山田養蜂場運営の研究拠点「みつばち健康科学研究所」が発信する、情報サイトです。ミツバチの恵み、自然の恵みについて、予防医学と環境共生の視点から研究を進めています。

山田英生対談録
予防医学 ~病気にならないために~

第四回「医師が糖尿病になった 糖尿病体験記-4」

放置すれば合併症も

山田

近年、生活習慣の変化などに伴い糖尿病が急増しています。厚生労働省の調査でも、予備軍を含め国民の約6人に1人が糖尿病と言われています。糖尿病の急増は国民医療費を押し上げる要因の一つとなっており、その予防は高齢社会で解決すべき緊急の課題と言ってもよいでしょう。日本人は欧米人ほど太っていないのに、これだけ糖尿病が増えているのは、食の欧米化や運動不足、高齢化など様々な要因が複雑に絡み合っているからだと思います。にもかかわらず、多くの人は、糖尿病は、「遺伝的な病気」、「薬を飲めば治る」ぐらいにしか考えていないように思えてなりません。治療もせず放っておけば、怖い合併症にもつながるだけに、糖尿病についての正しい知識や理解が欠かせないのではないでしょうか。

渡邊

その通りです。私たちの体は、ご飯やパンなどの糖質が分解して作られるブドウ糖がエネルギー源となっています。誰でも食後は血糖値が上がるのですが、すい臓から分泌され、血糖値を下げる唯一のホルモンであるインスリンが不足したり、働きが悪くなったりすると、筋肉や脂肪の細胞にブドウ糖が取り込まれなくなり、血糖値が上がってしまった状態になるのが糖尿病なのです。

山田

では、血糖値がどのくらいに上がったら、糖尿病と診断されるのですか。

渡邊

いくつかの診断基準があります。朝、何も食べていない時の血糖値を測る「空腹時血糖値」の検査が一般的でしょう。これは、血液100ミリリットル当たり、「110ミリグラム以下」が正常値で、「126ミリグラム以上」が「糖尿病型」、その間の「110ミリグラムから126ミリグラム未満」が予備軍に当たる「境界型糖尿病」です。私が糖尿病と診断された時は、空腹時血糖値が260ミリグラムもありました。このほかに、75グラムのブドウ糖を飲んで2時間後の血糖値を測る「ブドウ糖負荷試験」があり、「140ミリグラム未満」が正常値で、「200ミリグラム以上」が糖尿病、「140~199ミリグラム」は「境界型」とされています。1回目の検査後、別の日に2回目の検査を行い、いずれも基準値を上回った場合、糖尿病と診断されます。

山田

境界型は、糖尿病につながる「黄」信号で、「赤」信号になる前にストップさせなければなりません。そのために、食事に気をつけたり、肥満解消や運動に努めるなど生活習慣の見直しが必要となるわけですね。糖尿病も、早期発見、早期治療が基本になるのでしょうか。

糖尿病腎症で透析も

渡邊

そうなりますね。それと、最近、よく使われるのが、1~2カ月間の平均した血糖値を測る指標となる「ヘモグロビンA1C」の検査です。正常値は「5.8%未満」なのですが、昨年7月の改定で診断基準に「6.1%以上(JDS値)」が追加されました。
ヘモグロビンA1Cとは、赤血球の中のヘモグロビンにブドウ糖が結合したもので、血糖値が高ければ高いほど、A1C値が高くなり、合併症のリスクも出てきます。A1C値が6%台なら、ほとんど心配ありませんが、9%以上になると、一気に合併症のリスクが高まります。ちなみに、私の場合は、糖尿病と診断された時は、12.8%もあり、今なら即入院でしょう。でも、この値を薬物療法で下げすぎると、逆に低血糖発作のリスクが高まる恐れがあるため、最近では「少し高めにキープしたほうがよい」との考え方も出てきました。7%台が「一番長生き」との研究報告もあるくらいです。

山田

血糖値が高い状態を、放っておくと、やがて、現われるのが合併症ですね。

渡邊

糖尿病の合併症は、血管に現れるケースが多く、細い血管では糖尿病性網膜症や腎症、神経障害が代表的なものでしょう。網膜症では、近年、レーザー治療の進歩もあって、失明する人も減ってきましたが、それでも糖尿病で、視覚障害に陥る人は年間約3000人にも及ぶ、と言われています。
また、糖尿病による腎症で人工透析に追い込まれる人も、年間で約1万5000人以上に達し、新たに人工透析になる原因の第1位がこの糖尿病腎症なのです。さらに、末梢の血液の循環が悪くなって足などの細胞が死んで腐る「壊疽」になると、最悪の場合は足や指を切断しなければならなくなります。

