山田養蜂場では、「伝統的に食されてきた天然成分によって病気になりにくい身体をつくる」という予防医学の観点から、ローヤルゼリーやプロポリス等の養蜂産品に加えて、世界各地の健康素材について研究を行ってきました。
その中で、インドネシアで「生命の樹」と呼ばれ、伝統的に食されている「メリンジョ」と巡り会ったのです。
メリンジョは、インドネシア原産のグネトゥム科の樹木植物で、5メートルから20メートルほどの高さ、長さ10センチメートルほどの濃緑色の葉と、長さ2センチメートルほどの長楕円形の実を房状に付けます。メリンジョの実は、熟れるにしたがって、緑色から黄色、オレンジ色、赤色と変化し、実の中には大きな種が一つ入っています。実の収穫は、機械ではなく、人の手で、熟した実だけを摘み取ります。
山田養蜂場は、日本ではまだ馴染のない「メリンジョ」が、インドネシア現地で、どの様に食べられているのか、また人びとの健康にどの様に影響しているのかを調査することにしました。
インドネシアの中でも、メリンジョの摂取量に違いがあり、メリンジョがよく食べられているジャカルタのマジャレンカ村に注目しました。マジャレンカ村の平均寿命は、インドネシア全体の平均寿命より10年ほど長いという、興味深い調査報告があり、この村を訪問することにしたのです。
マジャレンカ村ではまず、村人たちの食生活を知るために、家庭の食卓を調査しました。マジャレンカ村の家庭では、メリンジョの実から種を出して、煎り、金づちのような道具で叩いて潰し、油で揚げた「ウンピン」や、メリンジョの実や若葉を煮込んだスープ「サユール・アッサム」が、日常的に食べられていました。また、村人たちが集う市場では、ウンピンが、生や、油で揚げたり、味付けして、売られていました。
さらに、マジャレンカ村の人びとに協力を募り、メリンジョの摂食量と健康との関係を調べるために、健康診断を行いました(武庫川女子大学 国際健康開発研究所との共同研究)。その結果、メリンジョの摂取量が多い人ほど、収縮期血圧および拡張期血圧が低値であることがわかりました。メリンジョの食習慣が、インドネシアのマジャレンカ村の人びとの高血圧のリスクを低減し、健康や長寿をもたらしているのではないかと考えられます※1。今後、メリンジョ摂取の有用性についての科学的な検証を続け、またメリンジョの品質や収穫量、生産体制などの詳しい情報を知るために、さらなる調査が必要です。そこで、インドネシア環境庁長官を訪ね、面会して、政府と民間双方の協力体制をつくっていくことを約束してもらいました。
車を走らせていると民家の庭先に生えているメリンジョの木を見つけました。思わず車を降りてメリンジョの木を見上げ、実がなっているか観察していると、村の人が真っ赤に熟れた実のついた枝を持ってきてくれました。メリンジョの実を生でかじると、独特の渋味がありました。
メリンジョの種には、健康寿命を延ばしたり、メタボリックシンドロームの改善といった有益な健康効果が報告されているレスベラトロールやその二量体のグネチンC、グネチンCの配糖体のグネモノシドA、グネモノシドD等が豊富に含まれることが判ってきており、これらは総称して「メリンジョ由来レスベラトロール」と呼ばれます。渋味はこのメリンジョ由来レスベラトロールによるものだと考えられます。
今回の旅では、インドネシアではメリンジョに豊富な食経験があることを目の当たりにし、また健康診断の結果から、メリンジョの摂取量と現地の人びとの健康状態には相関があることが期待されました。
ぜひメリンジョ由来レスベラトロールを日本でも人びとの健康に役立てたいと強く思いました。山田養蜂場では、植物の生命力の源である「種」には、きっと人にとっても有用な力が秘められていると期待して、メリンジョ由来レスベラトロール研究の発展を推進してまいります。