山田養蜂場運営の研究拠点「みつばち健康科学研究所」が発信する、情報サイトです。ミツバチの恵み、自然の恵みについて、予防医学と環境共生の視点から研究を進めています。

山田英生対談録
予防医学 ~病気にならないために~

第五回「医師が糖尿病になった 糖尿病体験記-5」

子どもから増える肥満

山田

最近、日本でも太った人をよく見かけるようになりました。食生活の洋風化や車に頼った生活などに加え、職場ではパソコンなどの普及でデスクワークが増え、体を動かす機会が減っています。こうしたライフスタイルの変化が大きく影響しているのでしょう。2007年の国民健康・栄養調査によると、40~74歳のメタボリック症候群の該当者は、約1070万人、予備軍を含めると約2010万人にも達するそうです。実に、男性の2人に1人、女性の5人に1人がメタボという計算になりますね。しかも、大人の病気と思われていたのが、最近では子供の世界にまで押し寄せ、厚生労働省研究班が6歳から15歳を対象とした「小児メタボリック症候群」の診断基準を発表したという記事を新聞で以前、読んだことがあります。大変な時代になりました。

渡邊

この前の休日に40歳代の私の息子が、会社の仲間3人を呼んで自宅でバーべキューをしていました。みんな、体重が80kg以上もありそうな肥満体で、典型的なメタボ体型でした。高血圧や痛風を抱えながら、焼肉を食べた後は平然とケーキまで平らげていました。自覚が足りないというか、肥満解消のために体を動かしているとは思えません。そういう私も、あまり偉そうなことは言えませんね。何しろ糖尿病と診断された時は、高血糖に加え、肥満症、高血圧症、脂質異常症を併せ持った典型的なメタボだったのですから。日頃の不摂生のツケが回ってきたのですね。

元凶は、内臓脂肪

山田

よくリンゴ型肥満、高血圧、高血糖、脂質異常症を併せて「死の四重奏」と言い、恐れられていましたが、これらの疾患は互いに合併しやすく、動脈硬化の発症リスクを高めるとも聞いています。では、メタボリック症候群とは、どのような状態を言うのですか。

渡邊

ひとことで言えば、海面に浮いている氷山のようなものといってよいでしょう。水面上に「高血糖」、「高血圧」、「脂質異常」といった氷山の頂が突き出ていて、これまでは、それぞれが独立した別個の病気で、医師もそれぞれの症状に応じて薬を処方していました。ところが、最近になって水面下に「内臓脂肪」という大きな氷の塊があることがわかってきました。この内臓脂肪型肥満こそが高血糖、高血圧、脂質異常の共通の原因であり、諸悪の根源だったのです。この水面下の塊を、食事管理や運動で小さくすれば、水面上に突き出た頂も、やがて消えていきます。メタボリック症候群は、内臓脂肪型肥満の指標ともいえる「腹囲男性85㎝、女性90㎝以上」に加え、高血圧や高血糖、脂質異常のうち、2つ以上を併せ持つ状態を言います。

山田

わかりやすく言えば、血圧や血糖値、血中脂質が高めで、お腹が出ているような人のことを言うんでしょうね。

動脈硬化を招く恐れ

渡邊

えぇ、脂質異常には善玉のHDLコレステロールが低いのも入っています。でも、「太っていないから」といって安心はできませんよ、〝隠れ肥満〟というものもありますから。メタボリック症候群が怖いのは、高血圧や糖尿病、高脂血症などを併発しやすく、重複して発症すると、動脈硬化を進行させ、最悪の場合は心臓病や脳卒中につながり、死に至るリスクが約30倍以上にもなることです。

山田

肥満にならないように日頃から注意する必要がありますね。でも、やせたいと思ってもやせるのは、そう簡単ではありません。すぐリバウンドして元に戻ってしまいます。何かやせるための秘策は、あるのでしょうか。

渡邊

やせること自体は、それほど難しいことではありませんよ。脂肪1kgは、大体7000kcalに該当します。それを30日で割ると、1日当たり240kcalぐらいになるでしょう。この240kcal分を毎日、減らしていけば、体重は、1カ月で約1kg減り、1年間続けていけば、約12kgを落とすことができるのです。

山田

確かに計算上は、そうですが…。

渡邊

問題は、どうやってこの240kcalを減らしていくかです。それには、食事の量を減らすか、運動量を増やすかでしょう。240kcalというのは、実はたいした量ではありません。ご飯1杯のカロリーが、ちょうど120kcalに当たり、また1万歩を歩けば、大体120kcalを消費したことになります。つまり、ご飯を1杯減らして、1万歩を歩けば、ちょうど240kcalを減らすことができるのです。もし2万歩歩くのなら、特にご飯を減らす必要はないでしょう。ただ、食事、運動のどちらか一方だけで減らすのは、難しいかも知れません。私の考えでは食事7、運動3ぐらいの割合がちょうどよいのではないかと思います。私も、糖尿病と診断されてからは食事管理に加え、食後の散歩やエルゴメーター(自転車のペダル踏み)などの運動で1年間で13kgの体重を落とすことができました。

