山田養蜂場運営の研究拠点「みつばち健康科学研究所」が発信する、情報サイトです。ミツバチの恵み、自然の恵みについて、予防医学と環境共生の視点から研究を進めています。

山田英生対談録
予防医学 ~病気にならないために~

第九回「万病の元 糖尿病」

糖尿病の陰に潜む大病あり。糖尿病のない人生に長寿あり。

高齢化の進展とともに、増える一方の糖尿病。病状が進めば、人工透析や視力障害などに追い込まれ、最悪の場合は、動脈硬化から心臓病や脳卒中を引き起こす恐れもないとはいえません。こうした怖い合併症を避けるためには、食事療法や運動療法、薬物療法が不可欠です。特に食事療法ではカロリー制限と並んで大事なのが、血糖値の上昇を抑える食材選び。適度な運動を続けながら過食を避け、血糖値を抑える食品を積極的に摂れば、健康長寿を妨げる糖尿病を遠ざけることも可能です。老化と寿命研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(54)と山田英生・山田養蜂場代表(55)が糖尿病の怖さや、その予防のための効果的な食材選びなどについて語り合いました。

怖いのは3大合併症

山田

高血圧と並んで近年、急速に増えているのが糖尿病ですが、厚生労働省によると、「糖尿病が強く疑われる人(糖尿病)」は890万人、その予備軍である「糖尿病の可能性を否定できない人」は1320万人で、合わせて2210万人にも上ります。年代別にみても、男性の場合、40代で2割、50代で3割、60代以上では4割が糖尿病とその予備軍とされています。
(2007年国民健康・栄養調査)。糖尿病が多くの人に恐れられているのは、なぜですか。

白澤

糖尿病は、高血圧や脂質異常症などの慢性疾患と同様、それ自体が直接、生命を脅かすことは、多くはありません。しかし、「高血糖」と指摘されたのに、適切な治療を怠れば、さまざまな合併症を引き起こす恐れが出てきます。
深刻な合併症としては、人工透析や腎移植に追い込まれる「糖尿病性腎症」、網膜剥離を起こして失明する恐れもある「糖尿病性網膜症」、末しょう神経や自律神経が障害され、痛みやしびれも感じなくなる「糖尿病性神経障害」の3大合併症が特に怖いですね。神経障害では、最悪の場合、組織が死ぬ「壊疽」になって、手足を切断せざるをえないケースも出てきます。こうした合併症に進む前に、早めに手を打つことが大事です。

山田

つらい食事制限や運動療法、あるいは薬で血糖値をコントロールするのも、こうした合併症を防ぐためですね。

白澤

そうです。先ほど、「糖尿病自体が生命を脅かすことは多くない」といいましたが、糖尿病は治療もせずに放置すれば、動脈硬化が徐々に進行していきます。動脈硬化は、動脈の弾力性が失われて硬くなり、血液の流れが悪くなる状態のことをいいますが、これが引き金となって脳梗塞や心筋梗塞、狭心症といった生命を脅かす大病を引き起こすケースも少なくありません。しかし、初期の段階では糖尿病は、ほとんど自覚症状がないため、健康診断などで「血糖値が高いので、糖尿病の検査を受けてください」と指摘されても、「たいしたことはない」と軽く考えて、そのまま放置する人が結構います。何の治療も受けなければ、やがて「のどが渇く」「体がだるい」などの自覚症状が出てきます。こうした症状が出てきた時には、すでに病状がかなり進行している状態といってもよいでしょう。

患者の4割が未治療

山田

糖尿病を強く疑われている人の約4割が「治療を受けていない」といわれています。こうした人たちの多くは、「血糖値が高いといっても、すぐに死ぬわけではない」「いざという時は薬を飲めばよい」などと軽く考えている人が多いようです。また、病院に行ったとしても、食事療法や運動療法の指示内容が細かく厳しいため、面倒臭くなって途中で治療を投げ出す人も多いと聞きました。

白澤

多いですね。自覚症状がない予備軍の段階で、きちんと生活習慣を改善していれば、糖尿病を発症するリスクは当然低くなります。それを「自分は大丈夫」と放っておけば、知らず知らずのうちに予備軍から糖尿病へと移行していくケースも少なくありません。

山田

自覚症状がない分、治療を先延ばししてしまうわけですね。この糖尿病というのは一体、どんな病気なのですか。

白澤

すい臓のβ細胞から分泌されるインスリンが不足したり、働きが悪くなって血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が慢性的に高くなる病気です。インスリンは、唯一血糖値を下げるホルモンなのですが、糖尿病には、このインスリンをつくるすい臓のβ細胞が破壊され、分泌量が足りなくなって発症する「Ⅰ型糖尿病」と、食事や運動などの生活習慣が原因となってインスリンの量が不足したり、働きが悪くなる「Ⅱ型糖尿病」があります。日本人の糖尿病のほとんどは、Ⅱ型といってもよいでしょう。親や兄弟に糖尿病の人がいたり、食べ過ぎやお酒の飲み過ぎ、運動不足、肥満など生活習慣に乱れがあると、発症しやすくなります。

山田

糖尿病も、加齢と関係あるのですか。

白澤

ありますね。インスリンをつくる能力も、年齢を重ねるごとに衰えていきます。特に65歳以上になると、その傾向は顕著になります。そのため、年をとっても若いころと同じように暴飲暴食を繰り返していれば、少ないインスリンでは対応しきれなくなり、糖尿病を発症しやすくなるのです。糖尿病にかかる人がいなくなれば、今の日本人の平均寿命は、さらに7~8歳は延びるともいわれています。

