山田養蜂場運営の研究拠点「みつばち健康科学研究所」が発信する、情報サイトです。ミツバチの恵み、自然の恵みについて、予防医学と環境共生の視点から研究を進めています。

山田英生対談録
予防医学 ~病気にならないために~

第八回「専門分野の壁を越えて、がん治療は、新しい時代を迎えています。」

がんも、普通の病気

山田

かつては、がんと言えば「死」を連想させるイメージで、非常に恐れられていました。ここ数年の治療技術の向上で、がんに対する受け止め方も、だいぶ変わってきたようです。実際、がん患者の半数の人が治ると言われており、言い方を変えれば、がんを抱えながら生きている人がかなり増えてきたとも言えます。がんは、もはや「特別な病気」ではなくなった、と言ってもよいのではないでしょうか。

渡邊

確かに、治療成績も上がり、早期がんであれば、9割以上が治ります。実際、がんによる死亡率も緩やかではありますが、下がる傾向にあるのも事実です。その意味では、がんも不治の病ではなくなったと言えるでしょう。でも、「治る」と言っても、医者からみれば、「命は、助かりましたよ」という意味であり、100%元の健康な体に戻った、ということではありません。例えば手術をすれば、メスで患部やその周りの組織を切り取ります。厳しい言い方になりますが、患者さんは退院しても、それまでに比べQOL(生活の質)は著しく損なわれると言わざるを得ません。

山田

体が思い通りにならないもどかしさは、がんになった人でないと、なかなかわからないでしょう。これからは、がんと共存しながら、いかにQOLを高めていくかが求められる時代ですね。誰だってがんにはなりたくありませんし、もし不幸にして「がん」と告知されたら気が動転して、冷静ではいられないと思います。

治療方針は医師と相談

渡邊

ショックで精神的パニックに陥り、「どうして自分はがんになったのか」と考えたり、どんな治療法を受けたらよいか途方に暮れるのが、普通です。でも今は、医師から十分な説明を聞いて同意する「インフォームド・コンセント」を受けるのが、当たり前の時代となってきました。自分の命ですから医師の説明する症状や治療法に納得したうえで、治療を受けることがとても重要です。

山田

告知を受けたら、どんな点を中心に医師に聞けばよいのですか。

渡邊

まず、がんが「体のどこにできたのか」を尋ね、「その大きさと広がり、がんの性質、転移の有無」などの説明を受け、また「どんな治療法があり、治る可能性や治療期間」などについても納得のいくまで聞くことです。手術を受ける場合は、「手術の種類と成功率」のほか、「手術によって何かが失われる可能性があるかどうか」「手術後、後遺症が残るか」などを尋ねてみる必要もあるでしょう。化学療法を受ける場合は、「どんな種類の抗がん剤なのか」「期待できる効果と投与期間、副作用の有無」なども聞いてみる必要があります。さらに、インターネットで国立がんセンターのがん情報サービスやがん専門病院の相談外来などで情報を集めるのも、よいかもしれません。

山田

がんについて、じっくり情報を集め、病状を十分理解したうえで医師と相談し、自分なりに正しい戦略を立てて治療を進める必要がありそうですね。

渡邊

孫子の兵法に「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」という言葉があるでしょう。敵のことを知り、味方のことも十分知って戦にのぞめば、百回戦っても負けることはない、という意味ですが、がんについても同じことがいえるのではないでしょうか。

ロボットによる手術

山田

今は、自分の価値観にしたがって最善の治療法を選ぶのが可能な時代と言ってもよいかもしれません。でも、主治医の説明や治療法に納得がいかなかったり、最先端の治療法について別の医師の意見も聞いてみたい場合には、セカンドオピニオンを利用するのも、一つの手ですね。その際、担当医に診断記録の提出や紹介状などを書いてもらう必要がありますが、中には、患者さんからの申し出を快く思わない医師もいると聞きました。

渡邊

いるかも知れませんね。でも、優秀な医師ほど、そうは思わないでしょう。それどころか「ぜひ他の医師にも聞いてみて下さい」と逆に利用を勧めますよ。そのような優れた医師のもとに患者さんは必ず戻ってきます。

山田

がんは、手術、放射線治療、化学療法が治療の3本柱ですが、最近の治療技術の進歩に伴って、新しい治療法や薬も登場してきました。その分、患者さんには治療の選択肢が広がって、今まであきらめかけていた患者さんにも、希望の光が差し込んできたとも言えるのではないでしょうか。

