山田養蜂場運営の研究拠点「山田養蜂場 健康科学研究所」が発信する、情報サイトです。ミツバチの恵み、自然の恵みについて、予防医学と環境共生の視点から研究を進めています。
“毒”というだけで、よくない印象を与えてしまう「蜂毒」。刺されて痛い、ハチは怖いというイメージはここから来ているのかもしれません。みっちの心配に、ハチロー博士は、蜂毒の健康への意外なちからについて教えます。
みっち: | あ~あ、やっぱりミツバチってこわい生き物なのかしら。はちみつとかローヤルゼリーとか、たくさんの贈り物をくれているのに…。 |
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ハチロー博士: | みっち、蜂毒も、ヒトの役に立つことがあるのを知ってるかい? |
みっち: | えっ?そうなの? |
ハチロー博士: | 昔から「蜂針療法」が行われているよ。専門の療法士が、ミツバチのお腹から抜いた針を、ピンセットでの体のツボに刺すんだ。 |
みっち: | 蜂毒をヒトの体にわざわざ入れるということ? |
ハチロー博士: | そう、蜂針療法は、蜂毒の有効成分を利用したものだ。蜂毒の成分には、本来ヒトの体内にあるものも多くあり、それらが体内で作用するといわれている。また、刺した部分は充血したり腫れたりするので、温灸のような働きもあるとされているんだ。使うのは、刺されるときよりも少ない量だよ。 |
みっち: | それは、日本で行われているの? |
ハチロー博士: | うん、日本でも1920年ごろから行なわれているよ。日本以外にも、現在わかっているだけで世界10か国以上の国々で行われている。特に中国では中医学の病院内に「蜂針科」という診療科が設けられていたり、蜂針療法の専門病院もできているほど盛んだ。 |
みっち: | すごい。蜂毒を使った治療…知らなかったなぁ。 |
ハチロー博士: | 昔の中国の文献では、蜂針療法の機能として、体の機能を調節して、病気への抵抗力を高めるとされている。最近では、いろいろな症状の代替療法のひとつとして使われているよ。 |
みっち: | わたしたち人間の健康のために、ミツバチのいのちの力を使わせてもらっているということね・・・。 |
ハチロー博士: | そのとおり。ミツバチって、何だか、けなげで、愛おしいと思わないかい? |
蜂毒を治療に利用する「蜂針療法」は、ミツバチが針の根本の「毒嚢」の中にもっている、わずか0.02mgの毒液を利用したもの。ごく少量の毒液を体内に入れることによって、ヒトの免疫力を引き出し、痛みや化膿を軽減するというこの療法、古代エジプトやバビロニアでは早くも紀元前2000年頃から行われていたといわれています。紀元前460~181年頃にギリシャで活躍した“医聖”ヒポクラテスも、蜂毒について記載した文献を残しており、そのちからは注目されていたようです。蜂針療法に用いられるのは、セイヨウミツバチの、羽化してから20日以降の働きバチ。元来日本に棲んでいる「ニホンミツバチ」では、毒液が半分~3分の1程度しかなく、蜂針療法には不向きとされています。
セイヨウミツバチが初めて日本に輸入されたのは明治10年(1877)のことであり、日本で蜂針療法が始まったのは大正9年(1920年)頃のことです。現在、蜂針療法は、日本以外では中国、韓国、台湾、フィリピン、マレーシア、インドネシア、エジプト、ロシア、イギリス、ポーランド、ドイツ、アメリカ、ブルガリアなど世界各国で広く行われており、長い歴史をもつ代替療法として、ヒトの健康に役立てられています。