ミツバチが、自らの巣を守るために利用している
防御壁“プロポリス”。
ここでは、その様々な機能について、
科学的な根拠を基に説明します。
真菌(カビ)の感染による皮膚炎には水虫や頭部(とうぶ)白癬(はくせん)、癜風(でんぷう)があります。これらは、完治しにくく再発しやすい厄介な疾患です。例えば、日本人にとって身近な皮膚炎である水虫(足白癬)の治療には、日々の衛生的なケアが欠かせない上に、原因菌を殺菌するため、抗真菌薬を含む軟膏等を長期間使用しなければなりません。衛生環境の良くない熱帯地域では事態は一層深刻で、児童や若者で頻発しており、重点的な対策が求められています。
ミツバチ産品は、紀元前から民間薬として利用されてきました。中でもプロポリスや蜂蜜は、感染症や創傷の治癒を促すための伝承医薬として用いられ、さらに、試験管内試験や動物試験の結果から、抗カビ・抗菌効果を持つことが報告されています。熱帯地域では、抗菌薬の入手は難しく、比較的入手しやすいと考えられる蜂蜜が、ヒトにおいて抗真菌効果をもつことを科学的に立証できれば、真菌性の皮膚炎に悩む世界の人達の一助になることが期待できます。
そこで、長年、アフリカ中央部に位置するコンゴで医師として子供の皮膚疾患の治療に携わってこられた、高知大学大学院のンガツ・ランドゥ・ロジャー氏らの研究グループは、プロポリスと蜂蜜が、コンゴの子供に発症した真菌性の皮膚炎(頭部白癬、癜風)を改善する効果を示すかどうか研究を行いました。
試験では、真菌性皮膚炎(頭部白癬、癜風)を持つ子供・242人をランダムに5グループに分け、各々の患部に、50 mg/mlブラジル産プロポリス抽出物(以下、50 mg プロポリス)、100 mg/mlブラジル産プロポリス抽出物(100 mg プロポリス)、100%アカシア蜂蜜(蜂蜜)、抗真菌薬ミコナゾールを2 %含むクリーム(ミコナゾールクリーム)、または、ワセリンクリームのいずれかを28日間塗布し、真菌性皮膚炎の症状が改善されるか検討しました。ミコナゾールクリームは真菌性皮膚炎に対する治療効果を発揮し、ワセリンクリームは症状にまったく影響を与えないことが前もって分かっていますので、それらの作用と比較することによって、プロポリスと蜂蜜の効果がどの程度であるかを測ることができます。
診察は塗布前、および、塗布10日目、14日目、21日目および28日目に行い、皮膚炎の主症状である、痒み、紅斑(赤み)、落屑(表皮の剥がれ)等の変化を追跡しました。試験期間中54人が参加を中断したため、最終的に188人の結果で評価を行いました。
まず、痒みに対する改善効果の結果を図1に示します。
ワセリンクリームを塗布したグループ以外の、50 mg/ml プロポリス、100 mg/ml プロポリス、および蜂蜜を塗布したグループでは、日を追うごとに痒みの程度が軽減しました。その効果は、ミコナゾールクリームを塗布したグループと同じ程度でした。
次に、紅斑および落屑に対する改善効果の結果を、図2、図3に示します。
いずれも痒みへの効果と同様に50 mg プロポリスクリーム、100 mg プロポリスクリーム、および蜂蜜をそれぞれ塗布したグループで、ミコナゾールクリームを塗布したグループと同程度の症状の改善が見られました。
以上の結果から、ブラジル産プロポリスおよびアカシア蜂蜜には、真菌性皮膚炎を改善する効果があることが分かりました。また、試験期間中、ブラジル産プロポリスやアカシア蜂蜜による副作用は認められず、高い安全性も確認されました。
これまで、プロポリスや蜂蜜の抗真菌作用、抗炎症作用は、試験管内試験や動物試験の成果として数多く報告されていました。しかし今回は、ロジャー氏らが実施した科学的な信頼性の高いヒト試験により、プロポリスと蜂蜜を塗布することで、ヒトの真菌性の皮膚炎の症状が改善することが明らかになりました。治りにくい真菌性皮膚炎に対して安心して使うことができるという、ミツバチ産品の新たな可能性が示されたと言えます。
今回、プロポリスや蜂蜜が副作用なく高い皮膚疾患改善作用を発揮するとの新たな可能性が示されました。高価な薬が一般的ではないコンゴ民主共和国で、国民の生活の質を高めることを期待しています。
Nlandu et al., European Journal of INTERRATIVE MEDICINE (2011) Nlandu et al., The Journal of Alternative and complementary Medicine, 18(1), 1-2 (2012)