目標は低めに設定

山田

要は、摂取カロリーを減らし、消費カロリーを増やせば、やせられるわけですね。ダイエットをする人の中には、いきなり1カ月に5kg、6kg痩せたい、と高い目標を立てる人もいますが、目標が高すぎるとかえって挫折しやすいのではないでしょうか。

渡邊

確実に達成できる目標を立て、減量効果を体感しながら少しづつ減量していくのが長続きするコツだと思いますね。

山田

かつて肥満のことを、「ぜいたく病」とか「金持ち病」などと呼んでいましたが、最近では、裕福な人以外にも肥満が多く見られるようになりました。特にアメリカでは例えば、ジャンクフードのように価格の安い、高カロリー、高脂肪の加工食品が出回っているのに加え、健康についての知識や情報が不足していることも影響しているのかもしれません。
この前、OECD(経済協力開発機構)が、「学校で規則正しい食生活を教えたり、医師が個人カウンセリングするなど総合的な肥満対策を講じれば、日本では慢性疾患による死者を年間15万人減らせる」と予測した記事が新聞に載っていました。やはり、子供の頃からの健康教育がとても大切な気がしますね。

渡邊

私たちが「食育・食養生」で目指しているのも正にそこなんです。

山田

病気の中には、発病してから対処しても間に合わない病気もたくさんあります。私たちが、糖尿病になったり、がんになったりする場合、ある日突然、発症するわけではありません。そこに至るまでの食生活や喫煙など生活習慣の乱れなどが積み重なって、病気となって現われてくると思います。例えば肩凝りやイライラ、眠れないなどの不快な症状は、病気の前の段階である未病のサインかもしれません。そのサインを見逃さず、働く時間を適正に減らしたり、食事に注意するなど、生活習慣を見直し、早めに対応すれば、未病の段階で病気の芽を摘み取ることも可能ではないでしょうか。

渡邊

その通りです。約2000年前の後漢時代に著された中国最古の医学書といわれる「黄帝内経」にも、「名医は未病を治す」という言葉が出てきます。すでに当時から、発病した病気を治すよりも、未病の段階で治す医師こそが名医とされたのでしょう。もし健康診断で「血圧や血糖値がちょっと高めですよ」と指摘されたら、放置せず、未病の段階でしっかり対策をとれば、大事に至る前に元の健康体を取り戻すことができると思います。

自ら健康を守る意識を

山田

厚生労働省がメタボリック症候群などの生活習慣病の予防対策として「1に運動、2に食事、しっかり禁煙、最後にクスリ」というスローガンを掲げたのはタイムリーでしたね。やはり、薬よりも食事や運動のほうが大切なのですね。

渡邊

私も、あのスローガンを一緒に考えたメンバーの1人なのですが、あの通り、実行すれば、生活習慣病対策としてはもちろんのこと、健康長寿の達成も十分可能だと思いますね。
今、予防医学の大切さがいろんなところで、叫ばれていますが、私は最近、予防医学よりも「健康長寿学」というものが、あったほうがよいのではないか、と思うようになりました。予防医学は必ず最後に病気があって、それを避けるために前に遡って病気を予防するという概念でしょう。それよりも、健康長寿のまま一生を過ごせれば、医者の世話にならずに健康に人生を送ることができるはずです。この健康長寿をどうすれば多くの人が達成できるか、最近の私はそんなことばかりを考えています。

山田

日本人の病気を予防するという意識は、まだ低いと言わざるをえません。国民健康保険加入者のメタボ健診の受診率の低さからいっても、そんな気がします。病気になっても健康保険が守ってくれると、思っているのでしょうか。

渡邊

今は、健康保険があるから高額な人工透析も受けられますが、国民医療費がこのまま膨張すれば、国民皆保険制度そのものが破綻し、お金持ちしか医療を受けられない時代が来ても不思議ではありません。私は喫煙など生活習慣から起きる病気は自己責任で5割負担にしたらどうか、と言っているのですが、国民全体で保険制度を守ろうという意識が必要な時代になってきました。そのためにも、健康診断を定期的に受け、病気にならないよう自分の健康は、自分でしっかり守る意識が必要だと思うのです。

 

東日本大震災被災者の皆様に、心から御見舞い申し上げます。一日も早い復 興をお祈り致しております。

渡邊 昌(わたなべ しょう)

1941年平城生まれ。医学博士。慶応大学医学部卒。国立がんセンター研究所疫学部長、東京農大教授、国立健康・栄養研究所理事長などを経て、現在生命科学振興会理事長。日本総合医学会会長。「食事でがんは防げる」など著書多数。