下回っています(2010年国民健康・栄養調査)。がんを予防するためにも、1日350g以上の野菜、特に緑黄色野菜を積極的に摂るよう心掛けてほしいですね。

白澤 卓二(しらさわたくじ)

1958年神奈川に生まれる。東京都老人総合研究所研究員等を経て現職。日本抗加齢医学会理事。専門は寿命制御遺伝子の分子遺伝学など。著書に「100歳までボケない101の方法」(文春新書)など多数。