蜂蜜の歯石予防効果

紀元前から、私たち人間の身近にある“蜂蜜”。
ここでは、“美味しい”に留まらない蜂蜜の奥深さに、
最新の科学をもって迫ります。

蜂蜜の歯石予防効果

長寿大国であっても多くの高齢者が歯を失っている

日本が世界に冠たる長寿大国であることは広く知られていることでしょう。実際、厚生労働省の報告によると、2011年時点での日本の平均寿命は、女性が85.90歳(世界第2位)、男性が79.44歳(世界第8位)で、高い水準を維持しています※1
しかしながら、豊かな食生活に必要不可欠な歯(永久歯)の寿命となると、女性が49.4~66.2歳、男性が50.0~66.7歳で、平均寿命と比べて20年以上も短いのです※2。人生の晩年を、歯を失って過ごすようでは、いくら長寿大国といえ、誰もが健康長寿を謳歌しているとは言えません。寿命を全うするその日まで、自分の歯で美味しいものを食べ続けたいものです。
歯を失う2大原因とされる虫歯と歯周病は、歯の表面に付着するヌルヌルした歯垢と、歯垢が石灰化して生じる歯石に吸着貯蔵される毒素(骨吸収因子を含む炎症物質)が原因です。したがって、日々のお手入れによって歯垢や歯石をできにくくし、取り除くことが歯の寿命を延ばす条件と言えます(図1)。

図1   はちみつの歯石予防効果を示すイメージ図

そこで、福岡医療短期大学歯科衛生学科の日高三郎教授は、山田養蜂場との共同研究により、蜂蜜に歯石の形成を予防する効果があるかどうかを調べました※3
日高教授は、歯石が形成される条件を試験管内で再現する「pH低落法」を独自に考案して、蜂蜜の効果を調べられました。
歯石は唾液から供給されるリン酸とカルシウムから生じるリン酸カルシウム塩ですが、その代表がハイドロキシアパタイトといわれる結晶です。pH低落法ではリン酸溶液とカルシウム溶液を混合すると、第1のpH低落が起きます。この第1のカーブから無定形リン酸カルシウム形成速度を求めます。続いてpHの変化のない状態(誘導時間)があり、やがて第2のpH低落が起きます。この第2のカーブによって、無定形リン酸カルシウム(非晶性)からハイドロキシアパタイト(結晶性)への転換反応速度を決めることができます(図2)。歯石形成に関してはハイドロキシアパタイトへの転換反応速度が何も加えていない対照と比較して、蜂蜜を加えた時の方が速度が遅くなれば、歯石形成に対し抑制的と評価できるのです。

図2   ハイドロキシアパタイトの形成(イメージ図)

抗歯石剤に匹敵する歯石予防効果を確認

日高教授らは市販されている20種類の蜂蜜の歯石予防効果を調べました。
試験に用いた蜂蜜の原産国は日本だけでなく、アメリカ、メキシコ、中国、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランド、ルーマニアに及び、蜜源植物もニセアカシア、ローズマリー、クローバー、ユーカリ、ペパーミント、ラスベリーなど多種多様です。
比較対照として、一般的な歯磨き剤に添加されている抗歯石剤のエチドロン酸を加えた測定も行い、蜂蜜の歯石予防効果と比較しました。

図3   各種のハチミツにおける歯石予防効果の比較

試験結果を図3に示します。縦軸はハイドロキシアパタイトへの転換反応に関する蜂蜜添加の対照に対する減少(%)を、横軸はその誘導時間の増加(比)を示しています。例えば、グラフに向かって一番右側に位置している「10.ペパーミント蜂蜜」を加えたときには、ハイドロキシアパタイトへの転換速度が対照の約20%にまで抑えられ、誘導時間は、蜂蜜やエチドロン酸が加えられていない条件における誘導時間の約20倍も長くなったということです。この試験によって、20種類の蜂蜜のうち10種類に、エチドロン酸と同程度に、ハイドロキシアパタイトの形成を抑える効果があることが明らかとなりました。つまり、これらの蜂蜜には、歯石の形成を予防する効果があると考えられます。さらに、ハイドロキシアパタイトの形成を抑える作用は、濃い黄色の蜂蜜は中程度、暗色や褐色の蜂蜜は強いという傾向が示され、蜂蜜の色と歯石予防効果に相関関係がある可能性が示唆されました。

効果が認められた10種類の蜂蜜(甘露、ローズマリー、ペーターソンカース、ユーカリ、ラベンダー、ベニバナ、ペパーミント、コーヒー、レンゲ、百花)は、歯の寿命を延ばす成分のひとつとして、今後、歯磨き剤やマウスウォッシュ(洗口剤)への応用が期待できます。

参考文献
※1
厚生労働省, 平成23年簡易生命表
※2
厚生労働省, 平成11年歯科疾患実態調査
※3
Journal of Periodontal Research 2008; 43: 450-458

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