山田養蜂場運営の研究拠点「みつばち健康科学研究所」が発信する、情報サイトです。ミツバチの恵み、自然の恵みについて、予防医学と環境共生の視点から研究を進めています。

山田英生対談録
予防医学 ~病気にならないために~

第十一回「生活習慣と検診が、がんから命を守る二本柱です。」

早期発見が最善の道

山田

これまで、先生のお話を伺って、がんを防ぐには禁煙を守り、塩分や肉類をできるだけ控え、野菜や果物をしっかり摂りながら適度な運動をして肥満にならないように努めるなど、きちんとした生活習慣を守ることが大切だとよくわかりました。確かに、がんにならないのが一番ですが、2人に1人が罹る現実からいって誰も自分が、がんにならないとは断言できません。もし不運にも、がんになってしまったら、やはり早期発見し、早期治療を行うことが、がんに打ち克つ最善の道だと思います。その場合、検診が重要になってきますね。

渡邊

早期がんは、治癒の難しい進行がんに比べ、早めに発見し治療すれば治る確率は、非常に高いでしょう。その意味から言っても検診は、とても重要です。がん検診には、市区町村や企業の健康保険組合が実施する集団検診と、人間ドックなど個人が医療機関で受ける個別検診があります。集団検診で受けられるのは、原則として胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮がんの5つですが、最近は、PSA(前立腺特異抗原)検査による前立腺がんなどの検査を追加する市区町村も出てきました。集団検診の場合は、無料か一部の自己負担で受けられますが、人間ドックは、費用が割高です。でも、自治体の検診と違い、5つのがん以外にも、前立腺がんや食道がん、肝臓がんなどの検査を行っているところが多いようですね。

山田

がんの治療法では、いろいろな先進医療も登場し、治療の選択肢も増えてきましたが、検診のほうはいかがですか。

5年ごとの節目検診を

渡邊

検査方法には、食生活と関係の深い胃、大腸、肺、食道、肝臓、子宮、乳房などは、X線撮影や内視鏡検査、超音波検査のほか、病変部の細胞を採取して顕微鏡で調べる細胞診検査などが一般的でしょう。大腸がんでは便に混じる血液を試薬を使って調べる便潜血検査もよく行われています。最近では、X線を使って身体の断面を撮影するCT(コンピューター断層撮影)検査や小さながんまで発見できるPET(陽電子放射断層撮影)検査のほか、内視鏡検査では、従来のようにチューブを鼻や口から挿入する方法に代わって、カプセルを飲むだけで胃がんの検査ができる「カプセル内視鏡」も実用化されています。山田さんは、どのくらいのペースで検診を受けていますか。

山田

脳ドック、心臓ドックを含め少なくとも年1回は、人間ドックを受けるようにしています。

渡邊
30歳からは5年ごとに検診を受けましょう!

30歳からは5年ごとに検診を受けましょう!

ご家族のためだけでなく、山田さんは、多くの社員さんを預かる経営者でもありますから、それくらいの検査は必要だと思いますね。でも、がんは、年齢の倍数の4乗に比例して発症すると言われています。男性は40歳ごろから増え始め、60歳を境に罹患率が急上昇します。だから、検診にかかるコストや医療費も考えて男性は50、55、60、65、70歳、女性の場合はホルモンの影響で乳がんや子宮がん、卵巣がんは40代から50代にかけて発症しやすいので、30、35、40、45、50…という具合に70歳まで5年ごとに検診を受け、70歳以降は自然に任せるのがよいのではないでしょうか。

山田

5年ごとの節目検診ですね。しかし、日本の検診の受診率は、乳がん、子宮がんは約2割、他の胃がん、肺がん、大腸がんなども3割前後の人しか受けておらず、欧米に比べても、かなり低いと本で読んだことがあります。

渡邊

やはり、糖尿病の検査と同様に、がん検診も「忙しい」「面倒臭い」などを理由に受けない人が多いようです。でも、検診を受けなければ、そのままがんが進行し、助かる命も助からないケースだってないとはいえません。がんで命を落とさないためには、がんにならないための生活習慣を守ることと、早期発見・早期治療につなげる検診が、重要な2本柱になりますので、面倒がらずどんどん受けることをお勧めします。

山田

国も遅ればせながら2007年に「がん対策基本法」をつくり、その実現をめざす「がん対策推進基本計画」では、「2012年までにがん検診の受診率を50%以上に引き上げる」ことを目標に掲げています。やっと国も重い腰を上げたわけであり、期待してもよろしいのではないでしょうか。

渡邊

だといいのですが…。

がんは通院して治す時代

山田

がんも早期に発見し、治療を開始すれば、治る確率もかなり上がってきました。治療も、かつてのように手術の後遺症や副作用の強い抗がん剤などの影響で長期入院を余儀なくされるケースが減り、内視鏡や腹腔鏡を使った新しい治療法で体への負担も軽くなって、社会復帰も早まったと聞きました。今、がんは入院して治療する時代から、通院して治す時代に移りつつある、とも言われています。