渡邊

そう思いますね。例えば、手術の場合、これまではがん組織を取り残すことがないように、がんの病巣だけでなく、「リンパ節郭清」といって、まわりのリンパ節まで含めて切り取ってきましたが、今では、早期の胃がん、大腸がん、肺がんなどは、切除する範囲をできるだけ小さくする縮小手術が増えてきました。また、直腸がんや膀胱がんなどでは、臓器の機能をなるべく残す機能保全手術、さらに胃がんなどでは、お腹に小さな穴をあけ、腹腔鏡や内視鏡を使って遠隔操作で手術をするケースも増えてきました。前立腺がんなどでは、ロボットを使ってがんを摘出する手術も広がっています。こうした手術は、体への負担を軽くし、術後の回復も早いため、患者さんのQOLを保つためにも効果的で、今後ますます普及していくでしょう。

集学的治療が定着

山田

時代は変わりましたね。例えば、放射線治療にしても、以前ならがん細胞だけでなく正常な細胞にもダメージを与え、免疫力を下げる恐れがあるとして敬遠する人もいました。しかし、最近は切らずにがん細胞を殺すことができ、臓器の機能も残せるうえに、心身への負担も少なく、治療成績が格段に向上してきたこともあって、放射線治療を希望する人が増えてきた、と聞いたことがあります。

渡邊

確かに、昔の放射線治療は、後遺症が残り、副作用もありました。しかし、今の放射線治療は、その心配も減り、特に、先端医療の一つである重粒子線治療は、正常な細胞を傷つけずに、がん細胞だけを狙い撃ちします。その結果、体への負担も軽く、治療効果も高い。中でも前立腺がんや脳腫瘍に効果的で、私がもし前立腺がんになったとしたら重粒子線治療を選択肢に入れますね。それと、肺がんや肝臓がんのように呼吸に合わせて動く腫瘍の場合、その動きを追いかけながらピンポイントで放射線を照射する「追尾動体照射技術」も注目されています。

山田

それは、すごい。病巣だけに集中的に照射することができれば、治療効果は、確実に上がりますね。

渡邊

でも、重粒子線治療などの先端医療は、治療費が高いのと、治療ができる医療施設が少ないのが難点ですけどね。

山田

将来、重粒子線治療が保険適用になり、誰でもどこでも治療を受けられるようになれば、この治療を選ぶ人も確実に増えてくるでしょう。化学療法も、以前は脱毛や嘔吐などの副作用が問題でしたが、最近では最新の抗がん剤、分子標的薬の投与で、副作用もだいぶ緩和されたそうですね。

渡邊

ええ、分子標的薬も、がん細胞の増殖などに関わる分子を標的にし、正常な細胞は傷つけませんから、副作用もだいぶ少なくなりました。それでいて、治療効果も期待できますから患者さんには夢の新薬といってもよいでしょう。でも、最近は、より治療効果を高めるために、手術の前後に抗がん剤を使ったり、放射線治療と抗がん剤を併用するなど複数の治療法を組み合わせた「集学的治療」が一般的になってきました。

山田

そうしますと、例えば外科とか放射線科など、専門分野の壁を越えて情報を共有するなど、病院内でも各部門の連携が必要となりますね。

渡邊

そうなりますね。

注目される免疫療法

山田
がん治療 第4の治療法「免疫療法」

最近、手術、放射線、化学療法に次ぐ「第4の治療法」として免疫療法が注目されています。私たちの体の中に備わっている免疫の仕組みを利用してがん細胞を攻撃する治療法ですが、当社の関連会社である「免疫分析研究センター」も、病院と共同で「免疫細胞療法」の研究を続けてきました。がんの患者さんから採血し、取り出した(白血球の中の)リンパ球を漢方薬などの成分で活性化し、それを再び体内に戻してがんを治す研究でしたが、体調の厳しい末期がんの患者さんが対象でしたから、効果の測定も難しく、大変でした。

渡邊

そんな研究をされていたとは知りませんでした。免疫療法には免疫細胞療法のほかにも、ワクチンを注射し、体の中で免疫細胞を増やす「ワクチン療法」があります。いずれも患者さんに苦痛を与えない治療法ですので、一刻も早く実用化に向けて開発が進むよう期待しています。

山田

がんの治療法も増え、治療の選択肢も広がってきました。しかし、がんと診断された時、どの病院へ行って、どのような治療を受けたらよいかわからない人や、治療が受けられても納得できない人など多くの人が、「がん難民」となる恐れもあります。そうした難民を生み出す医療体制も問題ではないでしょうか。

渡邊

そうかも知れませんね。がんは人によって千差万別で、それぞれ性質が異なり、誰ひとり同じものはありません。だから、がんの個性、患者さんの体質や価値観などに合わせ、副作用の少ない投薬や効果的な治療を第一に考えるテーラーメード医療がこれからは主流になっていくでしょう。

渡邊 昌(わたなべ しょう)

1941年平城生まれ。医学博士。慶応大学医学部卒。国立がんセンター研究所疫学部長、東京農大教授、国立健康・栄養研究所理事長などを経て、現在生命科学振興会理事長。日本総合医学会会長。「食事でがんは防げる」など著書多数。