山田養蜂場運営の研究拠点「みつばち健康科学研究所」が発信する、情報サイトです。ミツバチの恵み、自然の恵みについて、予防医学と環境共生の視点から研究を進めています。

山田英生対談録
予防医学 ~病気にならないために~

第九回「がん発症に歯止めをかけるのは、自らの予防が重要です。」

重要なのは一次予防

山田

がんが増えてきました。日本人が一生のうちに、がんにかかる確率は約50%とも言われています。目覚しい医療の進歩で、約半数が治るとはいえ、残念ながら人類はいまだ、がんを克服できていません。やはり、がんは誰でも一番罹りたくない病気の一つと言われていますが、がんにならないためには、どうすればよいのでしょうか。

渡邊

日本のがん研究は、基礎研究においては欧米に比べ、けしてひけをとってはおりません。治療面も先端レベルは別として、ほぼ行き着くところまで行き着いていると言ってもよいでしょう。にもかかわらず、がんに罹る人は減るどころか逆に増えており、ここ数年の、死者数も年間約35万人を超え、一向に減っていません。こうなると、がんの増加に歯止めをかけるには、自分たちでがんにならないように予防することが大事になってきます。

山田

具体的にどんな予防法があるのですか。

渡邊

がん予防には、まず食生活や禁煙など日常の生活習慣に注意し、がんにならないようにする「1次予防」、健康診断などで早期発見し、早期治療に努める「2次予防」、再発や転移を防ぐための治療を行う「3次予防」の3つの段階がありますが、がんを食い止めるには、何といってもがんにならないための1次予防を強力に推し進めてゆくことが重要です。

山田

2次、3次予防は、がんになってから治癒を目指したり、進行を抑えるのが目的になりますから、私たちにできることは、がんになる前にがんにならないための1次予防に全力を尽くすことですね。

まず、タバコをやめる

渡邊

そうです。前回の対談で「がんは、日頃のライフスタイルしだいで予防できる代表的な生活習慣病の一つ」と言いましたが、私は、食生活や喫煙、運動、肥満、ストレスなどの生活習慣に気をつければ、約8割ぐらいのがんは、防げるのではないかと思っています。

山田

8割ですか。大いに希望が持てますね。

渡邊

その生活習慣ですが、食生活については次回で詳しく触れることにして今回は、それ以外について説明しましょう。がんになりたくなければ、何といっても、タバコを吸わないことです。タバコががんの原因となることは、これまでの動物実験や疫学研究によって明らかになっており、がんの原因の約3割が喫煙と言われています。それも、よく知られた肺がんだけではありません。タバコに含まれる発がん物質が、煙や唾液とともに体の中を通過する経路にあるすべての臓器、例えば、口腔・咽頭、胃、すい臓、肝臓、膀胱、子宮などががんになりうる危険性が出てきます。

山田

どんな物質が有害なのですか。

渡邊
まず、タバコをやめる

タバコには、タールやニコチン、一酸化炭素をはじめ4000種類以上の有害物質が含まれることがわかっています。発がん物質も、タールに含まれるベンツピレンなど200種類以上に上ります。こうした有害物質を含むタバコを吸う人のがんリスクは、吸わない人の数倍以上、特に肺がんは、吸わない人の約10倍にものぼり、1日40本以上のヘビースモーカーに至っては、20倍以上の危険性があるといわれています。しかも、喫煙者の肺がんは悪性度の高いがんになることもよく知られています。

山田

これほど怖いタバコなのに、依然多くの人がタバコを吸っているようですね。2年前のデータでは、成人男性の平均喫煙率は約39%、成人女性は約12%と聞きました。特に男性は、ピーク時の1960年代の約80%から比べれば、半減したとはいえ、まだ3人に1人以上は、吸っていることになります。過去最大の値上げ幅だった昨秋の値上げ以降も、思ったほどタバコ離れは進んでいないようです。喫煙者の4割が値上げを機に禁煙に挑んだようですが、その半数以上が1カ月と続かなかった、と新聞には書いてありました。予防医学、健康増進の立場から喫煙率低下への期待が大きかっただけに、とても残念です。

深刻な受動喫煙被害

渡邊

タバコを吸う人が徐々に減る中で、気になるのが、タバコを吸う20代、30代の若い女性が、多いことです。このまま、吸い続けるとしたら将来健康を害し、女性のがんを増やすことになりかねません。しかも、生殖への影響も考えられます。不妊の一因になったり、妊娠中に吸えば、早産や流産などの原因になることも広く知られています。「ファッション的にかっこいいから」、「やせたいから」と思って吸っているとしたら、考え直したほうがよいでしょう。タバコは、皮膚の弾力性を失わせ、しわを増やす元凶であり、美容にも大敵なのです。