渡邊

確かに手術でも、縮小手術や内視鏡、腹腔鏡手術が一般化し、かつてのように病変部とその周りのリンパ節などを広範囲に切除するケースが減りました。放射線治療でも患部を狙いうちにして周囲の正常な細胞を傷つけない治療法が浸透しつつあります。抗がん剤も分子標的薬などの登場で、以前のような嘔吐や脱毛などの副作用も少なくなり、働きながら通院して治療することも可能になったでしょう。入院して治療するか、通院しながら外来で治すかは、人によって意見の分かれるところですが、私は、働き過ぎだった人には、1~2週間の入院期間は体を休める格好の機会であり、仕事や人間関係などの煩わしさなども忘れて、しばらくの間、入院しながらじっくり治療に努めるのもよいと思いますよ。

山田

がんになる人が増える一方で、治癒する人の確率が上がれば、ふつうの日常生活を送りながら、がんを抱えて生きる人も増えることになります。治療を続けるうえで、やっかいな問題が、お金と働くこと。ある団体の調査によれば、がんになった場合、「心配なこと」として、「治療費」を挙げた人が72%と最も多かったという記事が新聞に出ていました。がんになれば、がんの種類、進行度、治療方法にもよりますが、手術、入院費だけでも数十万円かかり、高額療養費制度があるにしても治療が長引けば、抗がん剤代などを含め相当の額になってしまいます。

保険適用外の先進医療

渡邊

医療保険に入っていなければ、厳しいでしょうね。

山田

それと、治療費や入院費以外の、例えば差額ベット代や通院のための交通費、宿泊代などの治療外出費もばかになりません。このため、途中で治療の中断に追い込まれる人も珍しくない、と聞きました。さらに、がん細胞だけを狙い打ちにする重粒子線治療や分子標的薬などの先進医療を受けるとなると、保険は適用されませんから、びっくりするような金額を請求されるようです。がんになって心身とも辛い思いをしているのに、治療費の問題で悩むのは、本当にお気の毒です。

渡邊

そうかも知れませんが、例えば、先進医療の重粒子線治療がもし保険適用になり、1人の患者さんがその治療を受けた場合、国などの医療費支出も増え、その結果、多くのおじいちゃん、おばあちゃんたちが風邪薬さえもらえなくなる事態だってないとは言えません。ましてや、糖尿病や高血圧などの生活習慣病の人に影響が出るとしたら、公平性や社会正義の観点からいっても問題となるでしょう。実に難しい問題ですね。

山田

治療に費用がかかり過ぎれば、医療費を稼ぐためにも働かなければなりません。しかし、現実はがんに罹ったために解雇されたり、減収に追い込まれるケースもあると聞きました。働くことが好きで、仕事が生きがいの人も多いでしょう。がんは、その人の持っている個性の一つと考えることもできるのではないでしょうか。

渡邊

そのとおりです。がんは、もはや特別の病気ではありません。企業社会も人材の多様性の視点から考えるべきでしょうね。

代替医療に高まる関心

山田

最近、西洋医学に基づかない代替医療への関心が高まっている、と言われています。治療の柱にはならないものの、通常の医療をカバーする「補完代替医療」のことですが、とりわけ、がんの患者さんの間でよく使われているようです。代替医療には漢方やヨガ、鍼・灸、健康食品などいろいろありますが、厚生労働省研究班の調査では、がん患者の45%が代替医療を経験したことがあると答え、そのうちの96%が健康食品を挙げた、と新聞に載っていました。医師から「治療法がない」などと、言われた患者さんたちが、ワラにもすがる思いで、利用しているのでしょうか。

渡邊

そうでしょうね。がんの中でも、進行がんや再発、転移したがんは治療が難しくなります。こうした人たちが何とか「がんを治したい」「再発・転移を防ぎたい」との思いで利用されているのでしょう。がんも早期に発見し、早期に治療をすれば、9割以上が治るようになりました。かつてのように極度に恐れる病気ではなくなったとはいえ、依然怖い病気であることに変わりはなく、がんにならないよう予防することが一番です。幸いにも、がんを予防できる生き方が分かってきましたので、例えばタバコを止め、賢い食品選びをするなど予防のための生活習慣が何よりも大切です。本来なら、がんの減少を成功させたアメリカのように、国が国策としてやらなければならない問題ですが、それを待つことなく私たち一人ひとりが、がんにならないための食生活を今日から実行していく必要がありそうです。

渡邊 昌(わたなべ しょう)

1941年平城生まれ。医学博士。慶応大学医学部卒。国立がんセンター研究所疫学部長、東京農大教授、国立健康・栄養研究所理事長などを経て、現在生命科学振興会理事長。日本総合医学会会長。「食事でがんは防げる」など著書多数。