山田養蜂場運営の研究拠点「みつばち健康科学研究所」が発信する、情報サイトです。ミツバチの恵み、自然の恵みについて、予防医学と環境共生の視点から研究を進めています。

山田英生対談録
予防医学 ~病気にならないために~

第二回「医師が糖尿病になった 糖尿病体験記-2」

規則正しい食事に戻す

山田

糖尿病は、ライフスタイル病とも言われるように日頃の生活習慣、特に食生活が大きく影響しています。多忙な人、特に医師は、時間に追われ食事も不規則で、ゆっくり食べている暇がないとも、よく聞きます。先生の場合も、こうした食生活と関係があったのでしょうか。

渡邊

私が糖尿病になったのは、30代、40代の頃からの過食と運動不足など生活習慣の乱れが重なったことが大きいでしょう。特に食事は、朝、昼、晩とも仕事の合間を縫って5分くらいでかきこむ有り様で、回数も夜食を含め1日に4食、5食を摂ることも珍しくありませんでした。しかも、グルメ嗜好とあって銀座などでよく食事をして、仕事上の付き合いから、お酒もよく飲みました。
こうした生活を長い間、続けていれば、肥満になるのは当然で、ピーク時には体重が77kgもありました。

山田

そんなに太っておられたとは、今のご様子からはとても想像できません。「糖尿病」との診断を受けられて、食生活をどう改善しようと思われたのですか。

渡邊

まず、実行したのが、規則正しい食習慣に戻すことでした。1日の食事回数を朝、昼、晩の3食とし、食事時間も朝食は午前6時、昼食は正午、夕食は午後6時と決めました。それに、習慣となっていた午前10時と午後3時のお茶とおやつも、やめました。朝と夜は自宅で食べ、昼はきちんとカロリー計算をして作った弁当を職場に持参しました。夜も、遅くまで起きているとお腹が空くので午後9時には寝るようにしました。

制限カロリーを守る

山田

思い切った食生活の改善ですね。よく朝食を食べない人を見かけますが、中でも20代の女性は、ダイエットを意識してか朝食を抜いたり、乳製品や菓子類だけで簡単に済ませる人が多いようです。でも、朝食を食べずに昼にまとめて食べるほうが、かえって肥満になりやすい、と聞いたことがあります。やはり、朝食はしっかり食べ、3食きちんと摂るほうが健康的な気がしますね。先生も3食、規則正しく摂られたわけですが、摂取カロリーは、どうされましたか。

渡邊

何しろ、糖尿病になったのは、食べ過ぎ、つまりカロリーの摂り過ぎが原因でしたから、制限カロリーは、何としても守らなければならないと思いました。医師と相談し、1日の摂取カロリーを1600kcalと決めました。さっそく、デジタル秤を買い、食べるものはすべて計って、ノートに記録してから食べるようにしました。

山田

1600kcalといいますと、どんな食事になりますか。

渡邊

私の場合、朝はご飯を軽く一杯と味噌汁、納豆にキンピラゴボウ、昼は玄米、漬物、焼き魚、野菜の煮物などの弁当、夜はご飯一杯と味噌汁にショウガ焼きか刺身、それに豆腐、野菜の煮物といったところでしょうか。
食材も、なるべくカロリーの少ないものを選び、野菜などを中心にできるだけボリューム感を出すように心がけました。 制限カロリーを守るうえで大切なのは、油脂類を避けること。私も、糖尿病になるまではビフテキや天ぷら、トンカツなど脂っこいものが大好きだったのですが、糖尿病になってからは、ほとんど口にしなくなりました。

バランスよく食べる

山田

しかし、カロリー計算ばかりに気をとられると、食事も味気ないものになり、食べる楽しみがなくなってしまいませんか。これからは、味覚や調理を工夫し、できるだけおいしいものに変えていくべきでしょうね。低カロリーで、おいしければ、糖尿病の患者さんも食事療法に、より積極的に取り組むようになるかもしれません。ところで先生は、今までよりも相当カロリーを落とされたのですから、空腹感には悩まされたでしょう。

渡邊

最初の頃は、かなり辛かったですね。でも、食べる時間を、最低でも15分以上かけるなど、ゆっくり食べるようにしてからは、満腹感も出て、慣れました。

山田

私も在社時は、玄米ごはんや塩分控え目の、栄養バランスに配慮した昼食を社員食堂で食べております。しかし、困るのは出張に出て、外食せざるを得ない時です。特にレストランなどの食事は、カロリーも高く、味付けも濃いですから。先生は、外食の時は、どうされているのですか。

渡邊

仕事柄、食事つきの会議や打ち合わせがよくあります。私自身、終戦直後の食糧難の時に育ったものですから、残すのはもったいなくて、これまでは出されたものは全部食べていました。さすがに糖尿病になってからは、もったいないと思いながら半分は残すようにしました。