山田

それと、問題なのは、他人のタバコの煙を吸わされる受動喫煙の被害ですね。ご存知のように、厚生労働省の研究班は昨年、受動喫煙が原因で肺がんや心臓病で亡くなる人は年間、国内で6、800人に上るとの推計を発表しました。この数は、交通事故による死者をも上回っています。しかも、被害者は、男性よりも職場や家庭の中で煙にさらされる機会の多い女性が4、600人と圧倒的に多いのです。タバコを吸って本人が健康を害するのは、自己責任から言って、ある程度仕方がないとしても、他人のタバコで健康被害を受ける非喫煙者にとっては、たまったものではありません。

渡邊

本当にそう思いますね。喫煙で発生する強力な発がん物質であるニトロサミンなどは、本人がフィルターを通して吸う「主流煙」に比べ、タバコの先端から立ち上る「副流煙」のほうに何十倍も多く含まれているから危険なのです。このような受動喫煙で肺がんになるリスクは1.5倍との報告もあります。家庭の中で、両親がタバコを吸っている子どもさんの被害も深刻ですね。山田さんの会社では、タバコを吸わない社員に「禁煙手当」を出していると聞きましたが・・・。

山田

健康食品の販売を通じ、お客さまの健康づくりをお手伝いする企業としての責任と、タバコによる社員の健康被害をなくすため、喫煙を止めた社員と元々吸っていない社員を対象に毎月、一律2000円を支給しています。お陰で、40代以降の男性を中心に禁煙する人が増えました。

渡邊

社員の禁煙を会社が後押しするという意味でも、実にすばらしい試みですね。

山田

今、日本でタバコを吸っている人が全員禁煙するとしたら、どのくらいがんが減りますか。

渡邊

2割ぐらいは減るでしょうね。今、がんに罹る人は、年間約70万人と言われています。このうち、2割、14万人が減るわけですから大きいですよ。タバコを吸っていてもいいことはありませんね。例えば、有害物質の一酸化炭素は、フィルターで吸っていても、取り除くことができず、そのまま、体の中に入ってきてしまいます。生涯、タバコを吸い続けると、たとえがんにならなくとも、ほぼ100%の人が、慢性呼吸器疾患である肺気腫になってしまいます。

山田

肺気腫といえば、息切れや呼吸困難に陥って、悪化すれば酸素ボンベも手離せなくなる怖い病気ですよね。喫煙は、がん、肺気腫などとの因果関係が医学的に証明されている以上、タバコのパッケージも欧米並みに厳しい表示にすべきだと思います。消費者にも、喫煙が招く病気のリスクを知る権利があるわけですから。

肥満もがんを促進

渡邊

喫煙対策一つとっても、及び腰の日本に比べ、アメリカは国をあげて、がん対策を強力に推し進めてきました。の低下に結びついたのです。

山田

日本もやっと、「がん対策基本法」ができたわけですから、喫煙対策にも国策として真剣に取り組んでほしいですね。ところで、肥満は、糖尿病や高血圧などとの関連がわかっていますが、がんとも関係がありますか。

渡邊

関連がはっきりしているのは、乳がんと大腸がんです。それと、子宮体がんも肥満の人ほど発症のリスクが高いと言われています。がんの発育には、栄養摂取量が関係していて、カロリーの摂り過ぎによる肥満は、がんの成長を促します。肉類など動物性脂肪をよく摂るようになった食生活の欧米化が肥満を招き、欧米に多い大腸がんや、乳がん、子宮体がん、前立腺がんなどに罹りやすくなっていることは疑いの余地がありません。

山田

では、がんにならないためには、どの程度の体重を維持したらよいですか。

渡邊

肥満度を表す指標であるBMIは、60歳くらいまでは22~23を保つのがよいと思います。そのためには、肉類や乳製品をできるだけ控え、がん抑制因子である新鮮な野菜と果物を毎日摂取し、ウォーキングなど適度な運動を心がけることが何よりも大事でしょう。特に運動は、がんを含む生活習慣病の改善に予想以上に効果があることを、自分が糖尿病になって初めて実感しました。こうした健康的な生活習慣こそ、がんを寄せ付けない予防法といってもよいのではないでしょうか。

山田

禁煙や運動に加え、野菜・果物中心のバランスのとれた食生活を心がければ、ある程度、がんを防げることがよくわかりました。やはり、がんにならないためにも、がんについてよく知ることが大事ですね。

渡邊 昌(わたなべ しょう)

1941年平城生まれ。医学博士。慶応大学医学部卒。国立がんセンター研究所疫学部長、東京農大教授、国立健康・栄養研究所理事長などを経て、現在生命科学振興会理事長。日本総合医学会会長。「食事でがんは防げる」など著書多数。