カリマンタン島の森で、メリンジョは「生命の樹」と呼ばれています
インドネシア・カリマンタン島(旧ボルネオ島)の深い森に住むダヤック人は、メリンジョを「生命の樹」と呼び、「生命の樹」の物語を代々語り継いできました。
遠い昔、人間は森の中でたくさんの動物たちと一緒に仲良く暮らしていました。しかし、ある日人間が動物の肉を食べてしまったことから、動物たちは人間と一緒に暮らすことをやめてしまいました。やがて、果実だけでなく動物の肉も食べるようになった人間に困った動物たちは、森のすべての果実を取り去り、その結果、人間は食料を失い、争いを始めます。
そのころ、南の国から一人の王が小さな姫を連れて、ガルーダ*を従え島に渡ってきました。姫はガルーダに乗り楽しく暮らしていましたが、蛇にかまれて亡くなってしまいます。姫の死を悲しんだ王は、ガルーダに言いつけ、蛇を襲って食べさせました。すると、蛇の体から3つの玉が出てきました。王が供養のためにその玉を姫のお墓に供えると、玉から芽が出て見る間に大木になり、たくさんの実が成るではありませんか。王はこの木をあちこちに植えるように命じ、人々はその木の実や葉を食べて命をつなぐことができました。
この木が、「メリンジョの木」なのです。
このことから、ダヤック人はメリンジョを「生命の樹」とし、彼らが勇敢で長生きできるのは、この実のおかげだと信じています。
*ガルーダ:インドネシアの神話上の鳥。伝説の中に知識や勇気、忠誠などの美徳を象徴する神聖な鳥として描かれ、インドネシアの国章になっている。
インドネシアを原産とするメリンジョは、イチョウと同様の雌雄異株の裸子植物です。しかし、一般的に裸子植物が仮導管、被子植物が導管をもっているのに対して、メリンジョは導管をもっています。また、裸子植物はふつう風媒ですが、メリンジョが属するグネトゥム科は虫媒という特徴があります。これらのことから、メリンジョは、裸子植物と被子植物をつなぐ中間的存在と考えられています。
メリンジョは円錐形の樹木で高さは5メートルほどですが、なかには20メートル近くまで成長するものもあります。葉は幅3センチ、長さ10センチの濃い緑色で大きく対生し、実は長さ2センチの長楕円形で房状につき、オレンジ色や赤色の実の中には大きな種が一つ入っています。
メリンジョの実の収穫時期は5月から7月、10月から12月の1年に2回。ドングリほどの大きさの種は炭水化物やタンパク質が豊富で、ポリフェノール(特にレスベラトロール二量体)を多く含んでいます。
学名:Gnetum gnemon Linn
和名:ユミヅルノキ
門:種子植物
副門:裸子植物
綱:Gnetinae
目:Gnetales
科:Gnetaceae
属:Gnetum
種:Gnetum gnemon (melinjo)
メリンジョは、インドネシア・ジャワ島やカリマンタン島、スラウェシ島などの農村地帯や山村地帯で、家の庭先や畑のまわりに、また街路樹としても植えられています。ジャワ島では一家を構えると必ずメリンジョの木を1本植え、その実や葉を食料として利用してきました。栽培も昔から行われ、農家が収益を得るための作物の一つでもあります。
市場にはメリンジョの実がうず高く積まれ、スーパーマーケットではパックに入ったものが並ぶなど、メリンジョの実は一般的な野菜として流通しています。家庭だけでなくレストランのメニューにもある野菜スープ「サユル・アサム(sayur asam)」には、旨味やこく味を出すためにメリンジョの実を入れています。
さらにメリンジョの種はスナック菓子の「ウンピン(emping)」に加工されています。メリンジョの種を叩いてつぶし、乾燥させてから油で揚げたほのかな苦みのあるチップスで、スープや炒め物などと一緒に食べるほか、おつまみやおやつとしても食べられています。スーパーマーケットでは、油で揚げたものや乾燥させたものが袋入りで売られ、町の駄菓子屋の店先ではビンに入って量り売りされているウンピンを見ることができます。
また、インドネシアの結婚式では招待客にウンピンを出す習慣があり、インドネシアの人たちはウンピンが出されると歓迎されていると感じるそうです。
ジャワ島中部では、農民の娘が病気で寝たきりの母親に栄養価の高いメリンジョの赤い実を食べさせたところ回復したという話が語り継がれており、“メリンジョは人間に命を与えてくれる”という伝承があります。ダヤック人が伝えてきた昔話でメリンジョを『生命の樹』とし、長寿と勇敢さの素と考えられているように、インドネシアではレスベラトロールを含むメリンジョの実や種に、滋養の働きがあると信じられてきました。
インドネシアの家庭には、必ずと言っていいほどウンピンがあり、子供のおやつばかりでなく、人が集まるとウンピンがテーブルに出されお茶を飲みながらみんなでつまみます。
お腹を満たすだけでなく、疲れをためず元気に生活するために、インドネシアではメリンジョやメリンジョのチップス・ウンピンは欠かせない常備食です。また、便秘の解消にも良いといわれ、重宝されています。
熱帯性の気候に属し、1年が雨季(10月~3月)と乾季(4月~9月)に分かれており、年間を通して高温多湿のインドネシア。この厳しい気候のもと、現地の人はメリンジョを食べてエネルギーを蓄えています。
メリンジョの栽培地域は、ジャワ島を中心にカリマンタン島やスマトラ島、スラウェシ島などの主要な島々をはじめインドネシアのほぼ全域に広がっています。メリンジョ種子の生産量は、ここ数年25万トン前後を推移しています。
現在、メリンジョは広い圃場で計画的に栽培されてはいません。そのため、インドネシアでは農業省とインドネシアのNPO法人ASMELINDOが中心となり、荒畑や休耕田、山間部の伐採地を栽培地として確保し苗木を植えるプロジェクトを進めています。
成分 | 含量(%) |
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エネルギー タンパク質 炭水化物 脂質 灰分 水分 |
307kcal/100g 7.6 68.7 0.2 5.2 10.7 |
ポリフェノール(レスベラトロール類) | 7.6 |