適正たんぱく食が一番

山田

実は、76歳になる私の母も、糖尿病で、薬を使って治療をしているのですが、「血糖値が上がるから」と言って、大好きなご飯や好物の甘いものは、我慢しているようなのです…。

渡邊

わぁ、それは可哀想ですね。ご飯を食べないよりは、適量をバランスよく召し上がったほうが、いいと思いますよ。血圧とか腎臓の機能はいかがですか。

山田

血圧は特に高くもないし、腎臓も問題はないと思います。

渡邊

それでしたら、適正な量のエネルギーとたんぱく質を摂るのが大事ですね。ご飯などの主食は、摂らないとエネルギー不足に陥ります。たんぱく質は、アンモニアや尿素に分解されて排泄されるため、過剰なたんぱく質の摂取は、腎臓に負担をかけます。だから、糖尿病や腎臓病の患者さんも、必要なエネルギーはきちんと摂り、腎臓への負担を軽くするためにも、適正なたんぱく食が一番効果的なのです。

山田

お医者さんによっては、「炭水化物を摂るのは、糖尿病によくない」と、言う方もいらっしゃいますので、今の先生のお話を伺って安心しました。では、1日に必要なエネルギーの摂取量は、どのようにして計算するのですか。

渡邊

その人の労働や、運動などの身体活動量も含め、健康だった時の体重×0.4単位で算出します。「単位」というのは、食品交換表を使う時の決まりごとの一つで、「80kcal」を1単位として数えます。例えば、体重50kgの女性であれば、50kg×0.4単位=20単位になりますね。1単位は80kcal ですから、20単位×80kcal=1600kcalが、その人の1日に必要なエネルギーとなります。

山田

エネルギーの必要な摂取量を出すのは、難しいと思っていましたが、意外と簡単ですね。何か分かりやすい本はありますか。

渡邊

日本糖尿病学会編の「糖尿病食事療法のための食品交換表」(文光堂)がお勧めですね。それと、私が監修した「腎臓機能を保つおいしい低たんぱく食レシピ」(主婦の友社)も分かりやすいですよ。それで、1日の必要な単位数が決まったら、これを、朝、昼、夕食に振り分ければいいのです。例えば20単位を3 食とも等しく配分すれば、朝、昼、夕食とも6単位ずつになり、残り2単位は、おやつに回せます。3食にちょっと差をつけ、朝5単位、昼6単位、夕食7単位とすれば、1日に2単位くらいは、甘いお菓子を食べることだってできます。

山田

先ほど「糖尿病の方には適正なたんぱく食が一番効果がある」とおっしゃいましたが、適正なたんぱく食に切り換えるとすれば、どのくらいのたんぱく質を摂ったらよろしいのですか。

食の大切さを実感

渡邊
まごたち食

[まごたち食]
ま=豆、ご=ごま、た=卵、ち=乳類(ちち)、わ=わかめなどの海草類、や=野菜、さ=魚、し=しいたけなどのきのこ類、い=いも

ふつう、適正なたんぱく量は体重1kg当たり×0.8gで計算します。例えば、体重50kgの女性なら、50kg×0.8gで40g。さらに、低たんぱく食にすれば、0.5g以下がより効果が出るのです。そうしますと、体重50kgの人でしたら、必要なたんぱく質は50kg×0.5gで25gとなります。
おかずは、「まごたちわやさしい」を意識して食べて下さい。「まごたちわやさしい」とは、「豆、ごま、卵、乳類(ちち)、わかめなどの海草類、野菜、魚、しいたけなどのきのこ類、いも」の9種類の食品の頭文字を並べたもので、私はこれを「まごたち食」と呼んでいますが、こうした食品をうまく摂れば必要なビタミンや食物繊維もすべて確保できるでしょう。適正なエネルギーと低たんぱく食、それに「まごたち食」を上手に組み合わせて摂れば、糖尿病の患者さんでも、天寿が全うできる長寿食になると私は、思っています。

山田

カロリーの低い野菜や、肉も脂身の少ない鶏肉、魚もカレイやヒラメなど低カロリーな、白身魚などを中心に工夫して食べれば、カロリーの制限内でも、健康によく、そこそこ満足感が得られる食事ができるんですね。要は、栄養バランスのとれた低カロリー食を心がけることでしょうか。

渡邊

その通りです。私も糖尿病と宣告されて以来、規則正しい食事や徹底したカロリー制限に加え、食後の散歩や自転車こぎなどの運動を行った結果、9カ月後には数値も正常値に戻り、しかも肥満の解消とともに高血圧症や高脂血症、脂肪肝なども消えました。すっかり元気になった今、健康の有難さと食の大切さを痛感しています。

渡邊 昌(わたなべ しょう)

1941年平城生まれ。医学博士。慶応大学医学部卒。国立がんセンター研究所疫学部長、東京農大教授、国立健康・栄養研究所理事長などを経て、現在生命科学振興会理事長。日本総合医学会会長。「食事でがんは防げる」など著書多数。