百寿者に少ない糖尿病

山田

医学の進歩や治療法の向上で、糖尿病やがん、心臓病などが克服されれば日本人の寿命はどんどん延び、「50年後には90歳を超える」と言う人もいます。長生きすること自体は素晴らしいことですが、それが健康長寿であれば、いうことはありませんね。糖尿病の人が合併症を併発すれば、ふつうの人よりも寿命が比較的短いともいわれています。長生きするためにも、血糖値のコントロールを厳格にして、合併症を引き起こさないことが重要ですね。100歳以上の人には、糖尿病の人が少ないと聞きましたが、本当ですか。

白澤

本当です。私も多くの100歳以上の方にお会いして長寿の秘訣などについて伺ってきましたが、糖尿病の人はほとんどおられませんでした。おっしゃる通り、糖尿病を発症すると、100歳まで長生きできる確率は低いと言わざるをえません。長寿の人に共通する理由の一つとして、「血液中のインスリン濃度が低いこと」が挙げられます。これは、インスリンの量が少なく、その少ないインスリンを効率よく使って生きていることを意味します。ですから、長生きするにはインスリンの働きがよくなるようにすること、少ないインスリンで済むような食生活を送ることが重要といえます。

山田

なるほど。では、高齢になっても糖尿病にならないためには、どんなものを食べたらよいのでしょうか。

朝食にネバネバ食品を

白澤

先ほど、「長生きするには血液中のインスリン濃度が低いことが条件である」と言いましたが、インスリン濃度を低く保つには、血液中の糖分をできるだけ少なくすることが重要です。食事をすれば血液の中に糖分が入ってくることは防げませんが、問題は急激に糖分が増えることです。少しずつ増えていけば、インスリンも少なくて済みますが、一気に増えると血糖値の急激な上昇を招きます。それを避けるためには、納豆やオクラ、ヤマイモ、モロヘイヤなどの”ネバネバ食品“をできるだけ朝食に摂ることですね。これらの食品には、糖の吸収を抑える「ムチン」という粘性成分が含まれ、これが血糖値の急激な上昇を抑えたり、インスリンの働きをよくしてくれます。

山田

確かに、ネバネバする食べ物は、健康によいと昔からいわれてきました。

白澤

それとコンブやワカメ、モズクなどの”ヌルヌル食品“も朝食のメニューに加えると、よいでしょう。海藻類のぬめり成分は、食物繊維のアルギン酸で、血糖値の急激な上昇を抑えるだけでなく、血中コレステロール値を下げる働きもあります。

山田

以前、「魚をよく食べる男性は、糖尿病になるリスクが低い」との記事が新聞に載っていました。その理由として、魚の脂などに含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)のほか、ビタミンDなどがインスリンの分泌に好影響を与えている可能性がある、と報じていましたが、私はこの記事をとても興味深く読みました。糖尿病は食事療法と運動療法が治療の2本柱で、食事療法ではどちらかというと、カロリー制限にばかり目が行きがちですが、糖尿病にならない食材選びも、とても大切なのですね。

参考にしたいGI値

白澤

その通りです。それに加え、血糖値の上がらない食品を選ぶことも大切です。「GI値」という言葉をお聞きになったことがあると思いますが、かつて、血糖値の上昇を緩やかにするダイエット法としてブームになった「低インスリンダイエット」の根拠になったのが、実はこのGI値なのです。ふつう、ダイエット法というと、誰もが「怪しい」と思いがちですが、GI値は、病院での糖尿病の食事療法にも使われているくらいエビデンス(科学的根拠)があり、糖尿病によいと証明されている指標なのですね。

山田

そうですね。たとえば蜂蜜の中でも、アカシア蜂蜜やレンゲ蜂蜜はGI値が低いことから注目されているのですが、そのGI値と血糖値とはどんな関係があるのですか。

白澤

GI値とは、「グリセミック・インデックス」の略で、血糖値の上昇率を表す指標のこと。つまり、食べたものが体内で糖に変わり、血糖値を上昇させるスピードを数値化したものといってよいでしょう。ブドウ糖を摂った時の血糖値の上昇率を100とした場合、それぞれの食べ物がどの程度の上昇率かを示したもので、たとえば、「玄米55」、「ジャガイモ90」といったように表します。

山田

食事をした時の血糖値を抑えるためにも、とても参考になる数値ですね。GI値の高い食べ物、低い食べ物には、どんなものがありますか。

白澤

たとえば、主食なら精白米、モチ、食パン、うどんなどはGI値が高く、逆に玄米、ライ麦パン、スパゲティ、ソバなどが低いといわれています。野菜は、ほとんどが低いのですが、それでもニンジン、イモ、カボチャなどは高めですね。果物もイチゴやミカン、リンゴなどは低いのですが、パイナップルやスイカなどは高めです。全般的にGI値が低いものといえば、肉や魚介類、卵、乳製品などですね。

山田

そうしますと、主食では白米より玄米、精白パンよりライ麦パンか全粒粉のパン、うどんよりソバ、スパゲティのほうが血糖値が上がりにくいというわけですね。

白澤

調理法や食材の組み合わせにもよりますが、食後の急激な血糖値の上昇を抑えるためにはよいでしょう。糖尿病の人や血糖値が気になる人は、適度な運動をしつつ、このGI値を上手に利用して血糖値の上昇を緩やかにすることが大切です。

白澤 卓二(しらさわたくじ)

1958年神奈川に生まれる。東京都老人総合研究所研究員等を経て現職。日本抗加齢医学会理事。専門は寿命制御遺伝子の分子遺伝学など。著書に「100歳までボケない101の方法」(文春新書)など多数。