山田

そうなると、QOL(生活の質)が著しく損なわれますね。

渡邊

かなりの支障が出てきますね。一方、太い血管に現れる合併症は、動脈が弾力性を失い、硬くなる動脈硬化が代表的なものでしょう。この動脈硬化が引き金となって心筋梗塞や脳卒中など死に直結するケースも珍しくありません。
また、合併症のリスクには血圧も関係しており、血糖値のコントロールと並んで、収縮期の血圧(最高血圧)を常に130ミリ以下に保つ必要があります。また、運動も血糖と血圧を同時に下げる効果があります。高血糖が続きますと、免疫力が落ちて、感染症にもかかりやすくなります。高齢者の死因に肺炎が多いのもそのためです。私も糖尿病と診断された頃は、頑固な水虫に随分、悩まされました。

山田

つらい食事制限や運動療法、あるいは薬物で血糖値をコントロールするのも、こうした怖い合併症を防ぐためですよね。ところが、2007年の国民健康・栄養調査では、糖尿病が強く疑われる人の約4割が、「治療を受けていない」と聞きました。

渡邊

そこが問題なのです。困ったことに糖尿病は、血糖値が高くても、初めはほとんど自覚症状がないために、何の治療も受けずに放置している人が非常に多いのです。こうした人の中には、「病院に行けば、一日がつぶれちゃう」「血糖値が高いといってもすぐに、どうこうなるわけでもなく、いざ、という時は薬を飲めばよい」と軽く考えている人が少なくありません。また、病院に行ったとしても、医療スタッフの指示に従って厳密な食事療法や運動療法をするのが面倒なため、途中で治療を投げ出す人も結構いるようです。こうした人たちが、時間の経過とともに体の変調や不調を訴え、次に病院を訪れた時は、インスリン注射が必要なほど症状が進行していたり、医師から突然「来月から人工透析をやりましょう」などと言われるくらいに症状が悪化しているケースも、珍しくありません。

求められる健康教育

山田

確かに、糖尿病との付き合いは、一生涯続くかも知れません。過酷な食事制限や運動療法に加え、飲み薬やインスリン注射などの薬物療法も、毎日となると、たいへんですね。

渡邊

糖尿病の食品交換表もありますし、私たちは体重×0.4単位(1単位=80kal)の食事摂取が誰にでも当てはまる簡単な一日の食事の目安になることを発見しました。総エネルギー摂取を体に適した量にするのが一番大事です。
よくないのは、高血糖の診断結果が出ているのに生活習慣を変えず、今まで通り食べたいものを腹いっぱい食べ、運動もしないで不規則な生活を続け、薬だけ飲んで血糖を下げ、安心しているケースです。こうした生活を続けていれば、いつ合併症が起きても不思議ではありません。また、生活習慣を変えて正常値に戻ったとしても、そこで治ったと思い、油断して以前の食生活や生活習慣に戻すのも危険です。そういう私も、糖尿病の診断を受けて17年が経ち、健康もすっかり回復しましたが、それでもちょっと油断して食べ過ぎると、すぐ血糖値が上がってしまいます。「一病息災のイエローカード」をもらったと考え、これからも食養生や運動をしながら糖尿病と上手に付き合っていこうと思っています。

山田

しかし、私たちが医師から薬物による治療を勧められた場合は、よほどの知識がなければそれに従わざるを得ないのが現実でしょう。しかも、これだけ糖尿病の人が増えているのに全国の約27万人(2008年現在)の医師のうち、糖尿病の専門医は約4千人(2010年現在)しかいないと聞きました。患者さんの多くは、地域のかかりつけ医にお世話になっている方が多いと思います。患者さんが正しい治療を受けるために、かかりつけ医と専門医の連携や生活習慣の改善をはじめとする患者指導の充実をぜひ医療機関や行政にお願いしたいものです。生活習慣の見直しなど健康教育への取り組みも大事ですね。

生活習慣を見直す好機

渡邊

その通りです。日本の医者は、糖尿病でも、高血圧にしても、検査値が高く出た場合は、薬を使ってでも、正常値以下に下げようとする傾向があります。私は自分の経験から、糖尿病と診断されても半年から一年は医師の指導を受けて、食事管理と運動によって体重を落とせば、十分血糖をコントロールできると思っています。
そのためにも、初期の段階から病状が進まないように努めることが重要です。仮に「糖尿病」と診断されても「なぜ自分が」と恨むよりも、それは天が与えた警告と考え、今までの生活習慣を見直す絶好のチャンスと思って前向きに生きる姿勢が大事ではないでしょうか。

山田

たとえ糖尿病と診断されても落ち込まず、希望を持って生きることが大切なわけですね。糖尿病の治療では、医師や看護師、栄養士さんなどが、治療方針を打ち出したり、生活指導などをしてくれますが、食事や運動など生活習慣を改善するのは、あくまで患者さん本人ですよね。本人が治そうという気にならなければ、この病は、手の打ちようがありません。その意味では、糖尿病は、医師任せにせず、患者さん自らが主治医となって治す病気だと思います。

渡邊 昌(わたなべ しょう)

1941年平城生まれ。医学博士。慶応大学医学部卒。国立がんセンター研究所疫学部長、東京農大教授、国立健康・栄養研究所理事長などを経て、現在生命科学振興会理事長。日本総合医学会会長。「食事でがんは防げる」など著書多数。